Hospitalist
病院総合内科では、主に救急外来から入院された患者さんの診療を担っています。特に、ICUやHCUでの集中治療を終えた後の患者さんのケアを引き継ぎ、亜急性期以降の全身状態の安定化と回復に取り組んでいます。
私たちは以下のような全身管理を包括的に行っています:
全身状態の評価とケア
呼吸/循環/腎/電解質/内分泌/感染症などの臓器別マネジメント
栄養管理やリハビリテーションの支援
社会的背景を踏まえた退院支援と社会資源の調整
複数の疾患や問題を抱える患者さんが多いため、対応する診療内容は多岐にわたります。これまでの実績では、年間約200〜300人の入院患者さんを担当しており、主な診療疾患の割合は以下の通りです:
脳出血(約10%)
大動脈解離(約10%)
敗血症(肺炎、尿路感染症、皮膚軟部組織感染症など)
電解質異常(低ナトリウム血症、高カリウム血症など)
代謝・内分泌疾患(糖尿病性ケトアシドーシス、副腎不全など)
神経疾患(パーキンソン病、てんかんなど)
また、救急・集中治療科の外傷チームと連携し、骨折患者さんの内科的問題や周術期の全身管理にも関与しています。他診療科の入院診療を側面から支えることも、私たちの重要な役割の一つです。
なお、当科は入院診療に特化しており、原則として外来診療は担当しておりません。退院後のフォローアップは、必要に応じて他科や他院へ引き継ぐ体制をとっています。その一方で、教育の一環として、外勤先での外来診療のサポートや、救急・集中治療科の協力による救急外来研修(希望制)を通じ、外来診療のトレーニング機会を補完しています。
Education
病院総合内科では、「自立して患者を診られるホスピタリスト」の育成を教育の柱としています。日本の医療現場では医師不足が深刻化しており、特に茨城県では、診療科の偏在やライフイベントによるキャリア中断など、若手医師にとっての課題が顕著です。そうした状況に対応するため、柔軟かつ実践的な教育体制を整えています。私たちが重視しているのは、現場で即応できる "基礎体力" のある内科医を育てることです。具体的には、以下の通りです。
アナフィラキシーショックなど、即時対応が求められる病態への初期対応
低ナトリウム血症など、頻度が高く複雑な内科的問題の鑑別/治療
稀な病態への対応に必要な文献検索/臨機応変な判断力のトレーニング
専門家の助けを得られない場面でも、患者に必要な最低限の医療を提供できる医師を目指してもらいます。
また、内科専門医取得を目指す医師に対しても、無理のない研修をサポートします。ライフイベントなどで研修を諦めざるを得ない方のために、ローテートの負担を最小限に抑えつつ、J-OSLERで求められる疾患群を当科単独でもカバーできるよう教育機会を整えています。
夜間・休日の対応についても、救急・集中治療科との連携により、時間外の負担を最小限にとどめています。内科専門医を志しつつ、生活とキャリアの両立に悩んでいる方にとって、病院総合内科は現実的かつ安心して学べる場となることを目指しています。
Research
病院総合内科では、日常診療で生じる疑問を起点とした研究を重視しています。私たちは、症例報告から臨床研究、システマティックレビュー・メタアナリシスまで幅広い研究スタイルに対応できる体制を整えており、初学者でも着手しやすい環境を提供しています。
たとえば以下のような疑問も、研究テーマとして発展可能です:
大動脈解離患者に生じる発熱は感染とどう見分けるべきか?
外傷患者の術後に生じる胆嚢炎は何が予測因子となるのか?
腸球菌の薬剤耐性は、どのような背景と関連しているのか?
