僕 (Bo-Ku)
"I"s Story
"I"s Story
ある日、気づいた。
僕の手を見て、"僕"という存在に気づいた。
そして思った。
「どうして僕は生きているのだろう」
母に聞いた。
「死にたいの?」
父に聞いた。
「なんでも人に聞くな。」
先生に聞いた。
「大人になればわかる。」
友人に聞いた。
「変なの。」
そうして、僕が周囲と違うことを知った。
僕は「生きる理由」を探し求めた。
だけど一人、取り残されるのは嫌だ。
人に頼らず、自力で見つけることにした。
勉強、クラブ、習い事、なんでもやった。
小学校、中学校、高校、大学、「それ」を見つけるために必死で勉強した。
そして僕は二十歳になった。
だけど「それ」は見つからない。
見つからないなら死ぬしかないじゃないか。
僕は縄を手に取る。
勉強すれば、見つかると思った。
芸術に触れれば、見つかると思った。
友達を作れば、見つかると思った。
仲間を作れば、見つかると思った。
二十歳になれば、見つかると思った。
大人になれば、見つかると思った。
「生きる理由」のない僕は、生きてちゃいけない。
「生きる理由」のある人に、道を譲らなくちゃいけない。
だから僕は、死ぬのだ。
死ななくちゃいけない。
『死ねば他人に、道を譲れるのか?』
縄を首にかける手が止まる。
「自分が死ねば、誰も僕に無駄金を払わなくて済む」
『"僕"がいなくなるのだから当然だ。他人の"生"にどんな利益があるかを聞いている』
答えられない。
『"命"の譲渡は不可能だ』
「その"命"は、"僕"にしか使えない。」
縄が床に落ちている。
死ななかった。死ねなかった。生きることになった。
理由もないのに、生きなくちゃいけなくなった。
そんなの、ただの拷問じゃないか。
"人は論理的に考えながら、感情的に行動する生き物だ。"
そう言ったのは、誰だったろうか。
心動く瞬間のないボクは、人ではないということだろうか。
そもそもボクは誰なのだろう。
自分が眠っていたことに気づき、目を開ける。
なぜこんなにも自室が荒れているのか。
ビニール紐で輪を作り、何をしたかったのか。
起き上がり、キッチンで水を飲む。
一呼吸して記憶を探るが、濃霧の中を進んでいるようで、よくわからない。
ただ、ここがそれなりに長い間暮らしてきた自宅であることはわかった。
キッチンの洗い場を見ると、パン皿とコーヒーカップがそれぞれ1組ずつあった。
お茶のコップも今出したものとは別に、口紅がついたものが1つある。
食器棚の食器はそれぞれ5つずつ丁寧に重ねられ、お茶碗は大中小の3つが用意されていた。
ボクはこの家で三人家族の一人っ子として育ったようだが、今は"母"と二人暮らしらしい。
その母は、働きにでも出ているのだろう。
自室に戻り、荒れた机の上の書類を探る。
見つけた財布から保険証を取り出し、自分の名前と性別を確認する。
(やはり、女性、なのか。)
名前に違和感はないが、それがボクと直接的に繋がっている感覚はなかった。
性別も、女性ということに違和感はないが、ボクがそうであるとは言い切れなかった。
ボクは、、、
誰なんだ。
何なんだ。
「なぜ生きているんだ」
自室のゴミ箱に押し込められたビニール紐を見る。
「......死のうとしたのか? でも、できなかった......そうか、ふて寝したのか。」
状況はある程度理解しつつも、現実を受け止め切れていない。
打開策は、この部屋にあるはずだと思った。
荒れた部屋の片付けをしよう。
片付けをしていると、机の上から日記を見つけた。
表紙には「毎日書くこと!」と大きく書かれ、端には小さく「vol.3」とあった。
部屋に散らばっていた本やノートには全て目を通したが、「vol.1」や「vol.4」の類は見つからなかった。
とはいえ、"ボク"のルーツにたどり着けるかもしれない。
期待を胸に、ノートを開く。
『あなたは、誰ですか?』
ページの中央に黒色で書かれていた。
次のページ、さらに次のページ、全てのページを確認する。
1ページ目以外、全て白紙だった。
その1ページ目すら、何も情報がない。
「......ボクの方が聞きたい」
正直、手詰まりだった。
部屋から出てきたものといえば、大学の教科書、ノート、パソコン、スマホ、その他送付物、そして大量の本。
パソコンは暗証番号がわからず開けられない。
スマホは顔認証で開けられたが、SNSアプリもなく、ほぼ初期状態だった。
『あなたこそ、誰ですか。』
ボクは、机の上にあった青色のボールペンで日記に追記する。
何がどうなっているのかわからない不安や怒りが込み上げてくる。
『パソコンは開けられない、スマホにも情報がない。唯一見つけた手がかりがこのノートだった。そんなこと聞かれても、ボクは、なにも知らない。』
(何をしているんだ、ボクは。)
ノートに書く手を止め、床に寝転び天井を見る。
ボクは、ボクがわからない。
何が好きで、何が嫌いかわからない。
ボクの名前も、年齢も、性別も、
保険証の"自分"とは異なるが、具体的に何なのかわからない。
目を閉じ、そして問う。
「ボクは、誰だ。なぜここにいる」
// 続く。