(駿台受験シリーズ、駿台文庫株式会社 2006.12.20)
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以前に東京大学、一ツ橋大学、京都大学などの法学、経済学、哲学、倫理などの文系のトップの先生方と共著で書いた本「電子社会のパラダイム」の中の文章が、大学受験生のための;
「小論文: 21世紀を生きる」
(名文を読むことが優れた解答への第1歩、現代社会の本質に迫る48編のアンソロジー)
の中で哲学者や社会学者などにまじって、そのひとりに選んで頂きました。
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「小論文:21世紀を生きる」--現代社会の本質に迫る48編のアンソロジー-- 14a 電脳社会の動向と課題
大学受験生のための;「小論文: 21世紀を生きる」(名文を読むことが優れた解答への第1歩、現代社会の本質に迫る48編のアンソロジー)
の中で哲学者や社会学者などにまじって、そのひとりに選んで頂きました。
「電子社会システム」における技術現象の見えの変化例を図1(引用原文 図8.5)に示す。
いわゆるIT技術と言っても,次々と新たな技術の名称が現われてくる(例えば, 吉崎, 2001)。そして,IT技術は,人々のまわりにユビキタス(Ubiquitous, 遍在すること)環境として現われてきている。そして,それはナノテクノロジー(例えば, 川合, 2001)によってさらに高度化・複雑化し,人々のまわりをより見えないものにするとともに,人間の身体の中にまで浸透してこよう。
ところで,現在の社会に大きな影響を及ぼした技術のひとつが,コンピュータの技術であることは言うまでもない。この技術を牽引してきた学術団体の主なものの一つがACM(the Association for Computing Machinery)である。1997年にACMはコンピュータの歩み50周年を祝ってACM97を開催した。会議に先立ち,コンピュータに関連してきたリーダー達24名が『Beyond Calculation: The Next Fifty Years of Computing』(Denning, Metcalfe, 1997)としてコンピュータの未来と日常生活に及ぼす影響について,オリジナルあふれ,思考を刺激する論文・エッセイ集を発表した。会議後には会議を振返って発表者19名により『Talking Back to the Machine: Computers and Human Aspiration』(Denning, 1999)と題して,コンピュータが個人と社会にどのような影響を及ぼすかについて論じた。これらで述べられたことは,インターネットの急速な発展によって一般の人々や社会に現実のものとして今日現われてきた。
4年後の2001年3月にはサンノゼにおいて,ACM1が「Beyond Cyberspace: A Journey of Many Directions」というテーマのもとで,サイバーワールドだけではなくリアルワールドとの融合を見つつ,技術は日常生活の中のユビキタス・コンポーネントとなっていくこと等が,ITのリーダー達によって論じられた。ちょうどIT不況と呼ばれるようになろうとしているシリコンバレーの中心で体験した会議であり,技術と人と社会について考えさせられる会議となった。会議後に『The Invisible Future: the seamless integration of technology into everyday life』(Denning, 2002)が発行されている。ここ数年間,ある意味で「みえない(Invisible)」がひとつのキーワードとなっている。コンピュータ自体もどんどんと見えない方向にある。(例えば『The Invisible Computer』(Norman, 1998)。)
この数年間の急速な変化にもかかわらず,技術開発の現場にいる著者にとっては, 現在見えている社会の変革は,緒についたばかりであり(例えば,『The Unfinished Revolution』(Dertouzos, 2001)),将来が全体として見えないところが不安を呼んでいる一因になっているとも思われる。
「電子社会システム」における基本的課題のひとつは,システムの「みえない」ものを「みえる」ようにすると共に,「わかりあえる」ようにすることである。
見えるようにし、わかりあえるためには,見えない情報の動きや社会のプロセスをみえるようにする学や技法(例えば(情報デザインアソシエイツ, 2002), (Jacobson, 1999))との協同研究や,いわば創造的コラボレーションのための認知科学と呼ばれる「協同の知」(植田・岡田, 2000)を利活用することが必要となる。
なお,過剰な「みえる」は,現実をありのままにとらえることを困難にすることもある点には留意する必要がある。例えば,現代人はメディアの中の世界を現実と見誤る危険性があり,政治のメディア化の危うさにも注意する必要があることが指摘されている(ヴィリリオ, 2002)。
技術とその影響は変化し続けている。技術開発過程とそれの社会への影響の時間的関係を図2(引用原文 図8.6)に示す。「電子社会システム」研究は,主として図中の「現在見えている社会」の現象を対象にしていることが多い。どこまで「将来現われてくる社会」の現象を予期できるかがキーとなる。
予期は企業活動においてもキーである。電子化に関するイノベーションに成功し業界をリードしてきた企業も,ある種の市場や技術の変化に直面したとき,図らずもその地位を守ることに失敗する(Christensen, 2000)。
「電子社会システム」における基本的課題のひとつは,変化への時間的適応である。
最近起こった巨大銀行の電子化システムの問題にも予見されるように,電子化システムは,ますます大規模になり,異分野ともネットワーク化した複雑なものとなり,問題や事故が起こると,表面上はソフトウェア問題やヒューマンエラーということで片付けられるケースが多いが,問題の根はもっと根本的なところあると思われる。
問題の複雑化は情報技術自体がもたらしている面も多い。企業や社会における諸活動の一部のできるところのみに技術を部分適用することの弊害もある。これらの問題に対処するために,複雑システムに対応する新しい情報技術を開発しようとする研究もおこなわれている(例えば,大須賀節雄, 2002)。
米国では将来の社会の変化として10の変化の側面;
すなわち,
・コミュニケーション形態の変化 ・情報を扱う形態の変化
・学習形態の変化 ・商取引の性格の変化
・仕事のあり方の変化 ・医療現場の変化
・設計/製造の方法の変化 ・研究方法の変化
・環境への対応の変化 ・政策実施の変化
に対応する新情報技術を研究開発しつつある(大須賀節雄, 2002)。
問題を解決しようとして情報技術を導入して新たな問題が生じると,それを解決するために新たな情報技術を開発するといったサイクルは,電子化システムの実態をますます複雑にしている面もある。特に,電子化システムのバージョン・アップ時やシステムの結合や融合時において,それ以前のシステムを自己参照,改定していくときの技術的・社会的な方法論に留意する必要がある。
「電子社会システム」における基本的課題のひとつは,複雑なシステムを「自己参照」的に,ますます「複雑化」して「みえない」ものにしつつある点にどう対応していくかにある。
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