本サイトの運営を一部とする研究課題「科学における《価値中立性》理念に対する科学哲学的観点からの再検討」では、科学は社会的価値や政治的価値の影響を受けないとする《科学の価値中立性理念》の是非を主題的に検討します。科学哲学分野ではこの理念を十全に引き受けることは難しいという理解がおおむね標準化していますが、本研究課題では、この見解をひとまず受け入れた上で、《どのような価値判断の関与であれば許容可能か》という価値マネジメント問題に焦点化し、科学研究分野の多様性を踏まえた現状分析と規範的提言を目指します。
本サイトは、 日本学術振興会による「科学研究費助成事業(課題名「科学における《価値中立性》理念に対する科学哲学的観点からの再検討」2024.04.01-2029.03.31)」の助成を受けています。
本サイトでは価値中立性に関する重要文献のレジュメを公開しております。毎月2~3本ほど追加していく予定です。
代表 :井頭昌彦(一橋大学)
分担 :二瓶真理子(岩手大学)
分担 :清水右郷(宮崎大学)
研究員:征矢法子(一橋大学)(2025年5月~2026年3月末)
研究員:佐藤達之(北海道大学)(2025年5月~2026年3月末)
研究員:守博紀(一橋大学)(2024年5月~2025年3月末)
研究員:伊沢亘洋(京都大学)(2024年5月~2025年3月末)
文献1-14担当者:伊沢亘洋
文献案内:「科学と価値」というテーマについて、まず包括的かつ入門的に学びたい場合は[価値中立性文献6,7,8][9]をお勧めしたい。その上でこのテーマの基本となるキーワードをさらに深めたいという人は次の文献を読んでほしい。「帰納のリスク」→[13]、「価値」→[11]、「価値判断」→「12」、「理論的価値」→「14」。また「科学と価値」というテーマは、科学の個別分野においてそれぞれ特有の問題を形成している。担当者の関心から、特に測定関連の文献を集中的に紹介している。社会科学の測定→[1]、患者中心報告測定→[2][10]、心理測定→[3][5]、ウェルビーイング測定→[4]。
[価値中立性文献1](公開日:2025/07/24)
Bradburn, Norman M., Nancy L. Cartwright, and Jonathan Fuller “A theory of Measurement” In McClimans, Leah, ed. 2017. Measurement in Medicine: Philosophical Essays on Assessment and Evaluation. London, England: Rowman & Littlefield International.
社会科学、特に医学の分野における測定と評価に関連する哲学的問題を扱った論文集『Measurement in Medicine: Philosophical Essays on Assessment and Evaluation.』の一つ。本論では社会科学、医学分野で特有の混雑概念(a ballung concept)を測定する際の問題を扱っている。
[価値中立性文献2](公開日:2025/07/24)
Leah M. McClimans pp. 89-107 “Ch6 Psychological Measures, risk, and values” In McClimans, Leah, ed. 2017. Measurement in Medicine: Philosophical Essays on Assessment and Evaluation. London, England: Rowman & Littlefield International.
社会科学、特に医学の分野における測定と評価に関連する哲学的問題を扱った論文集『Measurement in Medicine: Philosophical Essays on Assessment and Evaluation.』の一つ。近年測定理論分野においては実在論的立場が取られており、認識的価値の観点から古典的テスト理論が批判されているのに対して、本論では古典的テスト理論だけが持つ非認識的価値に基づく良さがあり、このことが患者報告による臨床アウトカム評価の文脈で認識的価値と衝突していることを指摘する。
[価値中立性文献3](公開日:2026/05/29)
Michell, Joel. 1997. “Quantitative Science and the Definition of Measurement in Psychology.” British Journal of Psychology 88 (3): 355–83.
心理測定を行う前に、測定対象の量的構造を検証することが必要であることを指摘した論文。科学の真理探究という価値よりも実用主義的価値が先行した結果、心理学において測定の定義が歪曲した形で普及してしまったことを問題視している。
[価値中立性文献4](公開日:2025/08/13)
Alexandrova, A. 2018. “Can the Science of Well-Being Be Objective?” The British Journal for the Philosophy of Science 69 (2): 421–45
社会科学では、特定の規範的前提を採用することがある。このような規範的前提に基づく主張(混合主張)が客観的であることを説明するような、既存の客観性概念はない。本論では混合主張の客観性として熟議的手続きによる客観性を提案する。
[価値中立性文献5](公開日:2025/08/13)
Wijsen, Lisa D., Denny Borsboom, and Anna Alexandrova. 2022. “Values in Psychometrics.” Perspectives on Psychological Science: A Journal of the Association for Psychological Science 17 (3): 788–804.
