生徒さんやご家庭が学習計画や志望校を選ぶにあたって、その前に現在の大学入試の現状を見ておいてほしいと思い、「大学入試は高校入試とどう違うのか」、「親世代の入試との違い」そして「どう選べばいいのか」の3点について情報や考え方をまとめてみました。少し長くなりますが読んでみてください。飛ばして先を読みたい場合は、下のリンクを使えば直接飛びます。
現在、長野県の高校生全体のうち約70%は公立高校に通っており、私立高校の生徒は20%弱です。つまり高校進学・受験においては公立高校の選択肢が幅広く、私立高校は狭いといえます。また、公立高校の学力試験問題は長野県内であれば基本的にすべて共通となるため個別の志望校対策は必要なく、必要な対策は絞られます。
つまり地方(特に長野県内の)高校受験というものは、
▪ 公立高校を選択する生徒が多い
▪ 公立高校の学力試験問題は同じ
▪ 受験校の候補は限られる
このことから、高校入試に必要な進路・受験の情報は限られるため、各中学校はその研究や対策を深化させることができます。そのため進路指導や学習計画はほぼ中学校に任せきりで済むことが多く、各家庭や生徒が主体的に情報を集め対策を研究する必要はなかったでしょう。
しかし、大学進学を考える場合、まず受験校の候補になる大学のが地元だけでなく全国になるという点が大きく違います(もちろん本人やご家庭の意向によって絞られますが)。その中で、国公立大学の学生はおおよそ大学生全体の20%(国立15%・公立5%)であり、残りの約80%は私立大学の学生です。つまり大学進学・受験において国公立大学は狭き門であり、私立大学の選択肢が圧倒的に多いものといえます。
また学力試験に関しても、大学入学共通テスト以外に各大学の個別試験が課される場合が多く、その内容は大学ごとにバラバラで、必要な教科も異なります。
つまり大学受験というものは、
・受験校の候補は全国が対象
・国公立大学は狭き門
・学力試験は基本的に各大学個別
このことから、大学入試に必要な進路・受験に関する情報の量や対策の形は全体では膨大なものとなるため、大学進学を目指す受験生やご家庭にとって受験勉強を始めるより前に必要なことは、情報集めや志望校対策の研究は各受験生・家庭が主体となって行わなければならないという意識を持つことです。
また、高校進学率が約98%なのに対し、大学進学率は約60%なので、大学受験生という時点で高3生の中のおおよそ上位60%が切り出された中で競争することになります。すると、たとえば1学年100人中の30位は上位30%ですが、学年上位60人が大学を受験するとしたら、30位の生徒は受験生の中では上位50%になってしまうのです。ですから、大学の偏差値は高校と同じようなものと思ってはいけません。一般にはある高校から進学する学生が最も多いのは「その高校の偏差値ー10」の偏差値(進研模試B判定)の大学だと言われています。
このように、高校入試と大学入試には大きな違いがありますから、学習に対する意識や取り組み方も変わらなければなりません。それが「差をつけるという意識」です。
特に長野県を含む地方の多くの生徒さんがそうだと思いますが、小・中と公立校に通い、高校入試で初めて本格的な入試を経験した、という生徒さんは、「○○高校を受けるグループに入る(そしてとどまる)」ことを目標としていたことでしょう。それは「みんなと同じになるという発想」であり、「ライバルに差をつける」というのとは対極の発想でした。また、先に書いたように、先生に言われたことを頑張ってやっていればよかったので、「何をやればいいか」を自分自身で考える必要もなかったわけです。
ところが大学入試では、そのような考え方は通用しなくなります。
その理由の1つは、競争率の違いです。長野県の公立高校の入試(普通科・一般)では、競争率は高くても1.2倍程度で、2倍を超えることはまずありません。一方、大学入試では、2倍未満なら人気が低いと言え、3倍を超えると高め、4倍以上が難関です。浪人生も多い医学系や、もともと募集が少ない芸術系などの学科では、10倍を超える場合もあります。
ですから、「○○大学を受けるグループ」に入ったところで、それ自体は安心材料になりません。競争率が1.2倍なら合格可能性は約83%、つまり6人のうち上位5人に入れば良かったものが、競争率が3倍になると約33%になり、ライバル2人を自分1人で蹴落とさなければならない計算になるのです。このレベルの競争にさらされるのは、多くの生徒さんは大学入試が初めての経験ですし、そのようなシビアな戦いだということも最初はなかなか実感できないため、対策が遅れがちになります。
