文献案内:
医学と価値をめぐる主要な議論をつかみたい方は、医学の哲学に関する網羅的なハンドブックの一章である[1, 2]から入るとよい。最近の価値論における必読論文である[3]も、医学の事例が用いられているため、医学関連論文の枠組みに入れている。
一方、医学研究の具体的な実践に即して考えたい方には、局面ごとに以下を挙げておく。EBMについては[4, 5]、報告ガイドラインと透明性については[6]、臨床レジストリについては[7]、共同研究体制と信頼性の確保については[8]を参照されたい。また、何に価値があるのか、という考え方そのものの流動性に関心があれば[9, 10]を参照されたい。
最後に、Value-Based-Medicineを提唱する[11]は、哲学の外側で「価値」という語がどう用いられているかを知るための一本として加えた。
(2026年8月末を目安に順次追加予定)
医学の哲学を幅広く扱ったハンドブック『The Routledge Companion to Philosophy of Medicine』の一つ。このハンドブックでは全47章にわたり、科学哲学に限らず、医学の哲学について広く解説されている。
本章は「医学研究における価値」について論じた章。医学研究も他の科学と同じく、価値中立的でいることは不可能であるし、それを求めることも望ましくない。むしろ研究者がどのような価値に基づいて研究を進めているかを透明化し、社会全体でその研究を批判的に評価することが、健全な医学研究の実現のために必要である、と著者のBorgersonは論じている。
同様に医学の哲学を幅広く扱ったハンドブック『The Oxford Handbook of Philosophy of Medicine』の一つ。上記2016年のハンドブックよりも新しく、最近の科学哲学のトピックも扱われている。
本章も「医学研究における価値」について論じた章。Borgerson (2016)が「研究は価値中立的か否か・価値中立的であるべきか否か」という点を議論していたのに対して、本章ではより近年の「どのような価値が、いつ、どのような役割を果たすべきか」という価値管理問題を扱っている。
[医学関連文献3](公開日:2026/08/08)
Douglas, Heather (2000), "Inductive Risk and Values in Science", Philosophy of Science 67, 559–579
近年の《科学と価値》論争における最重要論文の一つ。ダイオキシンの発がん実験を事例に挙げ、科学には価値が関与するし、また科学者は自身の責任で価値判断をしなければならないと主張する。加えて本論文では、非認識的価値は科学の内部段階において、間接的な役割を果たすと論じる。
Evidence-Based Medicine (EBM) の三要素はエビデンス・患者の価値・専門家の判断、である。この中で、特にエビデンスとその方法論については研究が大きく進んできた。しかしEBMに内在するはずの価値の議論は十分になされてきたとは言い難い。本論文ではEBMに内在する価値について整理する。そして、EBMの内部に存在する価値を明示して、民主的な議論の俎上に載せることが重要であると主張する。
現代医学に対して、「エビデンスの質が低く、それゆえ医学は信頼できない」と言う批判がある。本論文は、こうした批判が、「事実は価値から独立している」という誤った前提に基づいており、有効な批判ではないと論じる。