心理測定学がしばしば価値中立的な技術分野と見なされているにもかかわらず、その理論や実践には多くの価値判断が組み込まれていることを論じる。本論では特に4つの点を指摘する。①質的ではなく量的な個人差の概念化、②測定における客観性の追求、③測定における公平性(fairness)の追求、④真理よりも有用性を優先すること。心理測定学の前提や目的に含まれる価値を明示化することが、能力主義や公平性をめぐるより批判的で反省的な議論につながると主張する。
[価値中立性文献6, 7, 8](公開日:2026/05/29)
Elliott, Kevin C. 2022. Values in Science. Cambridge University Press. Ch.1&2、Ch.3、Ch.4&5
科学において価値がどのように働いているのかを分析し、それを単純に排除するのではなく、責任ある仕方で管理するための枠組みを提示する入門的教科書。Ch.1&2では、認識的価値/非認識的価値を整理し、科学の方向づけ・実践・利用・管理の各場面で価値がどのように作用するかを体系的に分類する。Ch.3では、価値自由性を擁護する議論と、それに対抗するギャップ論法・エラー論法・目的論法・概念論法を紹介し、科学実践における非認識的価値の正当な役割を検討する。Ch.4&5では、価値の責任ある管理の仕方についての先行研究を紹介し、筆者の包括的アプローチを提案する。また今後の方向性として理論と実践を往復することの重要性を強調する。
[価値中立性文献9](公開日:2026/05/29)
Holman, Bennett, and Torsten Wilholt. 2022. “The New Demarcation Problem.” Studies in History and Philosophy of Science 91: 211–20
科学における非認識的価値の「正当な使用」と「不当な使用」をどのように区別できるのかという問題「新しい線引き問題(New Demarcation Problem)」を検討した論文。価値論的・機能主義的・帰結主義的・協調的・組織的という5つの線引き戦略を整理し、それぞれの長所と限界を分析している。
[価値中立性文献10](公開日:2026/05/29)
Edwards, Michael C., Ashley Slagle, Jonathan D. Rubright, and R. J. Wirth. 2018. “Fit for Purpose and Modern Validity Theory in Clinical Outcomes Assessment.” Quality of Life Research: An International Journal of Quality of Life Aspects of Treatment, Care and Rehabilitation 27 (7): 1711–20.
心理測定学における妥当性概念と、FDAが臨床アウトカム評価(COA)で採用している妥当性概念の違いを整理した論文。心理測定学ではテストの解釈・使用全体を支える統一的妥当性が重視されるのに対し、FDAでは患者インタビューに基づく内容的妥当性が特に重視されることを示す。
[価値中立性文献11](公開日:2026/05/29)
Ward, Zina B. 2021. “On Value-Laden Science.” Studies in History and Philosophy of Science 85 (February): 54–62.
「価値負荷的」という用語が実は複数の異なる意味で使われていることを指摘し、それらを体系的に整理した論文。さらにこの区別を用いて、「科学と価値」をめぐる科学哲学の論争の多くが、実際には異なる意味の「価値負荷性」を論じているために生じる言葉のすれ違いだと論じる。
[価値中立性文献16](公開日:2025/05/20)
Kincaid, Harold, John Dupré, and Alison Wylie (2007), 'Introduction', in Harold Kincaid, John Dupré, and Alison Wylie (eds.), Value-Free Science? Ideals and Illusions, New York: Oxford University Press, 3–24.
2007年に出版された論集『価値自由な科学?――理想と幻想』の編者たちによる序論。論集のタイトルに付された疑問符に示されているように、本論集所収の論文はすべて価値自由な科学という理想に疑問を投げかけており、本序章では〈価値自由という理想を問題にする理由〉、〈価値自由という理想をめぐる議論の歴史〉、〈価値自由という理想の批判の論点と議論タイプ〉をまとめ、最後に所収論文の議論を紹介している。
[価値中立性文献17](公開日:2025/05/20)
Dupré, John (2007), 'Fact and Value', in Harold Kincaid, John Dupré, and Alison Wylie (eds.), Value-Free Science? Ideals and Illusions, New York: Oxford University Press, 27–41.
