手島健介 (てしま けんすけ)
同志社大学経済学部教授
経歴
京都大学経済学部卒業・同修士課程を修了後、米国コロンビア大学に留学して2010年に経済学Ph.D.を取得。その後、メキシコ自治工科大学(ITAM)経済研究所・経済学部で2010年1月から2018年12月まで研究と教育に従事。2019年1月から2023年9月まで一橋大学経済研究所に勤務したのち、2023年9月より同志社大学経済学部教授。
研究紹介
開発経済学と国際貿易論を専門にしています。グローバル化が発展途上国の産業発展、技術変化に与える影響や、環境や健康、犯罪などの社会面に与える影響を研究課題としています 。
(1) グローバル化が発展途上国の産業発展に与える影響の研究
輸出企業-輸入企業のマッチング・関係形成、多国籍企業の技術移転についての研究を行ってきました。
Assortative Matching of Exporters and Importers (杉田洋一氏、Enrique Seira氏と共著。Review of Economics and Statistics, 2023年11月号 に掲載)は、輸出企業-輸入企業マッチングのメカニズムを研究したものです。具体的には繊維アパレル産業において、同産業における米国の貿易自由化が中国の対米輸出急増を引き起こしたことを自然実験として用いることで、メキシコ輸出企業-米輸入企業マッチングがどのように変化するかを分析しました。その分析を通じ、能力の高い輸出企業と能力の高い輸入企業がお互いに取引を行うというPositive Assortative Matchingの証拠を検出しました。共著者の杉田さんによる日本語での研究紹介はこのページで読めますのでそちらもご覧ください。この論文はメキシコ経済を分析した論文を対象とした、メキシコ国内で一番権威が高い経済学論文賞であるPremio CitiBanamex de Economia (2015年。当時の名称はPremio Banamex de Economia)を受賞しました。
Foreign Employees as Channel for Technology Transfer Evidence from MNC’s Subsidiaries in Mexico (Estefania Santacreu-Vasut氏と共著, Journal of Development Economics, 2016年9月掲載)では、多国籍企業内の技術移転の要因とその障害を外国人社員の役割に着目して分析しました。本国から派遣される社員は技術・経営双方に不可分な役割を果たす一方、制度の質が悪く経営面で力を発揮できない状況では技術移転も進まないという仮説をメキシコの製造業事業所個票データと州別の法制度の質のデータを組み合わせて検証しました。
(2) グローバル化が発展途上国の環境、健康、犯罪に与える影響の研究
国際貿易が直接的に、あるいは他国の政策要因を通じて間接的に、発展途上国の環境、健康、犯罪に影響することを示してきました。このトピックで出版済、出版予定のものは以下の3本であり、それ以外に直接投資や政府開発援助の影響についてのプロジェクトを現在進めています。
The Violent Consequences of Trade-Induced Worker Displacement in Mexico. (Melissa Dell氏、Benjamin Feigenberg氏と共著, American Economic Review: Insights, 2019年6月創刊号掲載)では、メキシコにおいて2007年から深刻な状況であるいわゆるメキシコ麻薬戦争について、グローバル化がその要因になっているかを分析しました。具体的には、米国市場における中国との競争によってメキシコ製造業における男性非熟練労働者の雇用が失われた地域ではコカイン密輸活動が活発化し麻薬密輸団体の抗争が激化され麻薬戦争による殺人の増加につながったことを示しました。麻薬紛争関連研究ページもご覧下さい。この論文もPremio CitiBanamex de Economia (2018年)を受賞しました。
Abatement Expenditures, Technology Choice, and Environmental Performance: Evidence from Firm Responses to Import Competition in Mexico (Emilio Gutierrez氏との共著, Journal of Development Economics, 2018年7月掲載) ではメキシコの貿易自由化が大気汚染に与えた影響をメキシコの事業所データとNASA衛星写真から得られた大気汚染データで分析しました。貿易自由化が生産工程改善投資を増加させ、エネルギー効率性を増加させ、大気汚染も改善させた一方、環境汚染防止のための投資額を削減させたという結論を得ました。これは汚染排出減少において、生産工程改善投資と環境汚染防止のための投資は代替的であることを示唆しており、貿易自由化に限らず政策を評価する際に、環境汚染防止のための投資額だけを見ると政策効果の全体像を見失うことがある可能性を示唆しています。
North-South Displacement Effects of Environmental Regulation: The Case of Battery Recycling. [Appendix](田中伸介氏、Eric Verhoogen氏との共著。American Economic Review: Insights, 2022年9月号巻頭論文として掲載)では、米国の環境規制が米メキシコ間の貿易とメキシコ人の健康に与えた影響を鉛に焦点をあてて検証しました。米国では生産された鉛の90%が自動車や産業機械用の鉛蓄電池に使われ、逆にそれらの使用済み鉛蓄電池のリサイクルによる鉛精錬が鉛生産の90%を占めており、鉛と鉛蓄電池は不可分の関係にあります。米国の鉛の大気排出規制の2009年の強化が1. 米国の中古鉛蓄電池リサイクル工場周辺の空気の改善をもたらしたものの、2. 規制がより緩いメキシコへの米国からの中古鉛蓄電池の輸出急増を招き、3.メキシコの中古鉛蓄電池リサイクル産業の活動を増加させ、4. メキシコの中古鉛蓄電池リサイクル工場周辺の新出生児の健康状態の悪化を起こしたことを示しました。先進国と途上国の環境規制の違いが環境汚染を途上国へ移転させるという仮説は汚染逃避地仮説と呼ばれ古くから検証されてきましたが、移転先で実際に健康被害を起こしていることを説得的に検証した点がユニークな点です。このページの研究紹介もご覧ください。
(3) 日本の産業・商業集積の研究
Identifying Neighborhood Effects among Firms: Evidence from the Location Lotteries of the Tokyo Tsukiji Fish Market. (中島賢太郎氏との共著。未出版)では、築地市場の水産仲卸の市場内の店舗立地が抽選で外生的に決まっていることを生かした、客の買いまわり行動から発生する近隣企業間の金銭的外部性の検出の研究を行っています。研究紹介がこのRIETIページで読めます。
From Samurai to Skyscrapers: How Transaction Costs Shape Tokyo. (山﨑潤一氏、中島賢太郎氏との共著。未出版)では、東京の土地利用が江戸末期/明治維新期からのここ150年でどのような持続性があったのかを研究し、土地取引に関する取引費用が長期都市開発に持つ含意を明らかにしています。共著者の山﨑さんによる日本語での研究紹介はこのページで読めますのでそちらもご覧ください。