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CRESTプロジェクト

デバイスアートシンポジウム 「タマゴが先か、ニワトリが先か?──コンセプトとテクノロジーの関係を考える」

プレゼンテーション:児玉幸子

2006年6月21日@秋葉原UDX6F:カンファレンス・ルーム

1.3■児玉幸子:プレゼンテーション

児玉:児玉です。私も稲見先生と同じ(注:2006年夏時点)、電気通信大学に勤めているアーティストで、メディアアートの研究をしています。

前のお二人の先生方と較べると、明確でないプレゼンになるかもしれませんが、私はこれまでに2回ほど、この「デバイスアート・シンポジウム」に参加して、これまでやってきたことはすでにお話ししたので、今日は私がやっている磁性流体(Magnetic Fluid)というものに焦点をあてて、短くお話ししようと思います。

1.3.1●『モルフォタワー/二つの立てる渦』

このムービーが最新作『モルフォタワー/螺旋の渦(Morpho Tower Spiral Swirl)』【図1】という作品です。この中心に見えている液体が、Magnetic Fluidとも呼ばれています。 この液体は1960年代にNASAが宇宙服のために開発した素材なのですが、磁場をかけることによって、このようなトゲトゲ(Spike)が生じます。今私は、磁場を制御して、液体のトゲトゲが鉄の表面を這いながら流動していくという彫刻……液体による彫刻のプロジェクトを進めています。そして、これがひとつのデバイスとなるかと思います。

今(映像を)ご覧になっているように、トゲトゲが(液体であるにも関わらず)すごく固いトゲのように見えるのですが、それがどんどん重力に逆らってタワーの頂上まで登っていきます。ひねるように、異なる角速度で、トゲが回転する様子が見られます。

けれども、磁場が弱くなっていくと、トゲは、通常の液体に戻っていきます。今、だんだんにトゲトゲが下の方に、バタバタと雫になって落ちていますが、最終的にはトゲが消えてしまう。これはタワーの先端ですね……。再び今、トゲが登っていきました。そしてクルクルと回転して、またこれが落ちていく。光や音楽など、様々なインプットに反応させて液体を動かすということを、試行錯誤しながら、動かし方と演出を試しています。

1.3.2●「コンセプトが先か、テクノロジーが先か?」

では、私の製作では「コンセプトが先か、テクノロジーが先か?」について考えます。私にはまず最初に、イメージ的なものが自分にとっては大切です。これ(画面)【図2】 は磁性流体を使った別の作品(『Protrude, Flow(突き出す、流れる)』)の写真なのですが、とにかく磁性流体を使って、色々な液体の形を出して写真や映像で写すんですね。

で、「これは何々のようだ」という連想を、次から次へと自分がやります。これは“ジェリーフィッシュ”というふうに呼んでいるんですけど……あとはこの形がどんどん変化していって、ドーナツや、噴火する火山が出てきたり、貴婦人が出てきたり(笑)……「ショールを纏った貴婦人」と呼んでいる形状があるのです。そういうものが出てきます。それは、そのたびごとに色々な名前を勝手につけているのですね。

これもまた別の作品(『波と海胆(ウニ)』)です【図3】。これもドロドロしたマグマのような、悪魔のような……これは瞬間的に発光させて撮ったので、動きがないので、磁性流体の別の表情なのですが、液体の表面、海のようなかたちがアニメーションで動く……これが動くところを想像していただきたいです。

これは『モルフォタワー』【図4】の静止画ですね。この作品は、たとえば、これはクリスマス・ツリー……回転するもみの木のようにも見えるし、非常に攻撃的な、暴力的なものにも見えます。そして、これは一週間ぐらい前にソウルのビットフォームギャラリーで展示してきた『モルフォタワー』の様子です。映像作品とセットで展示しました。奥のスクリーンには『呼吸するカオス(Breathing Chaos)』【図5】【図6】【図7】を映し出していて、その映像には植物、花の複数の映像が、磁性流体の動画とモンタージュされています。

なぜ花を映したかと言えば……これは私の実家の庭に生えている藤なのですが、藤の花のツブツブの様子が……藤の花は上からつぼみが落ちて、重力の中で非常に複雑なつぼみが出てきますよね……そのツブツブの様子を『モルフォタワー』の表面のツブツブの表現と重ね合わせて見てみたいと考えて、この花の映像を重ねて出しています。

1.3.3●私の場合

ちょっとここで「(コンセプトとテクノロジーと)どちらが先か?」ということを書いてみました【図8】。私の場合ですが……まず制作とは関係なく、アーティストは、世界を感動しつつ見ている(体験している)というベースが、たぶんどのアーティストにもあると思います。

そして、ここから先はみんな同じなのか、ちょっと分からないのですけれど、体験(全ての感覚)に結びついている動的イメージというのが自分の中に蓄積されていて、それは現実そのものではありません。そして、新しいもの(イメージ)を自分の中に組み入れること(見ること)で、新たな作品のイメージは生まれてきて、この新しい作品のイメージは、言葉に先だってあると感じています。

コンセプトは言葉としても出てきますが、どういうタイミングでそのコンセプトが言葉として出てくるかといえば、このイメージ……体験に結びついた動的イメージが自分の中に生まれて、すぐ言葉になる時もあるし、すごく後で(後発的に)言葉になることもあるし、私の場合は、まったく言葉にしなくてもいい(笑)という場合もあって……ここのタイミングがどこかというのは、ひとつに限らない。そして、その体験に結びついた新しい動的イメージによって作品化を試みます。

でも最終的な作品にいたるまでには試行錯誤が当然必要で、最初は手を動かしてスケッチや模型を作ったり、実作品を見ながら(使用する素材の選定、形状のデザイン、ソフトウエア全てに)修整を加え、そしてこのときには、他者の感想もどんどん来ます。ここの部分の試行錯誤は、とても重要だと思います。

ということで、まず最初は、アーティストの中に蓄えられている何かがあって、それがイメージによって引き金を引かれて、経験と重なり合って新しいものが生まれてくるというのが、私の経験です。

この磁性流体は、そのトゲトゲにハマったという感じですね。「探していたものがここにあった」というか、私は同時的・全体的に変化する表現に興味があり、同時的・全体的に変化する表面が見たかったのです。CGや映像の作品の世界ではそういうものがあった。でも実際のマテリアルで、そういうもの、地球の表面のように……宇宙から見たら、地球は同時的・全体的に変化していると思うんですが……そういうものを、小さい作品として作るのは難しい。

磁性流体は、「これだったらできそうだな」という気がしたんですね。テクスチャーが細かく変化するトゲにハマった……ような気がします……というあたりで、私のプレゼンを終わります。

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