研究内容

Research Outline

 当研究では、植物の環境ストレス応答について、遺伝子レベルでの解明と、ストレス耐性作物の開発に取り組んでいます。とくに、根と葉などの離れた器官間で環境情報を共有・統合するための長距離シグナル伝達、器官間コミュニケーションに着目し、それらを調節する制御因子、シグナル伝達因子などの探索と解析を進めています。

 また、これらの研究成果をもとに、劣悪環境でも生育でき、食糧問題や環境問題の改善に資するストレス耐性作物の開発も進めています。

乾燥ストレスにおける根と葉をつなぐ長距離分泌シグナルの解明

 植物は脳や神経をもたずして、離れた器官間で情報を伝達・共有し、劣悪環境でも生き抜いていますが、その詳細な分子メカニズムは不明です。

 我々は、根の維管束から分泌されたCLE25ペプチドが、乾燥ストレス情報を根から葉に伝える移動性分子の実体であることを明らかにしましたNature, 2018)

 CLE25を含む小分子分泌による根と葉間での乾燥ストレス情報の伝達・共有メカニズムを明らかにする研究を進めています。

乾燥を感受したの維管束で発現する遺伝子(緑色蛍光)

アブシジン酸(ABA)合成を制御する細胞間・細胞内シグナルの解明

 乾燥ストレスを感じた植物は、葉の維管束で植物ホルモンの一つであるアブシジン酸(ABA)を合成し、乾燥ストレス耐性を獲得します。

 我々は、ABA合成酵素の発現を制御する転写因子NGA1を同定し、その機能を報告しました(Proc Natl Acid USA, 2018)

 乾燥ストレス応答においてABA合成酵素の発現を制御する分子メカニズムの解明研究を進めています。

乾燥を感受したの維管束で発現する遺伝子(緑色蛍光)

高温ストレス応答を制御するシグナル伝達の解明

 イネは世界中の人々にとって重要な食用作物の一つです。近年の異常気象に伴う地球温暖化により、生育阻害や収量低下がおこり、飢餓などの原因となっているため、高温ストレスに強いイネの開発が求められています。

 我々は、高温に強い品種に着目し、高温ストレスの感受および細胞内シグナル伝達機構を明らかにする研究を進めています。

高温ストレスに対するイネの耐性評価試験

有用遺伝子や生理活性物質を活用した環境ストレス耐性作物の開発

 劣悪環境でも生育でき、食糧問題や環境問題の改善に資するストレス耐性作物の開発には、モデル植物を用いて得られた研究成果を活用することが重要です。

 我々は、ストレス応答性遺伝子やペプチド、代謝産物に着目し、イネやトマトを用いてストレス耐性作物の開発を進めています。

乾燥圃場でも収量の増加を示すイネ(右)Selvaraj et al., Plant Biotechnol J., 2017.