2010年度に始動した「音楽の手紙(Musikalische Briefe)」プロジェクトは、国立音楽大学の選択科目ドイツ語上級クラスのうちのひとつで学ぶ学生がドイツ語プレゼンテーションと演奏によって日本の楽曲をドイツ語圏に紹介するビデオレター・プロジェクトです。ドイツ・テュービンゲン大学(1477年創立)の言語教育部門(ADaF)でドイツ語を教えるネイティヴ教員とのコラボレーションで継続的に行われています。
音大での専門の学びと語学学習の成果とを結びつけ、映像によって学習成果を記録し、Skype経由でドイツ語圏の人たちと交流し、完成したビデオをインターネット経由で自宅でも学習教材として繰り返し使用することができるこのプロジェクトは、これまでの受講生たちからはもちろん、国際ドイツ語教育学会でも高い評価を得ています。
これまでの卒業生からは「留学先で『ぜひ何か日本の曲を演奏してほしい』と言われたときにこのプロジェクトでの経験がとても役に立った」という声ももらっています。国立音楽大学でドイツ語を学ぶ皆さん、上級クラスまで学習を積み重ねて、大学生活3年目・4年目でこのプロジェクトへの参加を目指してみませんか?
プロジェクトの手順、および参加者が発揮できる力
① 紹介したい日本の楽曲を選ぶ ☞ リサーチ力・日本の楽曲への意識
② その楽曲についてドイツ語で紹介文を書く ☞ 情報収集力・思考力・ライティング力(日本語・ドイツ語)
③ 紹介文をもとにした口頭発表をする/聞く ☞ スピーキング力(ドイツ語)・ドイツ語発音・リスニング力
④ 楽曲を演奏する ☞ 演奏力・マネジメント力・アンサンブル力
⑤ 演奏映像のビデオ編集のために写真やイラストを用意する ☞ 構成力・映像表現力
⑥ 動画編集 ☞ ICT活用能力
⑦ ドイツ語圏からのコメント(ビデオレターへの返事)を受け取って読む ☞ リーディング力
⑧ 上映会でお互いに感想を述べ、ドイツ語圏にいる「手紙の受取人」とSkypeでビデオ通話する
☞ リスニング力・スピーキング力・コミュニケーション力
⑨ ビデオレターをインターネット経由で自宅や学外でも繰り返し視聴する
☞ 学習内容全体の定着・学習内容を学外に発信するプレゼンテーション力
【プロジェクト概念図(ドイツ語)・プロジェクトの流れ】 下記、研究成果②および⑦の図版を加工した。
これまでの映像を含むサンプル動画(約5分)
プロジェクト10周年目に当たる2019年度には、国立音楽大学学長裁量経費(教育改革推進)によりテュービンゲンでのワークショップおよび演奏会を含むシンポジウムを予定していました。残念ながら新型コロナウィルスの影響により中止になったため、演奏会で初演する予定だった今村央子《枕草子組曲》(2020)のうち、合唱曲〈清水などに参りて〉を過去10年間のプロジェクト参加者約40名によるリモート合唱動画により2021年3月25日にZoomで初演しました。
約9分間のビデオです。どうぞお楽しみください! Viel Vergnügen!
今村央子《枕草子組曲》(本プロジェクト委嘱作品、2020年〜)
これまでの動画
〈清水などにまゐりて〉(2021)初演版(=上の動画)
https://youtu.be/ndOaHDNcerA?si=U2LsstnwPzUBHTuh
演奏:本学ドイツ語上級クラス履修者有志、過去に本プロジェクトに参加した卒業生、ドイツ・カールスルーエ音楽大学からの元留学生
動画編集:藤原 唯 さん(本学卒業生)
〈清水などにまゐりて〉(2022)
国際ショートフィルムコンテスト・ノミネート作品
https://youtu.be/PbqHA9ya794?si=mLx-t5pEyCh0OUJr
演奏:本学ドイツ語上級クラス履修者有志、本学フルート講師、オーストリア・ウィーン音大からの元留学生、本プロジェクト交流先であるテュービンゲン大学で学ぶ学生サロンオーケストラ
動画編集:ドイツ語上級クラス担当教員、参加者有志
※このコンテストについては本学ホームページに報告記事あり。
https://www.kunitachi.ac.jp/introduction/kunion_cafe/garden/lineup/20220826_02.html
〈月のいと明きに〉(2023)
演奏:本学ドイツ語上級クラス履修者
動画編集:ドイツ語上級クラス担当教員
〈風は嵐〉(2024)
(制作中)
演奏:本学ドイツ語上級クラス履修者
このプロジェクトに関するこれまでの研究成果:
① 宮谷尚実(2011)「音大ドイツ語上級授業におけるCLIL的試み」国立音楽大学『研究紀要』第46集、145–149ページ。
② MIYATANI, Naomi, TAKATA, Azusa (2013): Zwei DVD-Projekte in Japan: studienvorbereitend und studienbegleitend. 国際ドイツ語教員連盟研究会(イタリア・ボルツァーノ大学)における口頭発表、2013年7月29日。(宮谷が本学のプロジェクトに関連する部分を分担した。)
③ Miyatani, N., Takata, A. (2016): Zwei DVD-Projekte in Japan: studienvorbereitend und studienbegleitend. In: Konferenzbeiträge. IDT 2013. Bd. 7 Lerngruppenspezifik in DaF, DaZ, DaM., Hrsg. von Drumbl, H., Kletschko, D., H., Sorrentino, D. und Zanin, R., Bozen (Bolzano University Press), pp. 255–273.
④宮谷尚実(2022)「音楽大学ドイツ語上級クラスにおけるビデオレタープロジェクト『音楽の手紙』10周年の節目に」『ドイツ語教育』26号、126–132ページ。
⑤MIYATANI, Naomi, SUZUKI, Akane (2022): Video-Projekt Musikalische Briefe als Lehransatz für kulturreflexives und ästhetisch-kreatives Lernen. 国際ドイツ語教員連盟研究会(オーストリア・ウィーン大学)における口頭発表、2022年8月18日。(第1回プロジェクトに学生として参加し、現在本学フルート非常勤講師の鈴木茜との共同研究、2022年度本学学長裁量経費による研究)
⑥MIYATANI, Naomi, SUZUKI, Akane (2023): Video-Projekt Musikalische Briefe als Lehransatz für kulturreflexives und ästhetisch-kreatives Lernen. In: IDT 2022: *mit.sprache.teil.haben Band 2: Kulturreflexiv, ästhetisch, diskursiv Sprachenlernen und die Vielfalt von Teilhabe. Hrsg. von Dengscherz, S., Schweiger, H. u. a., Berlin (Erich Schmidt Verlag), pp. 137–144.
⑦宮谷尚実・鈴木茜(2024)「外国語教育と専門教育の連接の試みとしての『音楽の手紙』プロジェクト 」国立音楽大学『研究紀要』第58集(近刊)