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筆頭著者の論文を中心に解説(感想)を

Nozawa K, Liao Z, Satouh Y, Geng T, Ikawa M, Monsivais D, Matzuk MM.

PLoS One. 2023 Aug 1;18(8):e0289083. doi: 10.1371/journal.pone.0289083. eCollection 2023.

Satouh Y.#, Sato K.#  (#: correspondence) Review

Reprod Med Biol. 2023 Jan 28;22(1):e12505. doi: 10.1002/rmb2.12505. eCollection 2023 Jan-Dec.

卵の質をより深く理解するためには、排卵された卵を構成する卵母性因子について深く知る必要があります。ここまでの、哺乳類卵母性因子の研究について知る限り・調べた限りの知識を著してみました。

特に、排卵直前に起こる卵内オルガネラのダイナミックな変化と、2021年の論文で報告している受精卵の中での卵母性因子の積極的な分解について注目しています。

Morita A, Satouh Y, Sato K, Iwase A.  Review

Med Mol Morphol. 2022 Sep;55(3):167-173. doi: 10.1007/s00795-022-00331-y. Epub 2022 Jul 14.

Satouh Y.#, Inoue N.#   (#: correspondence)  Review

Semin Cell Dev Biol. 2022 Mar 31:S1084-9521(22)00113-6. doi: 10.1016/j.semcdb.2022.03.031. 

福島県立医大の井上さんと、さまざまな生物の受精に共通する細胞突起の形成、そして細胞間認識と融合に関わるタンパク質群についてまとめる総説を書きました。長年考えてきたこと、そしてCD9の研究でより強く考えるようになった受精のメカニズムのことを形にすることができました。 

Satouh Y.#   (#: correspondence)  Review

Reproduction. 2022 Mar 1:REP-21-0438. doi: 10.1530/REP-21-0438.

PLCz1遺伝子欠損マウスの解析の詳細とその前後のインパクト、ヒト臨床に応用するときに考えられる自分なりの注意点などをまとめた総説です。初めての単名論文になりました。

Matsumura T, Noda T, Satouh Y, Morohoshi A, Yuri S, Ogawa M, Lu Y, Isotani A, Ikawa M.

Front Cell Dev Biol. 2022 Jan 12;9:810118.

阪大時代、学生だった松村さんが解析したIZUMO1遺伝子欠損ラットの論文。マウスとラットでは、むき出しにした精子と卵子の表面間の相互作用が異なっており、マウスではIZUMO1に頼らない精子の接着が認められるのに対して、ラットではほとんど現れないという結果かと思います。その分、IZUMO1依存的な細胞間接着の重要性が浮き彫りになったように解釈しています。

Ali El Hussien M, Tsai CY, Satouh Y, Motooka D, Okuzaki D, Ikawa M, Kikutani H, Sakakibara S.

Int Immunol. 2021 Dec 1:dxab111.

Castaneda JM, Shimada K, Satouh Y, Yu Z, Ikawa M, Matzuk MM.

J Cell Sci. 2021 Sep 2:jcs.259206. doi: 10.1242/jcs.259206. Online ahead of print.

Morita A*, Satouh Y*, Kosako H, Kobayashi H, Iwase A, Sato K. (*: equal first)

Development. 2021 Jul 15;148(14):dev199461. doi: 10.1242/dev.199461. Epub 2021 Jul 16.

産婦人科医である森田先生が大学院生として参画し、二人三脚で取り組みました。群馬大に異動後に始めた「卵子細胞膜タンパク質のダイナミクス」研究の最初の論文ともいえるかと思います(CD9もある意味そうですが)。初期胚の発生の良しあしを決定づける卵表層のタンパク質が、どのようにして分解される運命を負うのか、分子レベルでのメカニズムを明らかにすることができました。

プレスリリースを行いました。上毛新聞にも掲載されました。

Inoue N, Satouh Y, Wada I.

Mol Reprod Dev. 2021 Jun 10. doi: 10.1002/mrd.23520.

IZUMOファミリーの一つであるIZUMO3、遺伝子ノックアウトしても不妊とはなりませんでしたが、精子の先体の中に浮かぶacrosomal granuleという構造物が正しく核膜の近くに接着できなくなることで、先体全体の左右対称性が崩壊し、ほとんどの精子の形がおかしくなってしまいます。卵子との融合にとって絶対に必須なIZUMO1と似たような分子が、同じ先体の中で違う働きをしていることは非常に面白い結果でした。不妊と精子形成不全は、症例の多さからしても重要な項目かと思います。原因遺伝子の一つを同定した、とも言えます。

Umeda R*, Satouh Y*, Takemoto M, Nakada-Nakura Y, Liu K, Yokoyama T, Shirouzu M, Iwata S, Nomura N, Sato K, Ikawa M, Nishizawa T, Nureki O. (*: equal first)

Nat Commun. 2020 Mar 30;11(1):1606. doi: 10.1038/s41467-020-15459-7.