もう1つは、試験問題の違いです。大学受験でも皆が全く同じ問題で受験する大学入学共通テストはありますが、それとは別に各大学ごとの個別試験が課される場合が多く、試験科目や出題範囲、レベルは大学ごとに異なります。ですから、共通テスト対策中心の学習でそれなりの得点を取れたとしても、半月後の私立大の特色のある問題への対策がまったくできていなかったり、1ヶ月後の国公立大の二次試験の記述試験の対策が間に合わなかったりという生徒さんは多いです。それでは志望校合格はおぼつかないものになります。
これら2つの違いから、以下の2つの意識が必要です。
・競争率が高いので、競争意識をより強く持たなければならない
・個別試験があるので、志望校対策の意識をより強く持たなければならない
「受験生の間で差をつける」ための大学入試を突破するには、自分が志望する大学がどんな問題を出すのか、受験生に何を求めているのかを知り、それに合わせた対策をできるだけ多くこなすことが重要ですし、始めるのが早ければ早いほど有利になります。そして、それらの対策によって他の受験生に差をつけることで、競争率3倍を超えるシビアな競争を勝ち抜き合格を手にすることができるのです。
(Mar. 2025)
※ ここに書いたことはブログにもっと詳しく書いてありますので、気になったら読んでみてください。
高校生・受験生のお子様をお持ちの保護者様の中には、高卒の方と大卒の方がおおよそ半々くらいおられるものと思います。というのは、現在高校生のお子様をお持ちの親御さんの世代では大学進学率が約50%だったからです。そして、大卒の方はご自身が大学受験を経験されたということで、ご自身の経験からお子様にアドバイスなどされることもあるかしれませんが、現在の入試の様相は親世代と大きく様変わりしている部分がありますので、それを2000年前後との比較で見てみたいと思います。
まず、2000年と現在との最大の違いが、「大学入試センター試験」が終了し「大学入学共通テスト」に変わった(2021年)ことです。これまでに教科数は英・数・国・理・社の5教科に「情報」が加わり6教科になっており、また各教科内の科目も細分化され、受験科目の選択がかなりややこしくなっています。
私が教えている教科では英語が大きく様変わりし、まず2006年にリスニング(50点)が加わっています。2021年からはリーディングとリスニングの配点が100点ずつになり、同時にリーディングから「発音・アクセント」と「文法」の出題がなくなって「読解」のみになり、しかも文章量がかなり増えています。それにともなって各大学の個別試験でも、単語や構文などの「暗記」よりも「読解」に比重が移ってきています。
ただ、それで暗記の必要が減ったわけではなく、むしろ増えています。実際、センター試験の英語の単語レベルは英検で言うと準2級くらいでしたが、現在は準2級と2級の中間かそれ以上です。また、私立大を見てみると、10年前は上位私大で必要な単語レベルはおおよそ英検2級+αくらいのレベルでしたが、現在では準1級に近いレベルになっており、中堅私大では準2級から2級相当に上がっています。
つまり、共通テストも大学の個別試験も、全体的に難化しています。親世代に比べて教科数が増えた上に各教科が難化しているため、現在の受験生の負担は増しているのです。
次に、受験生を取り巻く環境の変化についてお話しします。
2000年度には大学進学率は約40%でしたが、2024年度には約60%まで上がっています。一方で少子化の影響があるので単純に進学者数が20%増えたわけではなく、大学入学者数で言えば2000年が約60万人なのに対し、2024は約61万人と微増となっています。ここから、全体的には幅広い学力層の高校生が大学を目指すようになったと言えますが、18歳人口は今後さらに減少すると考えられますので、大学進学率がさらに上昇したとしても、進学者数では全体的に減少傾向に入っています。
大学進学率の増加を受けて専門学校の大学化(2019年に「専門職大学」制度も始まりました)も進み、大学数が649校(2000年)から796校(2024年)まで増えた結果、大学入学定員の総計が大学進学希望者数を上回る「大学全入時代」が2024年頃に訪れました。しかし、それは単なる数字上の話であって、実際に全員が大学に入学した(浪人生がゼロになった)わけではありません。当然人気のある大学とない大学があるからです。
つまり「大学全入時代」とは、一方で「大学余り時代」でもあります。大学進学率が上がっているとはいっても、少子化が進み確実に受験生・学生が減ってゆく中では、将来的には大学は淘汰され減っていくことが当然予想されます。すると、もともと定員割れに苦しむ地方の小規模大学は経営の健全性や教育の質が不安視されてさらに不人気になり、安定や知名度を求める心理により大都市圏の大規模大学に受験生が集中する結果になりました。
