「練習は套路を覚えるのが目的ではありません。日常生活が本番です。最後まで自分の足で。」
日頃老師がよくおっしゃる言葉です。
練習を日常生活に活かすことで健やかに過ごすことを目指しています。
藤澤 惠子
都筑無限太極会創設者藤澤惠子氏が旧ホームページに掲載していた練習記録を紹介します。
精神(心)の覚醒と自立
Independence of spirit (heart) and awakening
「心静体鬆」
身体を緩めリラックスすることが心を鎮めることにつながる。
「動中求静」
動き続けるなかに心(気持ち)の静かさを求める。
「虚領鬆腰縦膝」
膝をまっすぐ立てるようにして脚を動かし、腰をゆるめて、うなじ(首)の力を抜く事。
身体を真からリラックスさせるとはどのような状態か。気持ちではなく肉体で体感&会得できるということは予想以上に難しい。
さらに先に目指す
「神静沈鬆」
身体を緩めて、
腹(丹田)に気が沈み(満し)、
心を静かに(落ち着かせ)、
最後に意識をシャキっと立てなさい。の意。
※神・・・意識のこと。
やはり肉体を緩めるところから始まります。
上記を順番に会得できれば最後の意識は自然にクリアになるのでしょう。
太極拳が「動く瞑想」といわれる所以はこんな言葉からもわかります。
リラックスとパワーの作り方
True relaxation and way of making power
「体鬆」身体を緩めて(リラックス)する
太極拳でいう身体を緩めるとは具体的にどのような状態か?
またはどうすればいいのか?
そのヒントとなるポイントがいくつかあります。
●斂臀・・・尻を丸めること
●提腿・・・太ももを引きあげること
●提肛・・・肛門を引きあげるよう締めること
●大腿帯小腿・・・まず太ももを持ち上げてから膝下が付いてくる様に動かす
●鬆腰・・・腰をゆるめること
●収腹&斂臀・・・腹を収めて尻を引き締める
身体中心部分に関するご指導が何度も出てきます。
肩や腕など上半身の脱力、下半身(脚)の筋力&柔軟性など課題は個々に違います。
ただ上記項目は太極拳動作に必要な注意点です。
また套路を覚えた後、まず最初に意識&クリアしたいポイントなんだなと改めて過去メモから感じました。
そしてその鍛錬により丹田(へそ下)に気を沈める事もスムーズになるはず。さらに呼吸(息)がピタリと動きに合うようになればパワーUPしそう。
またインナーマッスル(大腰筋)も鍛えられ・・・締まったお腹&お尻となりナイスバディ!になりそう(笑)
身体はいつでも&いつまでも自由でいられるか?
私達は日常、無意識に身体を使っています。歩いたり座ったり、当たり前のように行っています。例えば食事を頂く時、箸を持つ手にお願いして動かしたりしませんよね?
更に運動となると意のままに動かそうとします。ところがスポーツと言われるものは年代が上がるにつれ、意のままに動かすことがどんどん難しくなっていきます。
身体に(無意識に)命令し酷使していないか?
太極拳は套路という型を通してゆっくり動きます。まずは老師(先生)の動きをまねて覚えるところから始まります。その後少しでも同じようにやろうとつい頑張ったりしがちに。
表面的な動きのみに囚われると(意のままに動かそうとする)自分の身体に命令する間違った練習になりかねません。
身体のこえを聴いてみる
老師は言われました。
套路を上手にやるとかキレイにやるのもいいが大切なのは「※無微不至」です。
套路や型の最中に体のどこかに違和感を感じないか?あらゆる部位がリラックスできているか?
自分の体の声を聴きながら練習すること。
さらに練習以外の日常でも聴けるか、その感性を育てることが大事とのこと。
「自分の身体は自分のもの」という認識をまず外す必要がありそうです。
※至れり尽くせり、すみずみまで行き届く・全体に広く満ち渡ることの意。中国語で无微不至ともいう。
知識を智慧に換えるには
太極拳を習う上で武術思想や身体理論を学ぶことは大切です。
老師は生徒のレベルに合わせて難しいことも誰にも判り易いように話して下さいます。
その中には日常生活に落とし込める貴重な内容が多々あります。ただどのように活かしていくか、実践していけるか、は個々に違います。
心が変わるのが先か?体が変わるのが先か?