遺伝子欠損マウスから未成熟卵子を採ってきてmRNAを顕微注入するという技術と、成熟させた卵子の透明帯を除去して精子との融合能を見るというアッセイ系の技術、そしてイメージング技術などを提供しました。2000年には受精・融合に重要と発見されていた卵子CD9、とても思い入れの深い分子でしたが、表現型から見える機能の解釈は長年少しあいまいなものにとどまっていました。この研究でCD9が非常に特異的な構造を有し、細胞膜に曲率やドメイン形成能があることを示唆することができました。卵子にとどまらず、生体内での機能の謎が一気に解けたように思います。西澤さん、梅田さん、大感謝です。

Castaneda J.M., Miyata H., Archambeault D.R., Satouh Y., Yu Z., Ikawa M., Matzuk M.M.

Biol Reprod. 2020 Apr 15;102(4):852-862. doi: 10.1093/biolre/ioz226.

Sasaki K., Shiba K., Nakamura A., Kawano N., Satouh Y.,Yamaguchi H., Morikawa M., Shibata D., Yanase R., Jokura K., Nomura M., Miyado M., Takada S., Ueno H., Nonaka S., Baba T., Ikawa M., Kikkawa M., Miyado K., Inaba K.

Commun Biol. 2019 Jun 20;2:226. doi: 10.1038/s42003-019-0462-y. eCollection 2019.

学生時代の師匠である稲葉さんの繊毛研究に遺伝子改変マウスの作出という形で貢献できました。

Satouh Y#., Ikawa M.#  (#: correspondence)  Review

Trends Biochem Sci. 2018 Oct;43(10):818-828.  doi: 10.1016/j.tibs.2018.08.006.

幸いにして、ここに至る数年で、IZUMO1-JUNOを介した配偶子融合とPLCz1を通して見えた卵活性化についていくつかの発見を報告できたので、これらを通した今後の発展について総説を書かせてもらいました。

実学的には、以前から融合不全はICSIが解決策だと考えられていますが、卵子活性化もPLCz1で解決出来る事が多いことが見えてきたと思います。 一方で、生物学的観点からはこれらが織りなす詳細なメカニズムとそれ以外の重要な因子にますます注目が集まると大きな期待を寄せています。

Nozawa K.*, Satouh Y.*, Fujimoto T., Oji A, Ikawa M. (*: equal first)

Sci Rep. 2018 Jan 22;8(1):1315. doi: 10.1038/s41598-018-19497-6.

野澤さんとの共同執筆論文#2です。PLCz1遺伝子をノックアウトしてわかったことは、主に(i)PLCz1は顕微授精においては必要十分で必須な精子の活性化因子であること、(ii)PLCz1がなくても配偶子融合などの過程を経れば卵子は活性化されうること、のふたつです。しかし、よく読んでもらうと実はそれ以外にいろんな発見が盛り込んであります。

他グループとの競合でとても悔しい思いもしましたが、大変レスポンスの多い論文で、自分たちが高めてきた技術と、まれにみる重要な知見を組み合わせることができた個人的には満足いく研究結果でした。

Satouh Y., Nozawa K., Yamagata K., Fujimoto T., Ikawa M.

Biol Reprod. 2017 Mar 1;96(3):563-575. doi: 10.1093/biolre/iox002.

野澤さんとの共同執筆論文#1です。近年開発された蛋白質系蛍光Caインジケーターは細胞毒性も低く、長波長を用いる事で光毒性も下げられます。 そこで蛋白質系蛍光CaインジケーターのGECOを用いて受精卵の発生や産仔率に影響を与えずにCa波を定量的に評価する系を構築しました。これは、受精後に起こるCa振動の程度と受精卵の質とを判別するコア技術になり得ると期待しています。

蛍光LCAレクチンを用いた表層顆粒反応とCaの同時可視化もうまくいって、先行研究(10回以上)よりもずっと少ない(2, 3回)Ca振動波で表層顆粒反応が終了していることを見出すことができました。胚の質を理解するうえで、低毒性で定量的なイメージング手法がいかに効果的かを示すことができたと思っています。

Young S.A., Miyata H., Satouh Y., Aitken R.J., Baker M., Ikawa M.

J Cell Sci. 2016 Dec 1;129(23):4379-4387.  DOI: 10.1242/jcs.193151

Young S.A., Miyata H., Satouh Y., Muto M., Larsen M.R., Aitken R.J., Baker M., Ikawa M.

