第5回ワークショップ:「医療政策研究の現在地:公衆衛生学・行政学・経済学の視点から」
「国民皆保険」という言葉に象徴される戦後日本の医療政策は、「常に転換期」といってよいほど、皆保険達成後も不断の改革や見直しが進められています。そして、様々な改革や見直しを重ねるたびに、また医学や医療技術が進歩するたびに、医療政策をめぐる議論は複雑化し、見通し難くなっています。そこで今回は、公衆衛生学・行政学・経済学という異なる視点から複眼的に医療政策を考えるために、それぞれの分野の研究者に報告して頂きます。(文責:安藤)
開催日時: 2026年3月23日(月) 17:00-19:00
場所:オンライン
注:立教大学での対面開催はありませんのでご注意ください
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プログラム
17:00-17:40 伊藤ゆり(大阪医科薬科大学) 「医療政策研究に必要な公平性の視点: 公衆衛生学の立場から 」
17:40-18:20 三谷宗一郎(甲南大学)「政策起業家はどのように政策アイディアを構築すべきか―2020年代の医療保険制度改革を事例に―」
18:20-19:00 高久玲音(一橋大学)「日本の医療制度に関する論点と課題 ―自維連立合意書を踏まえた政策展望―」
コメント:安藤道人(立教大学) (参加者からの質問も受け付ける予定です)
報告要約
伊藤ゆり(大阪医科薬科大学) 「医療政策研究に必要な公平性の視点: 公衆衛生学の立場から 」
「本報告では、医療政策において公平性の視点がなぜ必要なのかについて、その動機について触れ、日本の国民皆保険制度やユニバーサルヘルスカバレッジにおける公平性の視点について整理する。また、健康日本21やがん対策推進基本計画における健康の社会的決定要因や健康格差の扱いについて共有したのち、現在の日本の医療制度下における公平性の現状についてがん対策を事例に、地域の困窮度による各種健康アウトカムに関する格差や、治療継続に影響を与える経済毒性や破滅的医療支出など社会的苦痛の現状について紹介する。これらの現状を踏まえ、今後の持続可能で公平な制度設計にどのような医療政策研究が必要であるかを議論する場としたい。」
三谷宗一郎(甲南大学)「政策起業家はどのように政策アイディアを構築すべきか―2020年代の医療保険制度改革を事例に―」
「本研究は、政策起業家がどのような政策アイディアを構築すれば、その実現可能性を高めることができるのか、2020年代の医療保険制度改革を事例に取り上げ、理論的・実証的に検討するものである。政治学・行政学・公共政策学において、政策過程を左右する変数として、アクターの利益対立や制度の経路依存性に加えて、アクターが有するアイディア(信念や具体的な政策提案など)の重要性が広く認識されるようになっている。しかし、どのような政策アイディアを構築すれば、それが政策コミュニティに受容され、実現に至る可能性が高まるのかについては、いまだ十分に解明されていない。この理論的空白に対し、近年、政策アイディアの「ロバスト性」、すなわち、環境の変化や利害対立の中でも、支持を維持しうる政策アイディアの性質に注目が集まっている。本報告では、政策起業家がロバストな政策アイディアを構築するための条件を明らかにするため、政策アイディアの誘引性(valence)および多義性(polysemy)という二つの概念に基づく分析枠組みを提示する。その上で、2020年代における給付範囲の見直しをめぐる医療保険制度改革を事例に取り上げ、政策起業家がいかにして政策アイディアを構築・提起し、支持を調達していったのか明らかにする。以上により、医療政策をめぐる政策形成・決定過程の特質を整理しながら、政策アイディアのロバスト性を構成する具体的なメカニズムを提示し、政策過程論への理論的貢献を試みる。」
高久玲音(一橋大学)「日本の医療制度に関する論点と課題 ―自維連立合意書を踏まえた政策展望―」
「本報告では、近刊の著書『医療崩壊の経済学―現代日本医療制度の再検討』に基づき、主に医療提供体制に関する2つの論文を報告する。1つは救急医療の提供体制に関する研究、もう1つはコロナ禍における病床確保に関する研究である。後者については、「コロナ禍における病床確保料の効率性:情報開示請求による病院別個票データの解析」としてディスカッションペーパー(DP)が公刊されている。これらの分析を通じて、自維連立合意書も参考にしながら、「新たな地域医療構想」も含め今後の医療提供体制の改革について検討する。」