2007年に出版された論集『価値自由な科学?――理想と幻想』所収の第一論文。論集全体のなかでは、事例研究を主として扱う第一部の議論に位置付けられ、とくに、生物学と経済学の概念の価値負荷性の観点から事実と価値の区別の妥当性を批判的に吟味している。
ジョン・デュプレ(John Dupré)は主に生物学の哲学を研究する科学哲学者。1981年にケンブリッジ大学で博士号を取得し、スタンフォード大学哲学科の教員を経て、1996年にロンドン大学バークベック・カレッジ哲学教授およびエクセター大学上級研究員のポストに着任する。2000年にイギリスのエクセター大学で哲学の学士課程が新設されたときにエクセター大学の科学哲学教授に任命された。2002年、生命科学研究センターであるエジニス(Egenis)の専任ディレクターに就任し、2022年まで務めた。2010年アメリカ科学振興協会フェロー、2011年から13年まで英国科学哲学会会長、2021年から22年まで科学哲学会会長(参照:https://experts.exeter.ac.uk/86-john-dupre(2025年1月3日最終閲覧)。
[価値中立性文献18](公開日:2025/05/20)
Root, Michael (2007), 'Social Problems', in Harold Kincaid, John Dupré, and Alison Wylie (eds.), Value-Free Science? Ideals and Illusions, New York: Oxford University Press, pp. 42–57.
2007年に出版された論集『価値自由な科学?――理想と幻想』所収の第二論文。論集全体のなかでは、事例研究を主として扱う第一部の議論に位置付けられ、とくに、社会問題の研究をめぐる社会学史を概略したうえで、社会的に有意義な社会問題の研究にはその問題について社会学者自身が下す価値判断が不可欠である、と主張する。本論の大きな部分は《社会問題の社会学史》にあてられる。まず、《社会学者は社会問題を扱うときに価値判断を下すべきかどうか》という問いについて、ウェーバーの価値自由およびその継承者であるマートンとブルーマーの見解を概略したうえで、さらに、ウールガーとポーラッチの論文によるブルーマーの定義主義的アプローチ批判を解説し、最後に、両者の見解に反して価値判断を下したがゆえに社会的意義をもちえた研究の事例を紹介して、合理的選択理論のモデルにしたがって、社会学者が調査対象者の善悪の態度を記述するだけでなく評価もできること、またそのためには、研究者自身の道徳的コミットメントが不可欠であることを主張する。
著者のマイケル・ルート(Michael Root)は形而上学、認識論、社会科学の哲学を専門とする哲学者で、ミネソタ大学の哲学科教授を務めた。生物学や医学における人種の影響についても研究している。主な著書に、Root, M. 1993. Philosophy of Social Science: The Methods, Ideals, and Politics of Social Inquiry. Oxford: Blackwell. がある。
2007年に出版された論集『価値自由な科学?――理想と幻想』所収の第三論文。論集全体のなかでは、《事実と価値の区別の再検討を促す事例研究》を提示する第一部の議論に位置付けられ、とくに、共著者それぞれが専門にしている考古学と生物学の事例から、(1)価値コミットメントが認識的価値の観点からの貢献を果たしている事例および(2)フェミニスト・コミットメントによって文脈的価値の役割が示された事例をそれぞれ提示している。
アリソン・ワイリー(Alison Wylie)はカナダのブリティッシュコロンビア大学哲学科教授で、社会科学の哲学、フェミニスト科学哲学、考古学の哲学、研究倫理などを専門とする哲学者。事例研究を主たるアプローチとして、考古学における証拠に基づく推論、客観性の理想、研究者の説明責任といった問題に焦点を当てている。
リン・ハンキンソン・ネルソン(Lynn Hankinson Nelson)は米国のワシントン大学哲学科の名誉教授で、認識論、フェミニズム、生物学の哲学などを専門とする哲学者。
また、両者は2009年に『ヒュパティア』誌の「フェミニズムと科学」特集号の共同編集を担当している(https://onlinelibrary.wiley.com/toc/15272001/2004/19/1)。
2024年5月29日(水)10:00-11:00 2024年度第1回レジュメミーティング
2024年6月25日(火)17:30-18:30 2024年度第2回レジュメミーティング
2024年8月26日(月)10:00-11:00 2024年度第3回レジュメミーティング
2024年10月2日(水)10:00-11:00 2024年度第4回レジュメミーティング
2024年10月28日(月)13:00-14:00 2024年度第5回レジュメミーティング
2024年11月25日(月)14:00-15:00 2024年度第6回レジュメミーティング
2024年12月16日(月)16:00-17:00 2024年度第7回レジュメミーティング
2025年1月29日(水)10:00-11:00 2024年度第8回レジュメミーティング
2025年2月24日(月)10:00-11:00 2024年度第9回レジュメミーティング
2025年3月27日(木)14:00-17:00 研究会(開催場所:一橋大学国立東キャンパス第3研究館3F研究会議室/報告者:清水右郷,井頭昌彦)
2025年3月31日(月)14:00-15:00 2024年度第10回レジュメミーティング
2024年5月19日(月)11:00-12:00 2025年度第1回レジュメミーティング
2024年6月24日(火)15:00-16:00 2025年度第2回レジュメミーティング
2024年7月22日(火)13:00-14:00 2025年度第3回レジュメミーティング
準備中
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