教育は人と人との情報のやり取りを中心として行われてきた営みである.「情報化社会」とは情報が重要な価値を持ち,またそのやり取りが活動の中心となる社会であるとすれば,教育の場は高度な情報化社会になっているということができる.情報工学的な技術が生まれる以前においては,もっとも情報化された場が教育の場であったとさえいうこともできる.このそもそも情報化されている場であることが,情報機器の導入という意味での情報化を困難なものとしていたのではないかということがいえる.つまり,既に情報化が進んでいるため,情報機器を導入する恩恵が必ずしも大きくなかったということである.このことは現状においても同様であり,このまま単にタブレットや無線LANといった情報基盤・情報機器の導入整備を進めたとしても,それだけでは従来の教育の方法,つまり情報工学的技術を必要としない情報化,を超えることは難しいであろう.
では何をなすべきであろうか.情報工学的技術以前の情報化とは,いかに洗練されたものであるとはいえ,黒板とチョーク,ノートと鉛筆,といった制約を前提としたものであった.したがって,現在活用可能である情報工学的技術の可能性を活かしたものではない.とすると,これらの技術を使えることを前提とし,黒板とチョーク,ノートと鉛筆,といった制約を外した教育における情報化を推進することが求められることにある.ここでの情報化とは,情報基盤や情報機器のことではなく,それらを前提とした教育自体の情報化であるということになる.
このように考えると,教育の情報化,とは,「電子化/デジタル化」と「構造化」の二つの側面があり,従来は「電子化/デジタル化」のみに焦点が当たりすぎており,「構造化」としての側面が尾ソロ化になっていたのではないかといえる.構造化に踏み込むことは,教育・教材の内容に踏み込むことであり,情報技術だけの問題ではなくなると共に,情報技術抜きでも議論できない領域である.この学際的な領域に多くの研究者が踏み込むことによって,はじめて教育の情報化の実が上がるのではないかと考える.
矢野米雄,平嶋宗,教育工学におけるシステム開発の位置づけ,教育工学とシステム開発,教育工学選書4,pp.1-21,2012.
平嶋 宗,学習課題の内容分析とそれに基づく学習支援システム設計・開発:算数を事例として,教育システム情報学会誌,Vol.30, No.1, pp.8-19(2013).
平嶋 宗,学習課題の内容分析としての情報構造指向アプローチ:教育の情報化における電子化と構造化,日本教育工学会第29回全国大会,1a-1-402-04(2013).