筑波大学 植物分子細胞生物学研究室では主に下記の研究を行っています。
I. 植物バイオテクノロジー技術を用いた有用物質(アレルゲン等)大量生産、大量調製方法の確立
II. ゲノム編集技術の適用による植物(トマト、ダイズ、ピーマン等)の新たな品種の作出
III. 植物における環境ストレス応答機構、植物ホルモンシグナル伝達機構の解明
医学の先生(野口恵美子先生(筑波大)、藤枝重治先生(福井大))と共同研究
医学の先生(現在数人の先生と議論中)、鶴田文憲先生と共同研究
企業(数社)との共同研究
植物バイオテクノロジー技術の1つとして、植物細胞にて大量にタンパク質を生産するシステムを確立し、収量を比較したところ、世界最強の発現量を誇ることが明らかとなりました(特許)(つくばシステムに関して詳しくはこちらをご覧ください。)。約4mg/g新鮮重と、大腸菌などの異種タンパク質発現システムに匹敵する収量を誇ります。しかも、一過的発現なので、ベンサミアナタバコさえあれば、3~7日でタンパク質の生産が可能です。また、発現量は下がるが、ベンサミアナタバコのみならず、様々な植物にも適用可能であり、遺伝子機能解析等にも用いることができると期待されます。(下図:左が今回できた植物でのタンパク質発現「つくばシステム」(特許が認められました)でのGFPの発現、右が従来のベクターを用いた場合のGFPの発現)
この「つくばシステム」は本気でものづくりができるレベルの発現量なので、このシステムの有効活用ということで下記のものづくり、有用物質生産に取り組んでいます。このシステムについては企業の方も興味をもっており、企業や医学の先生と共同研究も行っています。企業からも事業化につながりそうなタンパク質生産を行いたいという希望もありますので。ここに書いていないようなことに取り組んでいます。(特許のこともあるので詳しくは記載できません)
書けないことばかりだとイメージが湧かないと思いますので、論文にした具体例としては、医学の先生と一緒に、花粉アレルゲンの生産を行っています。アレルゲンを簡便に、大量に調製することで、舌下免疫療法(アレルギーの根治治療と考えられている)の材料として用いることを目的としています。シラカバ花粉アレルゲンBet v 1については大量生産系を確立させることに成功しました。また、本方法で抗体(H鎖、L鎖の四量体)も生産可能です。
様々な化合物は化学合成のみで行われることはなく、今後はバイオの力を活用することが世界的にも求められています(バイオエコノミー)。つまり、生合成に関わる酵素を大量発現させることで物質生産を行おうとするものです。大量の化合物を産出するには生合成酵素を大量に発現させることが重要です。「つくばシステム」では大量に酵素を発現できるため、このシステムを用いて植物二次代謝産物の生産を中心に、物質生産が可能であることも検証できました。5種類の酵素を同時に発現させて、上流の代謝産物を出発物質にして最終的な二次代謝産物までつくれるのが利点であると考えられます。ほかの研究室でも生合成酵素の同定に威力を発揮しているみたいです。
つくばシステムを様々な植物に適応させた図。左がつくばシステムを用いて発現させたもの、右が従来のシステムで発現させたもの。
つくばシステムを用いてGFP(矢印に示すバンド)を発現させたベンサミアナタバコの粗タンパク質抽出液を分画したもの。CBB染色でも分厚いバンドが見られるぐらい、タンパク質の高発現が可能で、その収量は大腸菌や酵母などの異種タンパク質発現システムに匹敵する。
資源の先生(江面浩先生、有泉亨先生、野中聡子先生)との共同研究
ゲノム編集技術は、非常に注目されている技術であり、新聞等にも良く見かけます。この技術を用いて糖度の高いトマトの作出を行っています。また、これらのトマトを資源の先生と一緒に、如何に市場へ出すかということも含めて議論を行っています。江面先生がCTOであるベンチャー企業(サナテックシード株式会社)とは色々な情報交換をさせて頂いております。
通常、動物におけるゲノム編集は受精卵にマイクロインジェクションを用いてRNAあるいはタンパク質を注入するという方法が行われているが、植物では一度形質転換を行い、そのあとゲノム編集に用いた遺伝子を取り除くという方法が一般的である。現在、形質転換法を用いる方法ではなく、遺伝子が残らない形で効率よくゲノム編集を導入する方法の技術開発も行っています。特に、難形質転換植物であるピーマン、パプリカでは、形質転換法が適用できないので、こうした植物にゲノム編集を導入すべく技術開発を行っています。
植物における環境ストレス応答に関わるセンサー、シグナル伝達機構の解明を目標に研究を行っています。環境ストレスの中でも低温や乾燥に関する研究を中心に行っています。これまでに、低温シグナル伝達において重要な転写因子であるICE1の調節に関わる因子の探索を行っており、そのうちの一つがSUMO化とよばれる翻訳後修飾因子の1つです(詳しい内容はこちら)。こうした機能調節因子に加え、ICE1の相互作用因子を網羅的に同定することで、低温シグナルに関わる因子の探索を行っています。これまでに、キナーゼ、カルシウムシグナルに関わる因子、転写因子などが含まれ、これらの因子を明らかにすることで、低温シグナルに関わる詳細なメカニズムを明らかにしようとしています(下図:温度刺激に対する応答機構解明の概略図)。また、ICE1が関わる低温ストレス耐性メカニズムがほかの植物にも適用可能であるかを調べるためにトマトにおいてICE1を発現させたところ、低温ストレス耐性を示したのみならず、糖度の上昇や抗酸化物質の蓄積といった効果もみられました。
そのほか
T-PIRC遺伝子実験センターでは「形質転換植物デザイン研究拠点」を運営しています。6グループの研究領域のうち、研究内容によって適切なグループにて採用としております。毎年公募により共同研究を承っております。ご興味がありましたら、ご一報ください。適切なグループを提案いたします。