保健体育プログラム
主任 寺田 佳代
リベラルアーツとは?
ICUはリベラルアーツカレッジですから、保健体育科目もその一環として展開されることになります。では、リベラルアーツとはどのようなものでしょう。 リベラル(Liberal)とは自由ということです。そしてアーツ(Arts)はアート(Art)の複数形ですから一般には芸術ということになりますが、 少し幅広く捉えると技法、技芸、学芸といった言葉が当てられます。つまり「自由になるための技法」がリベラルアーツということになります。では、何から自 由になるのでしょうか。そして、知識ではなく技法(アーツ)という言葉が用いられているのは何故でしょうか。このことは、ICUで学ぶすべての場面で考え てほしいことがらです。
リベラルアーツ教育の一環として展開される保健体育とはどのようなものなのかを「自由になるための技法」ということを基に考えてみたいと思います。まず はじめにアーツということですが、技法を意味するアーツという言葉はテクニックやスキルとは異なる何かがありそうです。一般に芸術のことをアートと呼びま すが、芸術はある人が善いと感じたものを何かの形で表現したものです。その表現のためにはテクニックやスキルが必要ですが、いかに優れたテクニックが駆使 されていたとしても、その表現したものが本人以外の他者の価値観と遭遇しなければ芸術作品としては成立しません。表現するだけならばテクニックで事足りる のですが、芸術には他者の価値観との相互作用が不可欠なのです。自分だけの正しさ、善さを表現するだけでなく、他者の価値観といったような人の心の深いと ころに働きかけ、お互いの相互作用を生み出す技法がアートなのです。
このことを具体的な体育の場面で考えてみましょう。ボールを投げるにはテクニックが必要ですが、そのボールが、受け取る相手やその時の状況にとってどの ような意味があるかを見定め、それらとの相互作用を生み出すことができないとしたら、そのテクニックは適切とは言えません。つまり、そこにはある種の技 法・アートが必要なのです。
このようにアートとは、自己と他者との関係の中で培われるものなのです。人はこの技法を得ることによって、自己のテクニックを相対的に見る視点が与えら れるのです。学問的知見も同様で、ある領域の知見を極めることは重要ですが、そのことが他の領域との関係の中でどのような意味を持ち、どのような相互作用 を生み出すかを常に念頭に置いておく必要があります。このことによって、人は一つの領域の価値観に束縛されることから解き放なたれ、自由(リベラル)にな ることができるのです。リベラル・アーツ(自由学芸)とは、人が真に自由になるために学ぶものなのです。 体育は、実体験を伴って極めて具体的にこのことが体験できる場面です。私というかけがえのない存在が、これもまたかけがえのない他者という存在と出会 い、それらとの相互作用を生み出す技法を学び、人の社会の中で人として自由になることを目指して展開される保健体育教育は、ICUのリベラル・アーツ教育 にとって不可欠なものなのです。