研究テーマ

Research Topics

キクの光周性花成、休眠、花器官形成、花色に関する研究

概要

キク (Chrysanthemum morifolium)は世界3大花きの一つにかぞえられ、日本における切り花生産の約4割を占める重要品目です。キクは日が短くなる秋に咲く短日植物であり、夜間に光を当てて人工的に開花時期を調節する「電照菊」栽培が広く普及しています。最近の研究から、キクは短日条件で花を咲かせるホルモン「フロリゲン」を合成する一方で、長日や暗期中断電照下では花芽分化を抑制する「アンチフロリゲン」を合成し、積極的に開花を抑制していることがわかってきました。現在は、キクがどのようにして夜の長さを測り開花を制御しているのか、その分子機構について研究を進めています。加えて、冬季の休眠やキクに特徴的な頭状花序の形成メカニズムについての研究もおこなっています。

キクの光周性花成

キクはなぜ真夜中に光を当てる「電照栽培」によって効率的に開花を抑制することができるのでしょうか?キクの「フロリゲン」をコードする遺伝子FTL3の発現は電照によって抑制されるものの、弱いフロリゲン活性を持つFTL1などの発現は電照条件でも高いままでした。花成誘導条件である短日条件 (SD)と抑制条件である暗期中断条件(NB)下の葉で発現している遺伝子を網羅的に解析した結果、NB条件の葉で特異的に発現する遺伝子を見つけました。この遺伝子はフロリゲンであるFTと同じPEBPファミリーに属し、花成抑制活性をもつTFL1/BFTと構造的に高い類似性を示したことから、Anti-florigenic FT and TFL1 family protein (AFT)と命名されました (Higuchi et al., 2013)。

キクの安定形質転換体やプロトプラストへの一過的遺伝子導入実験から、AFTが強い花成抑制活性を持つこと、AFTはFTL3と同様にbZIP型転写因子FDL1と相互作用し、FTL3の花成促進活性を阻害すること、葉で合成されたAFTタンパク質が接ぎ木面を横断し、茎頂まで長距離移動することがわかりました。さらに、AFTの発現が夜間の光照射によって誘導されること、さらには光に敏感な時間帯が日没から一定時間後に現れることを明らかにしました。上記の結果から、AFTが長距離移動性の花成抑制因子「アンチフロリゲン」の実体であることを世界で初めて示しました。

ハナスベリヒユの花色、開花リズムに関する研究

ハナスベリヒユ (Portulaca umbraticola)は近年、真夏の花壇用として広く流通している花きであり、早朝に開花し午後には閉花し始める一日花です。また、ハナスベリヒユが含まれるナデシコ目植物にはアントシアニンではなくベタレインが蓄積することが知られていますが、ベタレインによる花色の遺伝様式についてはほとんど研究がなされておりません。ハナスベリヒユを対象に、花の開閉リズム、花色の遺伝様式や花弁におけるベタレインの生合成に関する研究を行っています。

ハスの開花・休眠、花器官形成に関する研究

ハス (Nelumbo nucifera)は観賞用(花ハス)や食用(レンコン)を目的として広く栽培されている重要な園芸作物です。東京大学は、大賀一郎博士が東京大学旧厚生農場の敷地から発掘した約2000年前のハスの種子を発芽させることに成功し(大賀ハス)たことをきっかけにハス遺伝資源の収集・保存を開始し、現在では附属生態調和農学機構(西東京市)に国内最大規模となる花ハス遺伝資源を保有しています。ハスの開花と地下貯蔵器官(レンコン)の形成、ならびに花器官形成の分子機構についての研究をおこなっています。