禅や瞑想など心からアプローチするリラックス法。また肉体や動き(運動)からアプローチしてリラックスする方法もあります。
太極拳はこの両方を兼ね備えたリラックス&健康法です。
ただ身体から入る(感じる)方が現実的であり誰にでも到達しやすい近道だ、と老師は言われました。
そこで近道の一つのヒントとして「スワイショウ」という養生法を教えて頂きました。
身体は正直&シンプル
腰や股関節を緩めるスワイショウ
(腰痛や背中のコリ予防&緩和効果)
腕と肩を緩めるスワイショウ
(肩や肩甲骨のコリ予防&緩和効果)
上記に関するやり方を数種類、練習しました。
コリ、痛み、固さを感じるのは身体の直訴。
それに素直に応えてあげる最も効果的&シンプルな練習法です。
自由な身体への鍵
Key to health and a free body
年齢を重ねると腰痛、ひざ痛、肩痛(四十肩や五十肩)身体に不具合が出てきます。
それは(個人差あれど)長年の間違った使い方や酷使してきた結果です。
それを気付かせ修正していくのが太極拳の套路です。
いくつになっても身体が健康&自由であるための鍵は
「関節」と「血流」が大事とのこと。
個々に日常でどのように取り組むか意識が大事ですね。
太極拳練習時だけでなく忘れないように実践したいものです。
武術である太極拳は何故ゆっくり動くのでしょうか?
一見「舞」や「優雅な踊り」のようにも見えることでしょう。
西洋的スポーツや格闘技と違い、本当にそれで強いの!?とも思えてしまいますよね。
有心求柔 無為成剛
柔らかくしなやかな身体(と心)を用いることで、結果負けない(折れない)強さが引き出される。
(注※直訳された正しい老師の言葉を我流にアレンジしています)
表面的な見た目の強さを言葉で現わすと
「堅い(かたい)」「硬い(かたい」
太極拳的強さは
「勁い(かたい)」「剛い(かたい)」
と教えて頂きました。
植物の木で例えると
太い木(折るのは難しそうだが力によりポキっと折れる)
細いが瑞々しい柳(しなやかに曲がっても芯は折れない)
のような違い。
太極拳を学ぶことで性別や体格に関係なく強さを育てることができます。
本来&本当の「強さ」って何なのか?を体感&実感できるのです。
太極拳はやればやるほど奥が深いですねー!
相手に勝ち、結果&成果がすぐ判る格闘技やスポーツ。
それとは大きく違う故に自己との格闘、辛くもあり楽しくもあり。
最近私達の「身体や意識」は1:9(陰:陽)である。
本来は5:5(陰:陽)が理想なのです、との老師講義。
身体には経絡に沿った陰陽があります。
内側と外側、前と後ろ、前進と後進、と武術的動作の練習を行いました。
また※別の観点でいうと現代は陽が多すぎる、もっとバランスを取りなさい、とのこと。
※一般的には
「陰」=女性性で包容力、防御(守る力)、安定等を表す。
「陽」=男性性で論理的、攻撃力(開拓する力)、前進や進化等を表す。
今回の教えの中で気付き現代は
陽が多すぎる=ITや通信・有意識で便利&早い&簡単。(陽に9割傾きがち)
陰=自然や身体・無意識で快適&楽&中心(陰を見直す)に繋がるのでしょうか。
易筋に関しては理解不足で次回の課題です(苦笑)。
太極拳動作中の踵
腰を降ろし、重心を足の踵にしっかりのせる※后坐(ホウズオ)の練習をしました。
※后坐とは「後ろに座る」という意味です。
※現代語で”後座”(ホウズオ)=後ろに座るという意味
「後ろに座ること」とはゆるめること
動いている時「後ろに座る」とは???と太極拳をされてない方は感じるかと思います。
例えば起立した姿勢からソファや椅子に座るように肩&背中の力を抜いた状態で動く事。
踵に重心を置くと「安定感と力」が強まる
前進する時でも踵に重心を置くと自然に姿勢にも安定感が出ます。
さらに攻防に力が発揮されます。
日常歩く&何かの動作時も、踵に重心を置くように意識すると姿勢が変わり安定します。
宮本武蔵「五輪書」の中に「足つかひの事」に「足のはこびやうの事、つまさきを少うけて、きびすをつよく踏むべし。」とあり。
踵に重心を乗せることは強さに相通ずる事の様です。※きびす=踵
下半身の重心移動の仕方と流れをご講義頂きました。
丹田(下腹奥にあるポイント)の円をイメージして後転する。
丹田から始まり循環していく動きの流れ(図を参照)。
静気功のように止まった状態で意識する事は可能です。
しかし、套路をしながらこれができれば理想ですが・・・。
一般的に動きだすと型やら塘路の順番やら、違う事に気がとられてしまいます。
これは、静気功や日常の何気ない動作中に繰り返し身体に覚えさせるしかないかもしれません。.
