信州大学 工学部
食・農産業の先端学際研究会
Advanced Disciplinary Research for Food and Agriculture Industrial Development
Advanced Disciplinary Research for Food and Agriculture Industrial Development
研究内容や研究成果の一部をご紹介致します.
信州・長野県には古くから伝承されてきた独自の地域資源が数多く存在します.これらの伝統的な地域資源を,これまでには無かった新しい組み合わせにすることで新規な機能性食品を開発することができます。「発酵キョウバク」は,「ソバ」と「漬け物」という地域資源の新しい組み合わせで創り出した高血圧予防食品です.
「発酵キョウバク」は,ごく少量で効果を発揮するため,安価で多くの人に利用してもらえる高血圧予防食品として実用化を目指しています.現在,日本だけでなく世界的な高齢化が進行しています.高血圧患者は,日本では4730万人,世界では10億人以上と推計されていますが,今後,世界的な高齢化によって,高血圧患者はますます増加します。高血圧は,脳溢血や心臓病など重大な病気の危険因子です.「発酵キョウバク」で高血圧を予防できれば,これらの重篤な病気が予防できます.
健康長寿社会の実現は,今や世界的な課題です.信州発の新しい高血圧予防食品で健康長寿社会に貢献したいと考えています.
信州・長野県では,実だけでなくソバの茎や葉も古くから食されてきました.すんき漬は,塩を使わない信州の伝統的な乳酸発酵食品です.ソバスプラウトをすんき漬の製法で加工したソバの漬物「発酵キョウバク」は,信州の地域資源を組み合わせた新しい高血圧予防食品です.
特徴:
気熱式減圧乾燥機を使用
乾燥温度を45℃(インベルターゼ活性が最大)とし、途中蒸らし工程を導入
天日乾燥で30~40日要するが、本製法では5~8日で乾燥終了
製法特許査定(長野県農村工業研究所と共願)
ブランドを守ることは革新(Innovation)の連続
他の果実や野菜、きのこの乾燥にも応用可能
ホウレンソウなどの軟弱野菜は人手による収穫でも茎が折れるなどの繊細な野菜です.従来の自動収穫装置ではホウレンソウを挟み込むなどの方法を用いていたために,商品価値を損なう場合が有りました.これに対して,土中における根切り刃の正確なフィードバック制御技術と把持を伴わない収穫を実現する受動的ハンドリング技術によって,ホウレンソウを傷つけずに自動回収できる技術を開発しました.この技術は,野菜を傷つけずにハンドリングする技術として応用展開可能です.
農業(アグリカルチャー)に関する情報を収集する様々な小道具(ガジェット)を開発し,より知的で効率的,かつ持続可能なスマート農業の実現を支援します.写真はスマートフォンで農作物の表面色を分光分析するガジェットです.生育段階を特定して手軽な収穫適期調査の実現をめざしています.
四季成り性品種'信大BS8-9'の特性
真夏の高温期でも糖度が高く、味が濃い
白ろう果が発生せず,うどんこ病に強い
栽培マニュアルに従って栽培管理を省力化
果実品質が高く草勢が強いため周年栽培も可能
本研究の概要
現状の課題:夏秋どり作型に利用される四季成り性品種は,促成栽培の一季成り性品種に比べ糖・有機酸含量や着色などの果実品質が著しく劣っています.これまで夏秋どり栽培に適していた高緯度・高標高地域にあっても、近年は高温による収量減と可販果率の低下が現れてきています.一季成り性品種の促成作型と四季成り性品の夏秋どり作型に2極分化していて,周年栽培体系は存在しません.
提案
四季成り性でありながら果実品質の高い'信大BS8-9'が育成されたので、現状の課題を打開する品種として選定し、東北・北海道および中部高冷地での安定供給モデルを構築しようと考えています。
期待される効果
夏秋季においても輸入に頼らない国内のイチゴ生産体制が確立出来ると思います.高品質イチゴの大量生産によって,夏秋季のイチゴ生食の新たな需要が生まれます.夏秋どりイチゴ生産地帯でのこれまでにない周年生産が実現するでしょう.
これまでのイチゴ栽培は図のように促成栽培と夏秋どり栽培にはっきり分かれていて,それぞれ利用される品種が全く違ったタイプです.促成栽培で利用される品種は高品質のものが多いですが,残念ながら1年中花を咲かせることはできません.一方,夏秋どり栽培で利用される品種は1年中花を咲かせることはでき来ますが,品質は促成栽培品種に比べると劣ります.そこで,この両方の利点を備える新品種「信大BS8-9」を使って周年栽培しようとしています.
建築環境工学的視点から温室内の温湿度をコントロールした.対象は,温室内温度,湿度,培地温度であり,いずれも農業の低炭素化を目指して,地下水(年間を通じて16℃)を汲み上げ,ヒートポンプで熱交換を行い,温室内で利用した.秋からの運転で冬を越えた現時点で,外気温度,湿度にかかわらず室温,培地温度は想定の温度20℃に対し15℃~23℃を維持している.ハウスは断熱性,気密性が低い建物であるため,夜間,外気温が下がると影響を受けているが,イチゴの栽培には十分な気温を保持している.
温室内の環境測定
ハウスの状況を信州大学農学部(南箕輪),工学部(長野市)でも監視するために,遠隔監視システムを構築した.システムで監視しているセンサーは,地下水温度センサー5カ所,ハウス内室温5カ所,ハウス外気温1カ所,土壌温度6カ所,養液温度12カ所,ハウス内湿度3カ所,ハウス外湿度1カ所,日射センサー2カ所(外部・内部)CO2 センサー1カ所である.これらのデータは携帯電話の回線を利用して,インターネット上に上がり,外部のパソコン,スマートフォンでモニタリングできる.現時点で順調に監視している.
温室内の画像監視
ハウス内の状況を目視で確認するために監視カメラを設置している.カメラは全貌を監視できる位置に置き,データはインターネットに乗せることで,外部から監視できるシステムになっている.現時点では監視は毎時正時の撮影をしている.また,カメラは一般的な監視カメラではなく,市販一眼レフカメラを用いているため,極めて高精細であり,後から詳細な観測をするためにズームアップをした時も画像の鮮明度は高い.
農水省の「攻めの農林水産業の実現に向けた革新的技術緊急展開事業」の採択を受けて,2014年度から2015年度までの予定で「施設園芸栽培作物の低コスト・高品質・周年安定供給技術の確立」を実施しました.局所加温・冷却方式を用いた地下水熱源ヒートポンプシステムが組み込まれた最新式農業ハウスが安曇野市三郷に建設され,厳しい冬の寒さを見事に乗り越えたイチゴとトマトが収穫されました.
信州大学工学部は長野市と連携し,社会人・大学院生を対象に,地域食品産業分野での技術革新を担う人材の創出により地域経済の活性化を目指す人材養成プログラムに取り組んでいる.同プログラムでは,農産加工実習や課題研究を通して,大学のバイテクやプロセス技術のシーズを駆使し,長野県産素材に拘り,健康で美味しい高付加価値食品の商品開発を進めている.
トウガラシやソバをはじめとした農産物資源の遺伝学的,育種学的な研究を実施しています.我々の農学的、生物学的な研究結果が工学的分野と融合して大きな結果を生むことを期待しております.