これにより、2つの流れが起きました。1つは、2016年から国が私大に対して課している「定員管理厳格化」政策です。それは簡単に言うと「入学定員をキッチリ守りなさい」という制度です。そのような制度が作られたのは、入学定員が守られていなかったからです。私大は1人で何校も併願することができるため、大学では入学辞退者を見越して名目上の定員よりも多く合格者を出すのが慣例になっていました。実際、私が大学に入学した1995年頃は、多くの私大で入学定員の倍くらいの合格者がいたものです。当時は受験生が多く大学が少なかったため、それが通用していたのです。ですが「大学全入時代」すなわち「大学余り時代」になると、その慣例が地方の小規模大学から学生を奪う形になったため、それを是正しようと考えられたのがこの「定員管理厳格化」政策だというわけです。
それにより、受験生の目がある程度は地方へ向くようにはなりましたが、大都市から地方へという意識改革がすぐに進むわけではありません。むしろ大規模大学の人気は依然高いまま実質的な定員が減ることになっため、競争率が上昇し難化しました。そのため、上位私大(いわゆる「MARCH」など)や中堅私大(いわゆる「日東駒専」など)の偏差値は、団塊ジュニア世代が受験生だった「受験戦争」時代をピークとしてその後一旦下がったものの現在は再び上がっており、特に中堅私大では大きく上がってきています。また上記のように試験自体が難化していますので、人気の大学に合格するのは以前より難しくなっているのです。
そこで、第2の流れが起こります。それが「大学再編」です。近年では受験生の「大都市指向」だけでなく「共学指向」「総合大学指向」も強まっていると言われ、その結果「地方大学」とともに「女子大学」「小規模大学」が不利な状況に置かれています。特に女子大学は小規模でもあることが多く二重に不利な状況があるため、総合大学化により生き残りを目指す動きがある一方、名門女子大の閉学も相次いでいます。ここ長野県では伝統のある「清泉女学院大学」が2025年に共学の「清泉大学」に変わり、また「人文社会学部」を新設したことは、この「共学指向」「総合大学指向」の流れに合わせた再編の1つです。
また地方私立大学の経営基盤を強化するために「地方私立大学の公立化」が進み、長野県でもこれまでに私立だった長野大学が上田市立になり、諏訪東京理科大学が諏訪地域6市町村運営の公立大学になりました。また近年人気が低下していた短大の4年制化も進み、長野県短期大学が長野県立大学に変わっています。
では、この「定員厳格化制度」や「大学再編」によって現状の大学や入試がどうなっているかというと、
・ 大都市大規模大学の定員が減り難化した
・ 大都市周辺の大学の定員充足率が上昇した
・ 地方小規模大学の定員充足率は改善していない
という分析があり、その先行きは不透明ながら、地方小規模大学の苦境は改善されていないようです。そのため、留学生を増やすことで生き残ろうとする大学が出てきているようですが、地域とのつながりを重視しなければならない地方の大学がそのようなことをするならむしろ本末転倒ですから、早晩淘汰されることになるでしょう。そして、大学減少時代を見据えて大学の統合・縮小・撤退を行いやすくするよう国が進んで支援する必要があるのではないか、という議論がされていますが、先は見通せない状況です。
(Mar. 2025)
ここまで大学受験の現状をお話ししてきましたが、では、受験生や家庭ではどのように目標とする大学を選べばいいのでしょうか? 統廃合が取り沙汰されるような経営の危うい大学や教育の質が低い大学、就職に不利そうな大学などは避けたいところですが、800校近くもある大学の中から選ぶのは難しいです。その時に、大きく2つの考え方があります。
(A) とりあえずできるだけ「上位」を目指す
(B) 自分の将来像に向けた「コスパ」の良い選択をする
プランA「とりあえずできるだけ上位」は、主に普通科の生徒さんで自分の将来の目標がまだあまり明確でない場合にお勧めします。普通科なら2年から文系・理系を選択していますが、そこからもう1段階「文学系」「語学系」「理学系」「工学系」くらいまでは絞ったほうがいいでしょう。ただ、必ずしも1つだけに絞りきる必要はありません。受験科目がかけ離れているということでもなければ、受験段階では問題にならないからです。たとえば複数の学部・学科を受けてみて、受かったところが自分と縁のある領域だ、という考え方もあります(私もそうでした)。
