筑波大学 生命環境系 生物科学専攻 植物分子細胞生物学研究室

三浦謙治教授/PI: Prof. Kenji Miura

つくばシステム (Tsukuba System)概要

学生のちょっとした機転から、植物細胞における一過的タンパク質発現のための世界最強ベクターが完成!

JST新技術説明会にて説明してきました。詳しくはこちら。発表資料もupしてあります。

そもそも「つくばシステム」とは?

「つくばシステム」とは植物にてタンパク質を一過的に発現させるため、ベクターの改良を施したら、ベンサミアナタバコを用いた際には、3日間で4mg/g新鮮重の蓄積が可能となったタンパク質発現システム全般を指しています。右図のように、これまでに一過的なタンパク質発現システムとしては発現量が非常に高いとされているmagnICONシステムと比較しても、より短期間で大量にタンパク質を発現させることが可能となりました。

4mg/g新鮮重といっても、いまいちピンとこないかもしれませんが、mL = gと換算すると、大腸菌やブレビバチルスといった異種タンパク質発現システムと比べても、遜色ない量のタンパク質を生産することが可能です。

なぜ、そこまで発現させることができるようになったか?ですが、ジェミニウイルス由来のローリングサークル型複製システム(こちら参照)とダブルターミネーターを組み合わせることによって達成することが可能となりました。シングルターミネーターでは恐らくリードスルー(こちら参照)による転写干渉がおきてしまうのを、ダブルターミネーターにすることで転写干渉を解消したものと考えられます。

大量にタンパク質を作製したい場合は、ベンサミアナタバコで発現させるのがベストです。Rubiscoと同じぐらいのタンパク質が出来ています。可溶性タンパク質の40-50%の生産が可能となっています。

ただ、局在性とかを、用いている植物で調べたいという場合にも、つくばシステムは有効です。ベンサミアナタバコ以外のナス科(ナス、トマト、トウガラシ)、ウリ科(メロン)、キク科(レタス)、コチョウランにも適用可能です。タンパク質量としては、ベンサミアナタバコほどではないものの、様々な植物にてタンパク質を発現させることができるというのが特徴です。ちなみにmagnICONシステムではタバコ属以外での成功例は見たことがありません。

結構、楽しくなって、トマト野生種やマメ科(ミヤコグサ、ダイズ、インゲンマメ)にも試してみたら、うまく発現しています。マメ科の場合は、seed podとよばれる、いわゆるサヤの部分では発現しやすいのですが、葉ではし難いという点は気を付ける必要があります。また、バラは花弁でも葉でも全く発現できませんでした。なぜ?なのかはまだ分かっていません。

どうやってできたの?

当初、いくつかのタンパク質を植物にて発現させることを行っていて、遺伝子をタカラバイオのpRI201-ANに挿入していました。また、ジェミニウイルスレプリコンをもつベクターも手に入れていました。ただ、ジェミニウイルスレプリコンのみでは、上述のbefore improvementのように、そこまで発現量が上がりませんでした。pRI201-ANにて改良を加えても発現量が上がらないので、もう1回ジェミニウイルスレプリコンをもつベクターに入れて考えようとしました。

普通は、1つずつ遺伝子に対応するプライマーを作製して、移し替えるというのが基本かと思います。ただ、学生が機転を利かせたというか、単なる横着なのかは定かではありませんが、遺伝子の外側(5'UTRからterminator)を増やせばプライマーは1セットで済むからということで、いくつかの遺伝子をプライマー1セットで増やしてジェミニウイルスレプリコンをもつベクターに入れ替える作業を行いました。

とりあえず、GFPで試してもらったら、今までに見たことないぐらいピカピカ光っていたので、「何がおこった??」となりました。よくよくベクター構造を考えるとターミネーターがたまたまタンデムに並んでいました。これがカギでした。

ただ、論文を投稿しても、今までの高発現ベクターと比較しろと言われました。まあ、当然ですよね。問題は、ただ論文での比較のためにmagnICONシステムをどうやってもらうかです。ここでも、たまたま株式会社デンカ(Icon社の親会社)の方と話をさせて頂いた縁でIcon社とMTAを交わすことができて、比較まで至りました。

今後の展望

この「つくばシステム」ですが、まだまだ万能とは言い切れません。第一の問題は、タンパク質によっては培養中に葉が萎れてしまう、壊疽がおきてしまいます。この壊疽の根本的な解決策は論文とかでも明らかにされておらず、壊疽を克服することで、更なるタンパク質生産量の向上につながるものと考えています。尚、壊疽の抑制については解決法を見出しました。詳しくは書けませんが、特許出願済なので、もうすぐ特許公開されるはずです。論文については、特許に出したデータ+アルファで良いジャーナルを狙おうと思っています。

あとは、頑張って事例構築を行っております。いろいろなタンパク質で圧倒的に作製可能ということになれば、使ってみようという方も増えると思います。現在のところシラカバ花粉症を引き起こすアレルゲンBet v 1の生産や、RAPタグ抗体PMab-2の発現に成功しました。これらの成果についてはプレスリリースとして紹介しております。[Bet v 1作出に関するプレスリリース] [PMab-2に関するプレスリリース]

出来たばかりのシステムなので、まだまだ伸びしろありです。今でも国内を中心に、共同研究ということで、使ってもらっています。まだまだ私が思いつかないような利用方法があるかもしれませんので、ご興味のある方は、是非ともご連絡いただけますと幸いです。 形質転換植物デザイン研究拠点に応募して頂けますと少額ですが、研究費の支援もさせて頂いていますので、是非ともご活用ください。