四季おりおり
Seasonal Story
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拝啓
昨日までの暑さは台風が連れて行ってくれたみたいです。
秋を感じる、気持ちのよい涼しさになりました。
そちらはいかがお過ごしですか。
さて、本日の夕食(ゆうげ)は貴方の好きなハンバーグです。
にんじん、玉ねぎ、椎茸を刻んで炒め、ひき肉と共にボウルに入れる。
さらに卵、パン粉、牛乳と塩胡椒を少々。
手早くこねたら形成し、油をひいたフライパンで焼く。
そうそう、手が汚れて使えない私の代わりにフライパンに蓋をしてくれました。
あの頃は本当に助かりましたよ、ありがとう。
ソースはフライパンに残った肉汁に、ケチャップやマヨネーズを和えた特性のもの。
美味しそうに食べてくれる貴方が懐かしいです。
そうでした。
買い物に行く途中に屋台が出てまして、美味しそうなおはぎがありました。
きな粉をまぶしたものと粒あんのおはぎ、どちらがいいですか。
良ければ半分こしませんか。
置いておきますので、好きに食べてくださいな。
庭のリンドウがもうすぐ咲きそうです。
貴方のように世話をしてみましたが、草いじりは難しいですね。
蕾がつくまでに3年もかかってしまいました。
綺麗に咲いたら、また、見せますね。
貴方の素敵な笑顔を見れる日を楽しみにしております。
敬具
私にとって秋分の日は、衣替えの日だ。
朝起きて、少しゆったりとした朝食をとり、溜まった洗濯物を片付ける。
部屋の掃除を終わらせ、洗い上がった洗濯物を干したらひとまず休憩。
昼食後、いざ夏服の片付けに入る。
まずは、いらないものを選別して売れそうなものを選り分ける。
残った夏服スカートやワンピースは綺麗に畳み、他の夏服と共に引き出しに仕舞う。
逆に、冬服スカートやワンピースはハンガーに吊るす。
最後に、夏物と冬物それぞれが入った引き出しを交換して入れ直す。
いつも1時間程度で終わってしまう。
さあ、残り半日。何をしようか。
実家から柘榴(ザクロ)が送られてきた。
「もうそんな時期か」
10月になれば庭先の柘榴が摘み取られ、毎日のように食卓に並ぶのが日常だった。
おやつの時間にはジュース、夕飯には酢の物、朝はジャム。
一人暮らしになってからは必ずこの時期に送られてくる。
(連絡しないと。)
ベットから携帯に手を伸ばし、メッセージアプリを開く。
3ヶ月前に母の誕生日を祝ったきり、何も話していなかった。
電話アプリを開く。
「もしもし、祥子!」
数回のコール音の後、元気な母の声がする。
「久しぶり。柘榴、届いた。いつもありがとう。」
「うんうん! 一人じゃ食べきれなくてね〜。 そうそう、となりの山辺さんがね、……」
しばらく母の話に付き合い、「またね」と電話を切る。
時計を見て驚く。1時間も経っていた。
柘榴を冷蔵庫に入れようと段ボールを開けると、小さな白い封筒も入っている。
それは、母から父に宛てた手紙だった。
「…ハンバーグ好きなの、家族みんなでしょ。」
思わず出た独り言を飲み込んで、冷凍庫のひき肉をレンジに入れる。
今日の夕飯は柘榴入りソースで仕上げたハンバーグにしよう。
中間テストまで、あと5日。
「ヤバい。本当にヤバい。」
バイト帰り、時雨で濡れた折り畳み傘を玄関に干し、部屋の荒れようにため息が出る。
机の上には英語や数学の問題集がどれも手付かずのまま積み上げられ、床にはルーズリーフが散らばっている。
(やっぱり、テスト直前のシフトは断るべきだった!)
