岩礁潮間帯の固着生物群集を対象に,群集動態(特に種組成の時間変化)の空間変異性がどのようなプロセスによって生じているのかについて,群集行列モデルや離散ロトカ-ヴォルテラモデルを用いて解析し,学位を取得しました.
学位論文: Spatial variation in community dynamics in intertidal sessile assemblages
気候変動に対する生物の応答は様々です.分布域が北へ,深場へ,高標高へと移動している生物も多くいますが,分布域があまり変化していない生物もいます.例えば日本周辺では,太平洋に生息するマサバの産卵場は2000年以降徐々に北へ移動していますが(Kanamori et al. 2019),近縁種のゴマサバの産卵場はあまり変化していません(Kanamori et al. 2021).また,アブラツノザメの分布域もあまり変化していませんが,日本周辺への来遊時期が早くなっています(Kanamori et al. 2023).このような種固有の応答が群集構造や生態系に対してどのような影響を与えるのかについて興味を持ち研究しています※.対象生物にこだわりはなく,現在は水深150-900mに生息する底生性魚類を解析しています.
※ 令和4-6年度 交付金研究開発プロジェクト「気候変動下における水産資源の分布域の変化が魚類組成の空間変化と生態系の変動特性に与える影響」(代表者: 金森由妃)
→終了しました(Kanamori et al. (2024))
最近ではオープンデータが増えてきていますが,1つ1つの調査データがグリッドに集約されていたり,ある日の複数点のデータがその日の代表点に集約されていたりと,データが時空間的に丸め込まれていることがあります.こういった丸め込まれたデータに対応した時空間モデルにもチャレンジしたいと考えています.
気候変動下において,森林群集は温暖性の樹種へと組成が変化していますが,その速度は気候の変化の速さに追いつかず,「気候負債」が生じていることが世界中で報告されています.しかし,そのパターンや背後にある生態学的プロセスが気候帯を超えてどこまで共通するのかは十分に理解されていません.そこで,日本の天然林を対象に,全国規模で整備された森林インベントリデータ300種超を用い,群集温度指標の時系列変化と気候負債,生態学的プロセス(加入・成長・死亡),およびそれらを駆動する人為的・非人為的要因を多気候帯間で比較しています.
三陸の磯根生物(三陸産わかめ,マツモやツブ貝)は,高齢漁業者や女性漁業者でも採捕できる漁村経済を支える重要な水産資源です.しかし,これらの磯根資源は水産庁の資源評価対象外であり,資源量の水準や増加・減少傾向といった資源状況が十分に把握されていません.また,海洋温暖化や海洋熱波が三陸海域でも顕在化しているにもかかわらず,磯根資源への影響は科学的に明らかにされていません.そこで,三陸沿岸で第1種共同漁業に指定されている磯根資源を対象に,①資源量の水準や増減傾向といった資源状況の把握,②資源変動に対する海洋温暖化と海洋熱波の影響評価を行っています.そして,①と②の結果を統合して個々の磯根資源の特徴を「三陸プロット」で可視化し,今後必要な適応策の提案を目指しています.