「獣医師×SDGsアクションプロジェクト」グループの設立1周年を記念し、「国内外で話題のOne Health(*One Healthとは、人間と動物、生態系の健康を一体として捉える考え方です)とSDGsに獣医師がどのように関わっていけるのか」をテーマとしたオンラインイベントを2021年3月13日に開催しました。
【本テーマを選んだ理由】
新興・再興感染症発生の背景にある森林破壊や気候変動、エネルギー問題など、人と自然が共に生きていける社会の実現に向けて、獣医学だけでなく他分野との連携がこれまで以上に求められている現状を、
One Health、そしてSDGs双方の視点から改めて一度考えてみる必要があると考え、本テーマを選びました。
前半は、基調講演として東京都獣医師会副会長中川清志先生より「One HealthとSDGsと獣医師の役割」について
お話頂き、後半は、4つのグループに分かれ、オンラインソフトのmiro(https://miro.com/index/)を用いて
ワークショップを行いました。
【基調講演】
基調講演では、まず初めに、獣医師の担う役割について、歴史的な背景を踏まえご説明いただきました。その中では、獣医師免許を保有するということは、「動物に関する保健衛生の向上及び畜産業の発達を図り、あわせて
公衆衛生の向上に寄与する」という役割を担うようになるという点について触れられ、「衛生」の起源とは「看護」であり、人の健康を守るという意味も含まれている点をご説明いただきました。
次に本イベントの主要なテーマである「One Health」を考える上で、重要な「感染症」を中心にご説明いただきました。今回のCovid-19も含め、新興・再興感染症の7割程度は動物が介在(人獣共通感染症)することや、感染症の動向把握には、野生動物の抗体保有率や健康な生態系が維持できているか等が重要な情報であるにもかかわらず、
例えば野生動物のモニタリングは、現状ほとんど実施されていない点などをご説明くださいました(ここ数年では、各都道府県でロードキル個体などの年間数頭把握を実施している程度とのことです)。
また、これまでに実施されている東京都獣医師会の具体的な活動についてもご説明いただきました。
*東京都獣医師会の公益事業と対応するSDGsについては写真をご参照ください。
【東京都獣医師会が実施している(した)具体的な公益事業】
●2014年国内でのデング熱発生時のイヌ・ネコに関する感染の情報発信
国内専門家と連携し正確性・透明性・即時性を重視
●人と動物、生態系の健康は一つ、ワンヘルス宣言
WWFの呼びかけにより、東京都医師会や日本野鳥の会などとともに共同宣言
●2016年熊本地震現地調査
「同行避難」とは避難場所までペットとともに避難すること
「同伴避難」とは避難施設で飼い主と共に過ごすこと
これらの言葉の定義が正しく認識されておらず情報が錯綜
情報の収集と発信の体制整備や平時から支援体制を周知すべき課題、
時系列での災害時に必要なことなどが明白化
●希少種を守る地域協働の取り組み「小笠原ネコプロジェクト」
人によって小笠原に持ち込まれたネコが島の生態系維持にとって重要な海鳥を捕食している問題に対して、ネコ
を殺処分するのではなく、島外へ搬出して生態系を守るという世界的にみても珍しい解決策
●学校飼育動物支援事業「命の授業」
ただ動物を飼うだけではなく、専門家(獣医師)が関わることで愛情や共感などを育む学校教育の一環として
地域全体で支える活動などを実施されているとのことです。
ご講演の最後に個々の獣医師ができること、組織としてできることを考えてもらいたい、とのメッセージをいただきました。
【ワークショップ】
後半のワークショップでは、以下の4つのテーマについて議論しました。
・One Health(すべての人と動物に健康と福祉を)
・働きがいも経済成長も、ジェンダー平等
・多様で豊かな自然環境を
・無駄な消費がない社会
miroは、オンラインホワイトボードとして利用し、ファシリテーターが画面を共有しながら出た意見をポストイット風にまとめることが出来ました。これにより、貼り出された意見を基に対面でのワークショップのように活発な議論をすることが出来ました(意見のまとめは写真を確認ください。)。
各グループの議論から出てきた意見として、ジェンダーに関する勉強会を行う・使い捨てプラスチックを使わない・外来種問題を知る・ジビエについて考えるなど個人レベルで取り組みが可能なこと、また、育休システムを導入
する・福祉事業と連携するなど組織レベルで取り組めること等が挙がり、最後に各グループの発表・共有を行いました。
時間の制約はありましたが、どうすれば実現出来るか、どう目標設定するかなどの課題も話し合うことができました。
【イベントを振り返って】
今回はグループが始まって以来、初めてワークショップも組み込んだ大きなイベントとなりました。オンライン開催だったことで不安な部分もありましたが、沢山の方に参加頂き運営一同ホッとしています。人、動物、環境の健康を一体とするOne Healthに対して、また世界共通の目標であるSDGsに対して、獣医師はどのように行動していけば良いのか、今後も情報共有・イベント等を通じて一緒に考えていただければ嬉しいです。最後になりましたが、講演
頂いた中川先生、参加者の皆様ありがとうございました。今後もご意見・要望等どうぞよろしくお願い致します。
【運営側感想】
・ワークショップでは学生さんや自分とは異なる分野で活躍されている獣医師の皆様と顔を見ながら議論ができ、とても良い刺激を受けました。今後のアクションについて皆様と実現させていくことが更に楽しみになってきました! 山本(伊藤)
・COVID-19によってオンライン開催になりましたが、遠方の人と繋がれたり、物品や部屋の手配が必要なかったりと良いこともありました。One Health、SDGsと獣医師の関わり方、様々アイデアを頂けました!!(城戸)
【皆様からのご感想(終了後アンケートより】