Reproduction. 2016 Dec;152(6):665-672. 

Kato K.*, Satouh Y.*, Nishimasu H., Kurabayashi A., Morita J., Fujihara Y., Oji A., Ishitani R., Ikawa M., Nureki O.

(*: equal first)

Nat Commun. 2016 Jul 15;7:12198.  doi: 10.1038/ncomms12198. 

東京大学の濡木先生の研究室との共同研究でした。JUNOなどの一部の卵子蛋白質は、排卵された後のM2期の状態にmRNAを注入しても発現してくれません。この研究では、CRISPR/Cas9でJUNOを欠損させた排卵前のGV期卵子を取ってきて、mRNAを注入することで様々なアミノ酸に変異を持つJUNOを高発現させることができました。

結果として、JUNOとIZUMO1の相互作用に必要なアミノ酸を同定することができました。一度欠損させた遺伝子・蛋白質を補填するこの手法をegg complementation assayと呼んでいますが、どの遺伝子が卵子にどのくらい有用なのか、どうして有用なのか、を調べるためのツールとして、非常に有用な解析方法だと思います。

Miyata H., Castaneda J.M., Fujihara Y., Yu Z., Archambeault D.R., Isotani A., Kiyozumi D., Kriseman M.L., Mashiko D., Matsumura T., Matzuk R.M., Mori M., Noda T., Oji A., Okabe M., Prunskaite-Hyyrylainen R., Ramirez-Solis R., Satouh Y., Zhang Q., Ikawa M., Matzuk M.M.

Proc Natl Acad Sci U S A. 2016 Jul 12;113(28):7704-10. doi: 10.1073/pnas.1608458113. 

Young SA, Miyata H, Satouh Y., Kato H, Nozawa K, Isotani A, Aitken RJ. ,Baker MA., Ikawa M.

Int. J. Mol. Sci. 2015, 16, 24732-24750. 

Miyata H, Satouh Y., Mashiko D, Muto M, Nozawa K, Shiba K, Fujihara Y, Isotani A, Inaba K, Ikawa M.

Science. 2015 Oct 23;350(6259):442-5. doi: 10.1126/science.aad0836. 

初めてのNSC!でした(共著)。

Tokuhiro K, Satouh Y., Nozawa K, Isotani A, Fujihara Y, Hirashima Y, Matsumura H, Takumi K, Miyano T, Okabe M, Benham AM, Ikawa M.

Sci Rep. 2015 Sep 21;5:14254. doi: 10.1038/srep14254. 

Satouh Y., Nozawa K, Ikawa M.

Biol Reprod. 2015 Oct;93(4):94.  doi: 10.1095/biolreprod.115.131441. 

端的に解説すると、精子に含まれていて卵子活性化因子の一つとして有力といわれていたPAWPについて遺伝子ノックアウトマウスを作ったところ、全くもって卵子活性化能に差が生じなかったという論文です。

つまりPAWPは少なくともマウス卵子の活性化には必須な因子ではなかったということを明らかにしたわけですが、私にとっては卵子を材料にイメージングを行った初めての論文でもあり、”何が活性化因子なのか”という論争に揺れていた卵子活性化の分野で自分の研究を認識してもらえる最初の仕事になりました。

Mashiko D, Young SA, Muto M, Kato H, Nozawa K, Ogawa M, Noda T, Kim YJ, Satouh Y., Fujihara Y, Ikawa M.

Dev Growth Differ. 2014 Jan;56(1):122-9.  doi: 10.1111/dgd.12113.

Mashiko D., Fujihara Y., Satouh Y., Miyata H., Isotani A., Ikawa M.

Sci Rep. 2013 Nov 27;3:3355.  doi: 10.1038/srep03355. 

Fujihara Y., Satouh Y., Inoue N., Isotani A., Ikawa M., Okabe M.

Development. 2012 Oct;139(19):3583-9. doi: 10.1242/dev.081778.

Satouh Y., Inoue N., Ikawa M., Okabe M.

J Cell Sci. 2012 Nov 1;125(Pt 21):4985-90.  doi: 10.1242/jcs.100867.  

阪大時代の研究室に移って最初のFirst Author論文でした。なかなか論文が出なかったのはひとえに自分の努力不足と思いますが、それを置いてもこの論文は本当に思い出深く、共同筆頭著者の井上さんには大変感謝しています。

哺乳類の精子-卵子の融合過程を蛍光タイムラプスした初めての論文だと思いますが、光毒性を下げて可視化するまでに苦労があった分、非常にいろいろな場で評価をいただくことが出来ました。メッセージとしては”先体反応の過程で先体と細胞膜が同一化することでIZUMO1が露出できるようになる”、”精子頭部では赤道部から融合が起きる”、”膜融合の直後にエンドサイトーシス(ファゴサイトーシス?)が起こることを証明した”などなどです。受精をライブイメージングで見る重要さを感じた仕事です。

Inoue N., Satouh Y., Ikawa M., Okabe M., Yanagimachi R.

