平成21(2009)年に、政府がとりまとめた経済危機対策において提唱された「スクール・ニューディール」において、文部科学省が掲げた「ICTに関する環境の整備」に関して、通達時期の遅れや独自の整備計画との食い違いから、本県は全面参加を見送り、環境整備が全国よりも遅
れることとなった。それが、教員のICT活用能力にも表れ、文部科学省の調査においても長らく低迷することとなった。
令和元(2019)年12月19日、国は、文部科学大臣を本部長とする「GIGAスクール実現推進本部」を設置し、奈良県においても、同年12月23日に臨時教育長会を開催し、遅れた現状を変えるために県域で調達を行うことを宣言、令和2(2020)年度には県内全教育委員会が協力して、全
国に先駆けてネットワークの整備と児童生徒1人1台のデバイスの共同調達を行った。同時に、県教育委員会が主導して県域公用アカウントを普及させ、その結果、教員の意識にも変化がみられた。これは、平成23(2011)年度に発足した奈良県域情報教育・環境整備担当者連絡協議会がもとになって、平成30(2018)年度から国の事業として実施した統合型校務支援システム導入実証事業で設置した奈良県域統合型校務支援システム運営協議会を組織替えして、奈良県GIGAスクール構想推進協議会が発足したことで、県域で、GIGAスクール構想を推進するための体制が整ったことが背景となっている。
その成果により、教員自身のICT活用に対する意識が高まり、指導力は伸びているが、より高度なスキルが求められることにより、自身の力量を相対的に低く見る傾向が強くなっている。
これまでは学校のセキュリティ確保のために、ネットワークを分離するという運用が行われてきた。これは導入当時安全性を高める効果はあったが、利便性の面ではPCを複数台持って業務を切り分けて行うなど不利益をもたらした。現在、高度化するサイバー攻撃に対して、この境界分離型のアプローチでは十分な安全性を確保することができない点が問題になっている。この状況は、利便性と安全性の両方を損なっている。
そこで、奈良県では、文部科学省の推奨する校務系と学習系のシステムを統合していくという方針に従い、アクセス制御にて安全性を確保するゼロトラストネットワークの構築を行っていくものとする。境界分離型は、悪意のある者が境界を突破した場合、内部での検出が困難であった
のに対し、ゼロトラストネットワークではクラウド利用のすべてに対してアクセス制御を行っている。これにより利便性と安全性の両方を確保する。
市町村立学校においては、ゼロトラストネットワークに移行済みの自治体もあれば、ネットワークやデバイスの更新を迎えていく時期にゼロトラストネットワークへの移行を計画している自治体もある。デバイスの扱いに関しても、ロケーションフリーで活用することを前提に整備し
ているが、自治体や学校の実態に応じて、学校や自宅での利用はさまざまである。
県立高校においては、BYODによるデバイスの導入や電子黒板の設置を進めており、今後も、経済的な支援や故障時の対応に十分配慮し、より一層充実した教育活動を行うことができる環境の整備を推進していく必要がある。
令和4(2022)年に、県及び全市町村が参加した「奈良県域GIGAスクール運営支援センター事業」を立ち上げ、それぞれの専門家の知見を生かした運営ができている。これにより、県立学校、市町村立学校ともに、教育を取り巻く環境の変化への対応が可能となり、多忙な教員の業務
の改善や授業にICTを活用して指導する能力の向上につながることが期待できる。県域で学校をサポートするためには、以下の体制をそれぞれで整えながら連携していく必要がある。
教育活動のデジタル化によって生じる課題は、人の技術レベルに関わらず常に存在するため、教職員が必要なタイミングで、高度な技能をもつ技術者又は専門家から適切な支援を受けられるようにすること。
アカウント制御によるクラウド活用の重要性が増していくため、アカウント、アプリ、端末制御等については、教職員、保護者への十分な説明と、専門家による管理、第三者による評価ができる体制を整えること。
県域で導入している共通基盤のGoogle Workspace for Education の活用、学校ホームページや各種研究会の情報発信をGoogle サイトで行う力の育成、教職員や児童生徒が安全安心に教育活動を行うための、教育情報セキュリティポリシーやゼロトラストネットワーク等の内容を理解するために、適切かつ効果的な教員研修を行うこと。
運営支援センターのポスターを、各学校に配布
デジタル庁の示した「教育データ利活用ロードマップ」等を踏まえ、大学教員等の専門家・研究者と共同で教育データを利活用するための体制を整え、ネットワークやデバイスの運用管理・支援を行うこと。
各種の教育課題に対応するため、適切なアプリを開発したり、既存のシステムをアップデートするなど、専門的な技術者等を含むスタッフを配置すること。単独で配置が難しい場合は、協力できる体制や運用方法を検討すること。