DAS04_1_4Hachiya_j

CRESTプロジェクト

デバイスアートシンポジウム 「タマゴが先か、ニワトリが先か?──コンセプトとテクノロジーの関係を考える」

プレゼンテーション:八谷和彦

2006年6月21日@秋葉原UDX6F:カンファレンス・ルーム

1.4■八谷和彦:プレゼンテーション

八谷:さっきウスマンさんが3つのアクシスを述べていたので、僕も真似して、3つのアクシス……というか、自分の仕事のコアにあたる部分を書いてみます【図1】 。 ひとつは「Art」があって、もうひとつは「Design」というもの、そして「Technology」。一応自分の作品には、この3つのコアのどれかが入っている……といいますか、だいたいこの3つの中間領域で仕事をすることを心掛けているのですが、そういったかたちで作品を作っています。

では、それらの作品を、iPodでお見せしたいと思います。

1.4.1●作品説明:『視聴覚交換マシン』から『Centrifuge』まで

僕の初期の代表作で『視聴覚交換マシン』【図2】というものがあります。これは二人の人の視点を入れ換えてしまう装置で、たとえば男の子と女の子が付けていると、男の子には女の子の視点で、女の子には男の視点でモノが見えてしまうという作品です。

実はこれも非常に簡単な構成になっていまして、ローテクなんですね。コンピュータとか使っていなくて、カメラとマイクとビデオ・トランスミッターを2組、で構成された作品です。ヘッドマウントディスプレイ(HMD)も、初期の頃は手作りで作っていました。最近はさすがに既製品を使っているんですけど、そういう作品です。これはもう13年前に作った作品なのですが、コンピュータを使っていないがゆえに、今でも古くはならずに、色々な場所で公開しています。

この写真は去年ニューヨークで公開してきた時のものです。このときも色々な人にやってもらったのですが、このカップルは体験した後、なぜか男子トイレから2人で一緒に出てきたりしたので「お前ら何やってんだ!」とか、ちょっと思ったんですが(笑)。

ほか、こういうタイプの作品も作っていました。これ(『Light/Depth』【図3】)はスケートボードのミニランプというやつで、実際に僕が滑っているんですけど、透明のミニランプの下にモニタがたくさん置いてあって、そこに海と空の映像が映っているんですね。あとは大きなブランコ(『Over the Rainbow』【図4】 )を作ったりとかもしました。

あと、これは先ほどの岩田先生の作品にも近いんですが、幽体離脱を技術的に再現したくて作った『WorldSystem』【図5】 という作品です。

全部説明しているとキリがないのですが……これが先ほど草原先生からお話しがあった『見ることは信じること』【図6】 という作品で、赤外線の電光掲示板を手作りで作りました。ですので、肉眼では見えないのですけど、特別なビューワー(そのビューワーの名前は「羊」というのですが)を通すと、初めて文字が見えるという作品です。

その文字は、実はほとんどが日記になっていて、色々な人の日常生活というもの……これもインビジブルなものなんですが、そういうインビジブルなものを、インビジブルな電光掲示板で表示するという作品です。

次が僕の一番有名な作品ですが、『PostPet』【図7】というメールソフトですね。これがSo-netにプレゼンテーションで持っていった時のプロトタイプです。実際の製品版はここから発展して、こんな感じになっています【図8】。これはメールソフト、メール用のアプリケーションを作ったんですけれど、いわゆる伝書鳩みたいな存在として、ペットがメールにくっついている。そのペットに色々なアクセサリーを付けたりして……たとえばこれは僕の飼っている猫なんですけれど、自分固有のペットにできるという、そういう趣向のものですね。

これは『ThanksTail』【図9】という作品ですが、これは後で映像でお見せしましょう。あと『Air Board』【図10】という作品……これもあとで時間があったら、映像でお見せします。

ちょっとだけ(『AirBoard』について)ご説明しておきます。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』という映画があって、それにホバーボードという、地面から浮いて滑るスケートボードが出てきたのですが、それを「欲しいな」「実現したいな」と思って作り始めたものです。『AirBoard』は実際に3台作って、3台目の『Air Boardγ』【図11】 と呼んでいるモデルでは、お客さんを乗せて滑ったりしています。ほか、これは『Centrifuge』【図12】という作品です。

全部お見せしていると、とても15分では終わらないので端折りますが……基本的に僕の作品のキー・コンセプトというのは2コありまして、ひとつは「コミュニケーションとディスコミュニケーション」というところにかかわってくる作品。で、もうひとつは「against gravity」というか、重力に対抗するようなものとして作る。例えば、スケボーのランページとかブランコのような作品というのも、一瞬だけ無重力を作るための装置ですし、最近作っている飛行機のプロジェクトというのは「飛ぶ」装置を作って重力から解放される、そういうものとして作っています。

1.4.2●作品説明:『ThanksTail』

ちょっとムービーで、どんなものかをお見せします。

まず、これが『ThanksTail』です。これは自動車に尻尾をつけるという、そういうコンセプトの作品です。最終的な目標としては、全世界の車の10%に尻尾をつけるというところまで、本当は頑張ってやってみたいと思っているのですが(笑)。