これらは実際に当科から発表された研究テーマであり、こうした日常臨床から生まれる問いを、エビデンスとして世の中に還元することを私たちは大切にしています。
また、症例報告にも力を入れており、非典型例や臨床的に重要な気づきをもたらす症例について、論文執筆を通じたアウトプットを支援しています。特に、「典型像との違い」に注目して議論を深める経験は、学術的リテラシーのみならず、診療能力の向上にもつながります。症例報告に加え、臨床写真を用いた発表も積極的に取り組んでいます。
さらに、私たちは「持続可能な医療」を目指した研究にも取り組んでいます。社会保障費の増大が医療現場を圧迫する中、低価値医療* の削減は避けて通れない課題です。筑波大学ヘルスケアサービス開発研究センターなどとの連携を通じて、エビデンスに基づいた医療の効率化と質の向上を支援する研究を推進しています。
Management
病院総合内科では、診療科内外の意思決定にメンバー全員が主体的に関わることを重視しています。
ひとつは、臨床の場面における意思決定です。私たちは専門診療科と密接に連携しながら診療を行うため、方針をすり合わせるための議論や、時に交渉が必要となります。たとえば、大動脈解離の保存的加療中に臓器虚血が疑われた場合、心臓外科との迅速かつ的確な連携が求められます。その際には、診療状況を的確に伝える表現や、相手の視点を踏まえた交渉の工夫が必要です。こうした他科とのコミュニケーションスキルも、私たちが重視する専門性のひとつです。
もうひとつは、診療科としての方針決定や業務運営に関する意思決定です。ジェネラリストが集まる診療科は、その柔軟性ゆえに、業務範囲が無秩序に広がるリスクがあります。だからこそ私たちは、外部環境(病院のニーズや社会状況)と内部環境(人員体制やスキル)を客観的に共有し、メンバー全員での合意形成に基づいた意思決定を行うことを大切にしています。
こうした運営方針で、従来のトップダウン型(科長・医局長のみによる判断)とは異なり、意思決定の過程そのものに透明性を持たせることを目指しています。診療科として無闇に規模の "成長" を追い求める前に、その "成長" が本当に妥当かどうかを熟考すること。むしろ、個々のメンバーの内科医としての "成長" にリソースを振り分けること――それが私たちのマネジメントの基本姿勢です。
Context(前提)
病院総合内科と業務の依頼元の関係性、連携の歴史などを簡潔に整理
Why(理由)
なぜいま応援が必要なのか、そしてそれが病院全体にどう貢献するかを確認
Impact(三者への影響)
専攻医/病院総合内科/依頼元の三者にとってのメリット・デメリットを比較
Steps(具体的方法)
期間/サポート体制/取引条件など、配慮事項や具体的な実行方法を確認
Engagement(合意への参加)
関係者全員の意思をYes/No/Unansweredで整理し、合意の度合いを確認
病院総合内科では、専攻医/病院総合内科/依頼元の三者間の関係性と利害を整理し、透明性を持って合意形成するための意思決定フレーム(C-WISE)を用いることで、合意をもとにした診療科運営を目指しています。詳細な意思決定の方法および専攻医の権利に関しては「三者透明性プロトコルによる意思決定ガイドライン」をご参照ください。
Out of scope
私たち病院総合内科では、以下の業務や方針は原則として行いません:
外来診療への恒常的な従事
外来経験は、希望制の救急外来研修として提供できます
無目的な残業や時間外診療の常態化
病状説明や他診療科との会合は原則として日中に実施します
メンバーの意思を無視した外部病院や他科への異動要請
個人のキャリアと希望を最大限に尊重します
目的の曖昧な診療科の規模拡大
臨床や教育の質を維持するため、高い透明性のもとで慎重に判断します
これらを意識的に制限することで、私たちはホスピタリストとしての本質的な職務に専念できる環境づくりを重視しています。結果として、ジェネラリストに求められるスキルやコンピテンシーの習得を支えつつ、バーンアウトやドロップアウトのリスク低減にもつなげています。
私たちは、患者さんのアウトカムとwell-beingを追求するには、医師自身がwell-beingでスキルアップすることが不可欠と考えています。だからこそ、持続可能な働き方と診療体制を守ることが、医療の質そのものに直結すると信じています。
* 低価値医療(low-vaue care)とは
患者にとってほとんど、あるいは全く利益をもたらさない医療行為であり、むしろ害を及ぼしたり、医療資源の無駄遣いにつながったりする可能性があるものを特に指します。医学的な根拠が乏しかったり、より効果的な代替手段があるにもかかわらず行われている医療行為とも言い換えられます。例えば、かぜに対する抗菌薬の投与は低価値医療にあたります。ほとんどのかぜはウイルス性であり、抗菌薬が無効どころか、薬剤耐性菌を増やしてしまって有害だからです。また、腰痛に対する早期の画像検査も低価値医療にあたります。外傷や神経症状がない限り、多くの急性腰痛は自然に回復することが分かっており、不要な検査は過剰診断や不安を招く可能性があるからです。
過剰な検査を行うと、偽陽性の問題などが生じて、さらなる検査を要するという、検査カスケードが生じることがあります。また、過剰な治療を行うと、その治療に伴う副作用を生じて、さらなる治療を要するという、処方カスケードを生じることがあります。これらは、患者さんに害があるだけでなく、関係する医療従事者の負担増や社会保障費の増大にもつながります。エビデンスを重視した診療を提供し、低価値医療を撲滅することで、このような負の連鎖を断ち切ることが可能です。