太極拳歩形の練習を行いました。
「弓歩」7:3
「馬歩」5:5
「仆歩」1:9または3:7
「虚歩」0:10または1:9
「歇歩」5:5
数値は左右脚の重心配分の比率です。
実際動いてみると重心配分は「つもり」の状態かも。
左右の脚の使い方や筋肉量は、長年の癖&歪みが出ます。
だからこそ正確にできるよう練習することで矯正されるのでしょうね。
脚が楽に動けるときっと上半身の(無駄な)力を必要としなくなります。
力を用いず意識を用いる
準備運動として行っているオリジナル錬功18法。
意識をどこに置くかで全く違う効果となります。
今日は錬功18法「2番:左右開弓」のご指導がありました。
無限流でいうと肩甲骨を意識して背中を広げたり縮める動きです。
肩や腕の力を使わずに背中、肩甲骨に意識を向けなさい、とのこと。
動きに伴う「用意不用力」の意味を教えて頂きました。
「体をリラックスさせる」為に自律神経に関して下記の話を老師から伺いました。
自律神経は、交感神経と副交感神経があります。
それらは相反する働きがあり相互に関係しています。
※交感神経・・・運動時など体が興奮しているときに働く。
※副交感神経・・・食事中や睡眠中など体がリラックスしているときに働く。
交感神経は主に背骨周辺と密接に関係しています。
日中の活動中は交感神経が活発になるので背骨に負担がかかっています。
この背骨の負担を軽減するために、寝る前に背骨を軽く動かす運動をすると良い。
そうすると興奮している交感神経を抑えて眠りに入りやすくなります。 とのこと。
背骨&リラックス方法
体をくねらせて背骨に刺激を与える運動法を教えて頂きました。蛇の進み方や魚の泳ぎ方に似た動きです。
が、これが意外に難しくてうまくできないのですよ(笑)
老師から後ろ&背中を意識するように言われました。
最も課題である「野馬フェンゾン」で前に進むときにそれを意識をして行うと、あれ?何だかいつもと違って脚や筋肉に力が入らない・・・妙な違和感・・・でも何故か軸を感じる安定感。
そういえば中谷彰宏さんの本の文中にもありました(中心感覚を目覚めさせる60の具体例)
自分が思っているよりも、中心感覚はもう少し後ろにあるのです、と。
一生懸命になればなるほど前のめりになりやすい套路での身体の動き。
ただ問題は、一瞬でも感じた軸の安定感を維持できないことですね。
「人生において皆さんがわかっていないのは、今生きている場を実だと思っていること。とんでもない、一転すると虚なんだよ、この場は。幸せだなんていっていると、すぐに不幸のどん底に入ってしまうし、安心だと思っているとすぐに不安になってしまう。
例えば「生き甲斐」という言葉がある。生き甲斐とは文字通り生きる甲斐。このためなら死んでもいいといいと思えるのは私にとっては太極拳。
内家拳でいう「錬神還虚」・・・精神を練って「虚」つまり宇宙と一体化する(還る)こと。それは思想から技法まですべてがそのまま太極拳だということに気づいた。
だから今は不安の上に立てるんだ。
徳晋会:瀬戸敏雄師範の取材記事より一部抜粋(秘伝紙面)
筋力ではなく「発頸」
老師が話される「発頸」は以下のような意味も含んでいるのかもしれません。果たしてその100分の1でもいいから私が掴めるのはいつのことだろう。
日本の武芸者たちは、いったい何を力の源にして運動しているのだろうかと考えると、こに「骨」というものが導き出されてくる。力を入れないために神経を集中させなければならないことがわかる。
「骨(コツ)をつかむ」という日本語は、この脱力状態において体感される「骨の感覚」に由来するのにちがいなく、筋肉を浪費させず動作する「コツ」をつかんだ時それは筋力をはるかに上回る力を発揮することができる。
(「たたずまいの美学」矢田部英正著から抜粋)