どういうことかというと、自動車には「警告」のためのツールはたくさんあるんですけど、「Thank you」を言うためのツールというのは一個もないわけですね。それはおかしいんじゃないか?、と前々から思っていたんですよ。というのは、すべての文化圏のすべての言語に、おそらく「ありがとう」という言葉はあると思うのですが、自動車の社会では「ありがとう」を言うためのツールはない。それによって道路というのは非常に野蛮な社会になっていると思っていまして、それを改善するためのツールとして、尻尾を活用してみようと。

なんで尻尾かといいますと、ひとつには見た目が面白いということもありますが、一瞬で意味が把握できるということ。あと、例えば、日本だと日本語を話す人が圧倒的に多いのですが、ヨーロッパに行くと色々な言語を話す人たちが混じっているので、non-verbal(非言語的)な……というか、言語に頼らないで意志を伝える方法として、犬の尻尾を使えるのではないか、と思って作りました。

1.4.3●作品説明:『AirBoard』

あと『AirBoard』の方もお見せしましょう。さっきウスマン・ハックさんの講演の中で「火が出た」っていう話をされていたのですが、僕のこの作品も、かなり何回も火を出していまして、実際死にそうな気持ちに何度もなりました。

で、今、ボードを下に置きましたけれど、あの中にはジェットエンジンが入っていて、そのジェットエンジンの推力でちょっとだけ地面から浮いています。もちろん、こういうジェットエンジンを使った乗り物が普及するとは、僕も全然思っていないのですが、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』に出てきたスケードボードは、みんな欲しいだろうし、乗ってみたい人もいるだろうということで、作ってみたわけですね。

アーティストというのは何を作ってもいいというふうに僕は思っているので、そういう意味では、こういうものを作るのに一番向いている人だと思っているんですけれど……。

草原:たしか世界で一番小さいジェットエンジンというのを、スウェーデンまで買いに行って……

八谷:これはたしかにスウェーデン製ですが、買ったのは日本で買いました(笑)。こういうふうに火が出て(笑)……なにせこの『AirBoard』では、2回ほど死を意識したことがありました。

こんな感じで、お客さんを乗せています。とても火を出した作品とは思えないですけれど、でも、お客さんを乗せる時には、一応お客さん全員に「もし死んでも、僕を訴えない」という誓約書を書いていただいています。でも、ここでスカートの人を乗せているのは今思えば無謀でしたね(笑)。

ここではそんな大きな音はしていませんが、実際の現場ではかなりの轟音がしています。床に水撒いたので(スタッフの人が)コケたりしてますが……。だからたぶん実用にはならないんですけれど、乗ってみるとかなり面白い乗り物ではあります。

さっきウスマンさんのお話の中で、可聴域の下の音……18ヘルツとか30ヘルツみたいな、全然耳には聞こえない音を使った作品という話がありましたけれど、これは逆に、高い周波数の音が出てます。やはりこれも可聴域の外の音なのですが、そういう高い周波数の音が人間をハイにするんじゃないかと思っていて、それでジェットエンジンを使っているということもあります。

1.4.4●作品説明:『OpenSky』

『OpenSky』Movie and Photo

最後にもう一点、最近やっている『OpenSky』【図13】という作品です。たぶんここにいる日本人の皆さんはほとんど知っているかもしれませんが、ウスマンさんは知らないかもしれないので、「これです」っていうのを見せていますが……ある飛行機を本当にリアライズするというプロジェクトです。

今、試験飛行のフェイズに入っていて、試験飛行なので、他の人を殺すわけにはいかないので、僕が乗っています。なんか適当に飛んでいるように見えますけど、実はかなりちゃんとコントロールしていて、もちろんコントロールできないと危険ですから……一応、ちゃんと飛行可能な機体として作っています。

先ほどの『AirBoard』だと、多少ケガしたとしても、死なずにすむ可能性が高いのですが、飛行機で失敗した場合、死ぬ可能性が非常に高いので、僕も簡単には死にたくはないので、これは3年ぐらいかけて準備をちゃんとやって、かなりきちんとした飛行機開発プロジェクトとして制作しています。

これは、ちょっと調子に乗って、高度を上げすぎて、カメラマンにぶつかりそうになって、カメラマンが逃げていますけど、機体も僕もちゃんと無事でした。失速してしまったのでちょっとコントロールがきかなくなってびっくりしてたのですけど……。この時は高度5メートルぐらいまできっと上がっていたんだと思います。バウンドしたりしていますけど……でも、失速しても壊れない、といいますか、変なダッチロールには入ったりしないという、実は非常によく設計された機体としてできあがっています。

今はこういうふうに、ゴムで引っぱってテストしていますけど、これからちょっとずつ高度を上げたテストをして、最終的にはこの胴体ポッドの中にジェットエンジンを入れて、本当に飛ぶ航空機として作って試験飛行するというのが、一応の目標です。

1.4.5●メディアアートとデバイスアート

僕はメディアアーティストを名乗って活動しているのですが、僕の考えでは、メディアアートという領域は、だいたいこの辺(「Art」と「Technology」の中間)の活動だと思っているんです。一方、デバイスアートに関しては、実はこの(「Art」と「Technology」の中間の)領域の活動というよりは、むしろこの辺の(「Design」と「Technology」の中間の)活動だと思っていまして、今日はそういうところで、後半の話をしたいなあと思っています。

だから(デバイスアートは)アートというよりも、むしろデザインに近い作業なのではないかというのが、一応の僕の見解で、自分自身もそれを意識した活動をしているつもりです。はい。

前の講演へ 次の講演へ