Proc Natl Acad Sci U S A. 2011 Dec 13;108(50):20008-11.  doi: 10.1073/pnas.1116965108. 

下記のPNASの仕事にも関連しますが、「精子にとっての先体反応とは」という問いに対する挑戦でした。この仕事では、一度卵の透明帯を通った精子が100%先体反応しているという事実をもとに、「透明帯通過後(にある程度時間が経過した後の)の精子を集めてもう一度受精させたらどうなるか」という実験を行い、結果見事に受精を確認できました。先体反応は透明帯の上で起こる必要がないことを証明するもう一つの重要な仕事だったと思います。

Jin M., Fujiwara E., Kakiuchi Y., Okabe M.,Satouh Y., Baba S.A., Chiba K., Hirohashi N.

Proc Natl Acad Sci U S A. 2011 Mar 22;108(12):4892-6.  doi: 10.1073/pnas.1018202108. 

広橋さんの素晴らしいお仕事に触れられてよかったです。「精子の先体反応は卵子の透明帯上で起こっているわけではない」と証明した金字塔的な研究と思います。

Ikawa M., Tokuhiro K., Yamaguchi R., Benham A.M., Tamura T., Wada I., Satouh Y., Inoue N., Okabe M.

J Biol Chem. 2011 Feb 18;286(7):5639-46.  doi: 10.1074/jbc.M110.140152. 

Fujihara Y., Murakami M., Inoue N., Satouh Y., Kaseda K., Ikawa M., Okabe M.

J Cell Sci. 2010 May 1;123(Pt 9):1531-6.  doi: 10.1242/jcs.067363. 

Satouh Y., Inaba K.

FEBS Lett. 2009 Jul; 583(13):2201-7.  doi: 10.1016/j.febslet.2009.06.016. 

筑波大の稲葉研(所属は東北大のまま)でやった研究です。精子の運動性はまだよくわかっていないところがたくさんあります。この論文では、精子の鞭毛運動を制御するといわれているradial spokeをホヤ精子から蛋白質複合体として単離してきて、自分たちで構築したプロテオミクスツールで網羅的に同定しました。これまでは緑藻類のクラミドモナスでしか構成要素が決まっていませんでしたが、脊椎動物へとつながる?動物で初めて同定してみたところ、思った以上に構成要素に差があって、個人的には示唆に富んだ結果でした。

Mizuno K., Padma P., Konno A., Satouh Y., Ogawa K., Inaba K.

Biol Cell. 2009 Feb;101(2):91-103.  doi: 10.1042/BC20080032. 

Hozumi A., Satouh Y., Makino Y., Toda T., Ide H., Ogawa K., King S.M., Inaba K.

Cell Motil Cytoskeleton. 2006 Oct;63(10):591-603.  doi: 10.1002/cm.20146

Satouh Y., Padma P., Toda T., Satoh N., Ide H., Inaba K. 

Mol Biol Cell. 2005 Feb;16(2):626-36.  doi: 10.1091/mbc.e04-09-0784

ホヤ精子のradial spokeの根元にあるRSP3という蛋白質について作った抗体が非常に優秀で、radial spokeをカラムで精製するときのよい指標になってくれました。この論文ではプロテオミクス解析によってradial spokeの部分複合体成分を解析したのですが、ほかの生物種では見つかっていないHeat Shock Proteinの成分を見つけることが出来ました。

Hozumi A., Satouh Y., Ishibe D., Kaizu M., Konno A., Ushimaru Y., Toda T., Inaba K.

Biochem Biophys Res Commun. 2004 Jul 9;319(4):1241-6.  doi: 10.1016/j.bbrc.2004.05.118

Padma P.*, Satouh Y.*, Wakabayashi K., Hozumi A., Ushimaru Y., Kamiya R., Inaba K. (*: equal first)

Mol Biol Cell. 2003 Feb;14(2):774-85.  doi: 10.1091/mbc.02-06-0089

インドから来たPDのPadmaさんと共同筆頭著者になった論文です。あらたなradial spoke成分としてLRR37を同定することが出来ました。Padmaさんは、実験における最初の先輩(師匠は稲葉さん)と呼べるかもしれませんが、そのために自然と英会話を重ねることができたのも非常に幸運でした。

Inaba K., Padma P., Satouh Y., Shin-I T., Kohara Y., Satoh N., Satou Y.

Mol Reprod Dev. 2002 Aug;62(4):431-45.  doi: 10.1002/mrd.10131