中国老師による太極拳講習会の横浜地区に参加。
北京大学体育学部副学部長でもある徐先生の貴重な太極拳理論を伺いました。
太極拳の本体論の講義。地球と宇宙との関係、天体と回転運動 etc
(アインシュタイン量子力学か天体科学かのお話は難しい・・・・)
私の理解力はさておきポイントは、
1:旋転運動(回転)
2:膨張と収縮
3:1&2の繰り返しとリズム
4:移動と永恒性
さらに太極拳動作の中でボール(円)をイメージ(意識)して手や身体を動かしてみるよう大老師が言われました。
そして自分の中のボール(円)だけなく、まるごと自分全体の外にもボール(円)がある感覚がつかめるといい!と。
この説明を聞き、私は以前伺った跡見先生のDNA(細胞)の講話*を思い出しました。
太極拳の基本動作は細胞の動きとよく似ているのです。
太極拳思想や動作は人間そのもの(細胞レベル)に通ずるものがあり益々面白い!と感じたのでした。
*↓で紹介
主に体育学~遺伝子学を指導されている跡見順子氏(東京大学大学院総合文化研究所教授)の「生命の仕組み」の講義から。(ちなみに跡見先生は太極拳もされている)
細胞(DNA)は「伸びる&縮む」の繰り返しをしている
(逆にその動きしかないと言われたと思います)
そしてリズム=反復=持続 →生命が作られる
人間は身体でも細胞レベルでも止まってしまうとダメで動かす・それがリズムでたとえ1回でうまくいかなくても繰り返す(反復する)ことで変化&転換して新たな生命が生み出される
そして身体(筋肉)をストレッチすると良いこととあらゆる筋肉を意識的に使うと良い。
普段使わないような筋肉(ヨガやピラティス、太極拳で使う深層筋肉)をストレッチ(伸縮の刺激)することで細胞レベルに確実に働きかけて何かが変わったり生まれたりする。
マイルドなストレスを上手にかけることでストレス蛋白質ができ、結果細胞レベルでのいい変化が起きる。(注:ストレス蛋白質は悪いものではない)
全体確率での約30%異常蛋白質も人間の細胞レベルで作られるそうですが、ちゃんとそれをキャンセルできる力とメカニズムが身体にはあるとのこと。人間の身体や生命力ってすごいですね。
太極拳練習時に老師も言われてました。
「身体(筋肉)は伸びる&縮む」この2つのみの繰り返しなんですよ」と。
細胞からも太極拳的にも動きを止めてはならないのですね。
例え上達が遅くともストップせずに練習し続けることが大切なことが判りました。
「糾正」の方は他からあれこれ言われて直す&正すことを表し
「修正」は自分で気がついて自ら直すことを表す
とのお話。
太極拳においてはなかなか「修正」は難しいことだな、と私は感じました。
(だって自分の動き&身体&癖は自分で直接見えないわけですから)
最初はやはり先輩や老師からあれこれ言って頂き、直していかないと・・・。
やがて自分で感じることができればラッキー!本当の修正ができるのですね。
なぜ私はこんなに太極拳にはまっているのだろうか?
最初の動機は「しなやかでかっこいい女」を目指して武術を探してたどり着いたものでした。
(それもシルクの表演服を選んだ不純な選択で)
2年目あたりから套路や気功の練習を通して「身体(肉体)の認識」を良くも悪くも感じられるようになってから本格的にハマリだしました。
それは自分自身の身体や心にはあまりにも無頓着だったのに気がついたから。
太極拳の本質は「変化&転換である」 と老師から教わりました。が、いまだにその深い言葉は理解はできていません。
ただ少なくとも太極拳を始める前と今ではものの見方や身体への認識が変化したのではないかと思います。
教室の学び
以上の文章と写真は、都筑無限太極会創設者藤澤惠子氏が旧ホームページに掲載していた練習記録(2003~20年)です。