生活費を稼ぐためとはいえ、中学生のアルバイトは禁止されている。
勤務先には年齢を偽っているし、店長からの懇願は断れなかった。
テスト初日は数学2、英語A、地理。
2日目は化学、国語。
日曜日の休みを挟んで、
3日目は英語B、古文、歴史。
4日目は物理、数学B。
(提出物は、社会の授業用ノートと数学・物理・化学の問題集ノート、あと…)
買ってきたコンビニ弁当を右手でつまみながら、左手で数学の問題集を解き進め、さらに別の頭で提出物を確認する。
平日は通常授業とシフトが詰まっているから、明日からの土日が勝負だ。
「なんとしても数学と化学の問題集は終わらせてみせる!」
冷え込みが増して冬の訪れを感じる夜、彼女の目は燃えていた。
「おかあさん! 延長コードある?」
「リビングの押し入れの右奥にあるんだけれど、わかるかしら?」
「見つけた!! ありがとー」
今日の我が家はめずらしく賑やかです。
会社帰りの祥子と学校帰りの塔子が、こたつやストーブを出してくれているのです。
早朝に塔子から、「今日行くから!」とだけ電話があった時は驚きましたが、
久々に元気な二人の姿を見られて、私は幸せです。
塔子は学校で2番目の成績だったそうです。悔しがっていました。
祥子は会社で失敗続きのようです。塔子が慰めていました。
二人とも明日は休みのようで、ここに泊まるとのこと。
田舎のボロ家ですから、冷えたらいけないと思って夕食はおでんにしました。
少し作り過ぎた気もしますが、貴方も食べてくださいな。
みんなで、久しぶりの家族団欒(だんらん)を楽しみましょう。
今日は勤労感謝の日。
年末が近くなり、忙しさを増していく中での貴重な休日。
テレビを横目にビーズ細工を楽しんでいると、
窓の外から太鼓と鈴の音が聞こえてくる。
(......お祭りかぁ。)
友達とご飯を食べに行ったり、会社の飲み会があったりと、
毎年、この日は自宅にいなかったから、この時期に祭りがあると知らなかった。
(何のお祭りだろう。氏神様の新嘗祭かな。)
実家が米農家だったこともあり、この時期のお祭りといえば収穫感謝のイメージである。
都心に近いところにも関わらず、祭りが行われていることに驚いた。
テレビを消すと、太鼓や鈴の音以外に、祭りを盛り上げる人の声も聞こえる。
(......楽しそう。)
いそいそとコートとストールを着込む。
気づけば玄関でスニーカーを履いていた。
ドアを開け、楽しい音色のする方へ駆け出す彼女であった。
拝啓
今朝方振った雨でできた水たまりに、風で割れてしまいそうな薄い氷が浮かんでおりました。
寒さも本格的になってまいりましたが、そちらはいかがお過ごしでしょう。
そろそろお鍋の時期ですが、一人でいただくには多すぎるのです。
その話を塔子にしたら、「ぽとふ」はどうかとおすすめされました。
雪平鍋に水とコンソメを入れ、キャベツや大根、にんじん、玉ねぎなどの野菜とウィンナーを入れて煮込むだけ。
身体も温まり、大変美味しゅうございました。
この時期になると、外に出ることも少なくなります。
寒さに弱い庭の草花も家の中へ入れてやりましたし、そろそろ正月準備を始めませんと。
年々、身体の動きが鈍くなってまいりました。
思うように動かない不自由さが歯痒いです。
祥子も塔子も25日ごろ、こちらに帰省するそうです。
大掃除を手伝ってもらおうかしら。
楽しみですね。
敬具
「さて、っと。」
左手で冷蔵庫の野菜室から1/4に切られたかぼちゃを取り出し、
右手で引き出しからスプーンを取り出す。
流れるままにそのスプーンでかぼちゃのワタや種を削り出し、包丁に持ち替える。
体重を思いっきりかけながら硬いかぼちゃを一口サイズに切ったら、
表皮が上になるよう、雪平鍋に敷き詰める。
かぼちゃがひたひたに浸かるよう水と昆布を加えたら火にかけ、煮立ったら砂糖を加える。
しばらく煮たら醤油と塩を入れ、柔らかくなるまでコトコト煮る。
火を止めてほとんど冷めた頃、一口食べてみた。
(うーん、なんか足りない。)
冷凍庫から取り出した鰹節を軽く潰しながら振りかける。
「うん、いいね!」
母のような深い味わいはまだ出せないけれど、これでも十分美味しい。
帰省したら、お母さんにまた作ってもらおうかな。
「あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします」
耳を澄まさずとも、どこかしらで新年の挨拶を交わされている朝の会社。
社内の机に少し懐かしさを感じながら、自席でパソコンを起動する。
パスワードを入力しようとして、ふと手が止まる。
(......あれ?なんだっけ?)
今年の正月休みは所定休日で9連休、私は有給取得により12連休だった。
違う。それはどうでもいい。とにかくパスワードだ。
(確か、このあたりに...)
あった。メモを広げ、書いてあるパスワードを入力するとパソコンは開いた。
そのメモは綺麗に畳み、元の場所に戻す。
流れるようにお茶を飲み、深く一息つく。
彼女の仕事が始まった。
「寒い……。さっさと買い物を済ませてしまいましょう」
ぐっと冷え込みが激しくなり、布団から起き上がるのもより億劫に感じる。
そんな寒さの中、今日はスーパーに食材の買い出しに来ていた。
野菜売り場は、冷蔵庫でありながら外よりも暖かく感じる。
「あら、ほうれん草」
我が家でほうれん草を食べるときは必ずと言っていいほど、「胡麻和え」にする。
あの頃は、ただ私が胡麻和えを好きで作っていただけなのに、冬になると、夫や娘たちから「ほうれん草の胡麻和え」がリクエストされることが増えていった。
(……今日の小鉢は決まりね。)
いそいそとほうれん草をかごに入れ、今にもスキップしだしそうな勢いでレジに向かう。
小雪が散る中、母の心は懐かしさで十分暖かいのだった。
// 続く。