●DNA損傷、DNA修復をキーワードにヒト由来の培養細胞を使って研究を行っています。
遺伝子組換え、薬剤感受性試験、免疫染色、コメットアッセイなどの培養細胞を使って行う実験を中心に研究を行っています。in vitro酵素アッセイやDNA結合アッセイのような生化学の実験も取り入れています。
DNA二本鎖切断修復機構の解析
ヒト由来の培養細胞より作製した遺伝子破壊株を使い、DNA二本鎖切断を誘発する薬剤や電離放射線に対する感受性を解析しています。電離放射線の一つである重粒子線はX線やγ線と異なり、体内の深部に届くという特徴があり、がん治療にも用いられています。本学重粒子線医学センターの協力のもと、細胞に重粒子線を照て、生じたDNA損傷がどのように修復されているかを調べています。
2. 天然抗酸化物質によるDNA損傷誘発メカニズムの解析
植物に含まれる抗酸化物質には、さまざまな生物活性があります。その中の一つに抗がん作用がありますが、抗酸化物質によって細胞が死ぬメカニズムは十分にわかっていません。研究室では、抗がん作用のうちDNA損傷を与えたり、DNA修復を阻害するような作用機序に焦点を絞って、メカニズムの解明を目指しています。
研究成果
ケルセチンによるDNA損傷誘発メカニズムの解析
ケルセチンで細胞を処理すると活性酸素種が細胞内に蓄積し、DNA二本鎖切断をつくることを明らかにしました。DNA二本鎖切断とは、二重らせん構造であるDNAの両方の鎖が物理的に切れてしまうことで、修復が難しく、細胞にとっては脅威となるDNA損傷です。HeLa細胞をさまざまな濃度のケルセチンで処理すると、DNA二本鎖切断が生じたときに観察されるヒストンのリン酸化(γH2AX)が観察されます。写真では緑色の蛍光でγH2AXを可視化しています。
スルフォラファンによるDNA損傷誘発メカニズムの解析
スルフォラファンはブロッコリースプラウトなどに含まれるイソチオシアネート類です。スルフォラファンで細胞を処理すると、細胞内にあるグルタチオンと呼ばれる抗酸化物質の酸化型(GSSG)と還元型(GSH)のバランスがかわり、細胞内の活性酸素種が除去されず蓄積し、その活性酸素種がDNAを傷つけている可能性があることがわかりました。グラフではスルフォラファン(SFN)の処理濃度が高くなるにつれ、細胞内の還元型グルタチオン(GSH)の割合が減っていることが示されています。