研究テーマ

ペリプラズムプロテアーゼBepAによる細菌外膜の品質管理機構

BepAはグラム陰性細菌のペリプラズム空間に存在するタンパク質であり、σEによる発現誘導を受けます。BepAは外膜タンパク質の生合成を促進するとともに、生合成に失敗した外膜タンパク質を分解するプロテアーゼとして働きます(PNAS 110: E3612-21)。BepAがどのようにして外膜タンパク質の状態に応じて生合成と分解の2つの活性を使い分け、外膜の品質維持に寄与しているかを解明するために、BepAと基質タンパク質との相互作用部位を決定し(Mol. Microbiol 106: 760-76)、解析を進めています。また、外膜の品質を管理する上でのBepAの生理的役割を明らかにするために、BepAを欠く大腸菌変異株の解析を行っています。

表層ストレス応答におけるTAシステムの役割

σEは通常の培養条件でも大腸菌の生育に必須であることが知られていますが、その理由は必ずしも明らかにはなっていません。これまでに、σEが無くても生育できるようになったサプレッサー変異株が単離されており、その一つにhicB遺伝子の欠失株があります。hicBはトキシン-アンチトキシン(TA)システムのアンチトキシンをコードし、トキシンをコードするhicAとオペロンを構成しています。TAシステムは原核生物に広く保存された遺伝子対で、通常の生育条件ではアンチトキシンが結合することでトキシンを不活化していますが、細胞が栄養飢餓などストレスに晒されるとトキシンが活性化し、様々な細胞障害を引き起こします。hicB遺伝子の欠失がなぜσE欠失による致死性を抑制するかはわかっていませんでした。私たちは、σE欠失による致死性の抑制にトキシンのRNase活性が必要であることを見いだし(J. Bacteriol 197: 2316-2324)、TAシステムと表層ストレス応答の関係について解析を進めています。

LolCDEによるリポタンパク質の輸送機構

リポタンパク質はアミノ末端のシステインが脂質で修飾されたタンパク質で、細菌の細胞表層において様々な役割を担っています。リポタンパク質は細胞質で合成され内膜を透過した後、内膜上で脂質修飾を受けて成熟体となります。外膜に局在化するリポタンパク質は、内膜に存在するABCトランスポーターLolCDE複合体の作用で内膜から遊離し、ペリプラズムのLolAに受け渡され、外膜まで輸送されます。LolCDEがどのようにして外膜リポタンパク質を認識しているかなど、リポタンパク質輸送における種々の反応の分子機構を解明すべく研究に取り組んでいます。

卒業研究テーマ

2023年度
・部位特異的in vivo光架橋法を用いたBepAα9/H246ループの機能の解析

2022年度
大腸菌を用いた組換えブロメラインの分泌生産系の構築
保存料のトリプシンに対する阻害効果の検討
大腸菌プロテアーゼBepAの基質特異性の解析
・管理栄養士養成課程における遺伝子組換え実験に適した赤色蛍光タンパク質発現プラスミドの作製

2021年度
・AcGFPを用いた学生実験に適したGFP発現プラスミドの構築
・外膜タンパク質の生合成に働くBepAのプロテアーゼ活性
・大腸菌の表層ストレス耐性に関与する遺伝子の探求
・口腔アレルギーのアレルゲンとして知られるトマトプロフィリンの発現系の構築

2020年度

・大腸菌の表層ストレス耐性におけるトレハロース代謝の役割 

2019年度

・大腸菌を用いたカゼインタンパク質の生産 

・メラニンを産生する大腸菌の作製 

・BepAのプロテアーゼ活性の検討 

・アルコール代謝に関わる遺伝子型の新規解析方法の構築 

2018年度

・カフェインを感知して蛍光を発する大腸菌の作製 

・大腸菌skp欠失株のリファンピシン感受性を抑制する遺伝子についての研究 

・岩洞用水と岩手県の栄養状態の変遷について 

・アルカリ金属塩の大腸菌の生育に及ぼす影響の解析 

・根粒菌における外膜構成因子の局在化機構についての研究 

・BepAのプロテアーゼ活性の試験管内での検討 

2017年度

・ 大腸菌におけるプリン代謝に関わるydhC遺伝子の転写活性化機構の解析

・ 大腸菌skp欠失株のリファンピシン感受性についての研究

・ 学生食堂の給茶機の衛生状態

・ カフェインにより蛍光を発する大腸菌の作製

・ 牡蠣に存在する抗菌活性を持つ細菌についての研究

2016年度

・ 大学内における空中浮遊細菌の研究

・ 蛍光を使ったフレームシフト変異の誘発率測定系の構築

・ わさびの抗菌活性の解析

・ 大腸菌におけるプリン代謝に関わる遺伝子の発現制御機構の解析

・ β-グルクロニダーゼの発現を抑制する因子を探索するためのレポータープラスミドの構築

・ 学生実験に適したGFP発現プラスミドの構築

2015年度

・ 細菌のβ-グルクロニダーゼ遺伝子の転写を抑制する化合物の探索 ―スクリーニング系の構築―

・ L-アスコルビン酸を産生する大腸菌の作製 ―酵母のD-アラビノノ-1,4-ラクトンオキシダーゼを発現する大腸菌の作製―

・ 非天然蛍光アミノ酸の部位特異的生体内導入

・ リポタンパク質輸送阻害剤に対する大腸菌の応答機構の解析

・ ドクダミの抗菌活性の研究

・ Toxin-antitoxinシステムによる細菌致死性の抑制機構