2021年度から土庫病院で初期研修を開始しその後総合診療専門研修プログラムで研修中の吉田先生に吉田病院での3カ月(2025年1~3月)の緩和ケア研修の感想などを伺いました。
(吉田病院で研修するに至った経緯を教えて下さい)
土庫病院での2年間の初期研修の時は、急性期治療が中心でしたが、患者さんの多くは高齢者で様々な併存疾患を持っていたり、社会的なニーズがあることも多く、そういうところから総合診療というのものに興味を持つようになりました。
今は3年間の総合診療専門医のプログラムの2年目で、3年間で内科を2年間と救急と小児科を3カ月ずつ研修するというのは決まっていますが、半年間は研修先を自由に選ぶことができ、今回その半年間を利用して奈良医大の緩和ケアチームと吉田病院にそれぞれ3ヶ月ずつの研修を希望しました。
さきほどの話と重なりますが、これまで急性期医療を中心に研修させてもらってきた中でも、患者さんによってニーズは様々で、その中に緩和ケア的なニーズが割と多くあり、そのため今回学びを深めたいと思いました。それから、これまで救急外来で進行がんの患者さんを診察する機会も割と多かったのですが、そういう時に何をすべきか分からず苦手意識があった、というのも志願理由の1つです。
(吉田病院でどんな研修をされたか簡単に教えていただけますか)
あこーだ(緩和ケア病棟)や内科病棟での病棟業務が70%で、20%が訪問診療、残りの10%が当直や救急外来という感じです。また、吉田病院は精神科病棟があり、精神疾患を抱えている患者の身体的治療にも関わることができ、その点も大変勉強になりました。
吉田病院のフィールドの多彩さは魅力だと思います。患者さんとの関りが途絶することなく、あこーだを退院した後も訪問診療で主治医として関わったり、在宅でフォローしていた患者さんが入院された後も病棟主治医として関わることができたり、途中で途絶することなく継続的に関わることができたことで、患者さんご家族とも信頼関係を築くことができACP的な意思決定に関わる話し合いの機会も持ちやすかったと思います。この3ヶ月間で、あこーだだけでなく、そこを飛び出して患者さんご家族が本来生活するその環境で、どんな風に緩和ケアを提供できるのか、ということを学ぶことができたのはとてもよい経験だったと思っています。在宅で看取りをさせていただいた後、ご家族の様子をうかがうため後日訪問させていただいたことも貴重な経験でした。
(研修の感想や新たな発見などがあれば教えて下さい)
半年間の前半の3ヶ月は大学病院の緩和ケアチームでの緩和ケアに携わっていたため症状緩和が緩和ケアの大きな役割で、いかに迅速に苦痛症状を緩和し主科の診療を効率的にサポートするかということが問われましたが、吉田病院に来てから、緩和ケアの役割は症状緩和だけではない、ということに改めて気づかされました。
オピオイドを処方するにも、コミュニケーションの力がとても大切で、ただ薬を処方するだけでは飲んでもらえないこともあって、患者さんの気持ちに沿ってそれに応じてお伝えする必要があって、こういう症状緩和以外のコミュニケーションや調整力のような要素が大切なんだと知ってから、緩和ケアの印象が全く変わりました。
それから、症状緩和だけでは患者さんはハッピーにならない、というか、僕らとしても全然その人の人生に関わることができない、というか、とにかく吉田病院に来た当初は大学病院との違いに戸惑いましたが、先生方とディスカッションをしたりする中で少しずつ切り替えられるようになり、症状緩和はもちろん大切ですが、その人の残された時間を意識して、その時間の中で僕らができることは何なのだろう、というようなことを考えるようになってから、患者さんやご家族と関わる幅が広がり、より主体的に関わることができるようになり楽しく臨床をさせてもらえた気がします。
(多職種のアプローチで患者・家族と関わることについて)
あこーだのような病棟では特に緩和ケアの中心は看護師さんになるので、病棟の看護師さんとのコミュニケーションは意識しました。看護師さんから医者に見せない患者さんの一面を教えてもらったり、情報共有のためのカンファレンスをしたりすることで、患者さんの全体像や人間性に迫ったチーム医療というのはとても勉強になりました。
(これからの先生のビジョンや方向性などについて教えていただけますか)
これまで救急や小児科など様々な診療科を経験させていただき、いずれも充実した研修でしたが、今後ずっと続けていきたいとまでは思えませんでした。吉田病院にこさせてもらって、自分のライフワークとしてやっていきたいと初めて思えたのが緩和ケアです。
ただ、今からずっと緩和ケアだけをやっていくというのも違うのかなと思っていて、吉田病院にいる緩和ケアの先生方が皆それぞれの専門性を持っておられるように、まずは何か自分なりのバックグラウンドを探したいと思っています。
総合診療とか家庭医療という領域をバックグランドとして、非がん患者さんの緩和ケアについて深めていくというのは自分の一つのテーマかなと思っています。これから色んな施設を見てみたいというふうにも思っています。
(緩和ケアの研修を考えている先生へメッセージをお願いします)
緩和ケアは門戸の広い領域だと思います。最近はICU領域でも緩和ケアの必要性が叫ばれていますし、バックグランドとしてどんな専門性を持っていたとしても、緩和ケアと重なる領域はどこかにあると思うので、少しでも興味を持ったのであれば、思い切って飛び込んでみてほしいなと思います。僕もそんな感じで、あまり深く考えずに吉田病院に来させてもらいましたが、本当に多くのことを経験させてもらいました。