そのような考え方をする場合でも、やはり卒業後の進路のことも考える必要はあります。一時の興味や関心だけで安易に大学を選んでしまって、就職に不利になるのは困ります。だからこそ、高偏差値として知名度の高い大学へ入っておくと「つぶしが利く」ようになります。都会で就職するにしても地元へ戻るにしても、全国的な知名度のある大学ならどこへ行っても大学名で不利になることはないでしょう。ただし、そう考える人が多いからこそ、そのような大学に学生が集中しているということが言えるので、その分競争は激しくなります。
またこのタイプは「推薦入試」や「総合型選抜」との相性が良くありません。これらはすでに卒業後の目標まで見据えている学生を選抜するための試験なので、明確な目標のない生徒さんではその点で差をつけられてしまいます。またこの方式では小論文が課される場合が多いですが、小論文を一般入試で課す大学(学部・学科)はごく一部ですので、一般入試対策との兼ね合いが困難になります。そのため、受験科目が同じで対策を共通化できる一般入試で複数の大学(国公立大1~2校 + 私大複数校)を選び対策するというのが標準的な考え方になります。
このタイプの入試では、志望校群を早いうちにある程度絞ることで受験に使う科目を絞り込むことが重要です。このような多くの人がイメージする典型的な受験勉強には塾や教材などが豊富に揃っている分、情報に踊らされてふらつきがちになるため注意が必要です。
プランB「将来像に向けた選択」は、職業科の生徒さんを含めてすでに将来の目標を絞り込んでいる人にお勧めするパターンです。文・理や志望系統だけでなく、「看護師」「教師」「公務員」「船舶技術者」などの具体的な職種までを見据えている人は、大学の偏差値やブランドなどを闇雲に追うのではなく、自分の目標に対して強みを与えてくれそうな大学を探しましょう。それぞれの大学にどのような強みがあるかは、教授陣やカリキュラムなどに反映されますし、卒業生の就職先にも現れます。例えば理系の単科大学は知名度が低くても特定の業界に太いパイプがあり就職に有利であることがあります。また勤務地に希望がある場合、その周辺の大学のほうが知名度がありますし、インターン(就業体験)先にも同窓の先輩がいることが多いですから、力になってくれることもあるでしょう。
入試段階でも、将来の目標が明確であれば「推薦入試」や「総合型選抜」を利用しやすく、それらの選抜方式では職業科で取得できる検定や資格(簿記・溶接など)が有利に評価されますし、特に私立大学では近年これらの選抜枠を増やしています(「厳格化」の影響でもあります)。また特定の分野に強みを持つ小規模の大学は、全国的な知名度がない分競争率も低めのことが多いので、無駄に厳しい競争にさらされる必要がなくなります(逆に極端に高い分野もありますが)。
そのような入試を目指すときに重要なのは、「彼を知り己を知る」ことです。つまり、大学側が求める学生像と自分が求める大学像をハッキリさせ、その両者が一致するように大学を選び、また対策を練ることです。推薦入試なら出願条件に合う程度の学業成績は必要ですが、それ以外にこれまで頑張ってきた(そして将来に生かせる)実績や努力をいかに効果的に伝えるかという発想が重要です。そこで差をつける特に重要なポイントは「将来像のリアリティ」です。「どこで・何の仕事を・どのように」働きたいかということを具体的に伝えることができ、またその目標へ向かう現在の姿勢や努力を納得させることで高い評価を得られ、合格を勝ち取ることができます。
また、このタイプの入試では小論文や志望理由書など、文章力を求められる場合が多いです。長文で解答するものは1つだけの正解というものはないので、対策には必ず添削が必要になります。AIでも表現や構成についてのアドバイスはできるようになってきていますが、内容面ではまだまだ間違いが多いのが現状ですから、信頼できる先生の力を借りることも考えましょう。
私が担当した生徒さんたちの現状を見ると、プランAを選ぶのは主に進学校の生徒さんですが、全体的にはプランBを選ぶ生徒さんが増えてきている印象で、かつてのようなブランド信仰から距離を置き、堅実に将来を見据えたキャリアプランの一環として大学を選ぼうと考える生徒さんが増える傾向にあるようです。これは長野県に限らず地方の受験生全体に見られる傾向のようで、大学が増え選択肢が広がったためか、また多様性が尊ばれる時代のためか、現在の高校生・受験生自身の視野も多角化・多様化しているのでしょう。これをお読みの生徒・保護者の皆さんも、「受験勉強のゴール」ではなく「キャリアのスタート」としての大学選びを丁寧に行ってほしいと思います。
(Mar. 2025)