Research

変わらない生殖生物学を研究する

私自身は医師ではなく生物学者です。論文を投稿し、国内外の学会等で発表することでその研究内容を発信しています

どの遺伝子が不妊症などと連携するか、あるいはどのタンパク質がどのタンパク質と作用しあうのか、といった分子レベルでの研究に強い興味があり、自分の知的好奇心を満たすだけでなく不妊症などといった課題への貢献を目指しています。

生殖生物学の分野では、これまでに、たくさんの研究者や医師の知見積み重ねてきました。これにより、たくさんの生殖補助医療技術が発展し、今では生まれてくる新生児の10人に1人近くが生殖補助医療の助けを借りているほどです。この過程では多くの基礎的な研究手段確立されており、現代は、医療に実用されていない技術を含めるとかつてなく多様で膨大な研究の可能性がちりばめられている時代だと思います。あらためてこれまでの医師・研究者の努力に敬意を抱く一方で、散発的な知見の中から真に重要な情報を見極める必要性も感じています。

研究に限らず、物事には必ず多面体としての要素があります。

私の研究では、「精子や卵子の性質を見極める」「加齢等によるこれらの変化を見極める」というのが主なテーマです。これらは、現在の基礎的な生殖生物学分野の大きな課題でもありますが、この課題についてもどの面からとらえるのが最も早く、恒久的な解決に向けてアプローチできるのかを解明したいと思っています。

そこで、私は現在 ”なるべく生体に近い条件で研究を行うこと” と ”研究の成果を数値化すること” によって、世界のどこでも同じ見解にたどり着けることを信じ、主に蛍光観察技術を基盤とした「低侵襲イメージング」を中心技術として研究を推進しています。

生殖生物学に関する研究を進めるにつれ、自分が得た知見をどうやって世界と共有するか、最善の方法を考えるようになりました。

SDGs "女性の生産的雇用と働きがい向上に資する卵の質の本質的理解に向けた試み"研究を推進しています 

群馬大学SGDs

哺乳類の受精や発生を観察するには

現代の生物学では、特定の分子(タンパク質や脂質など)や遺伝子を対象に研究をすることが重要です。特に基礎研究者にとっては当たり前のこととなっているといえるでしょう。

その利点は、病気や老化などの原因をその分子に落とし込むことで、成果を遺伝子診断に広げられたり、体外でその現象を再現・実験することで根治につなげる可能性を広げられたりと、非常に多岐にわたります。

私は特に、その研究対象の分子が ”いつ・どこではたらいているか” に注目することが大事だと思っています。では、生きた卵子や精子、卵巣や精巣といった研究対象の中で、自分が興味のある分子だけを見る方法はどうすればよいでしょうか?

現在、特定の分子がはたらいている様子を観察するには、”蛍光”を使う方法がもっとも効果的です。GFPなど蛍光の分子は、当たった光とは波長の異なる光を返します。青色の光に対して、緑色の光を返すのです。検出器(カメラなど)の前に青色を通さないフィルターを置いたら、細胞のなかで蛍光がある場所だけが、緑色の光として検出されるのです。自分の観察したい分子にいろいろな波長の蛍光分子をくっつけて、蛍光観察するとその分子だけがみられます。

しかし、ヒトやマウスを含む哺乳類はすべて体内受精を行うせいか、紫外線や青色光のような短くてエネルギーの高い光を強く当てると、運動や受精、発生といった生命現象を容易に止めてしまいます。

このため、卵や精子、そしてこれらの織り成す生命現象には、なるべく弱い光でも蛍光を追跡できる高感度検出器を用いることで観察対象に与えるダメージを最小化する”低侵襲性観察装置”が必要となります。我々は、新たな観察装置の開発にも常に取り組んでいます。

蛍光で精子を検出する(右は卵子)

新たなイメージング法で卵子をよりよく理解する

イメージングという単語は、2000年以降の生命科学の研究で盛んに用いられています。要は、対象を可視化する、見えるようにすることであり、観察した結果を示すことも多いと思います。

「百聞は一見に如かず」とはよく聞くことですが、確かにまず観察することは非常に重要です。しかも、継続的に観察すること(=タイムラプスイメージング)は、複雑な素過程同士を分けて、段階的に起こる順序を整理するのに有用です。例えば、