私たちは「医は仁術」、すなわち医療を通じて仁愛の徳を実践するという普遍的価値を大切にしています。このプロフェッショナリズムは時代を越えて変わらないものですが、その実践のかたちは、社会の価値観やニーズとともに変わりゆくものです。私たちは、自己犠牲に頼るのではなく、チームで支え合い、持続可能で柔軟な医療のあり方を追求します。「いま」の医療に真摯に向き合いながら、「あした」の医療をともに創っていきます。
日本の医療現場には、制度や枠組みの中では十分に対応しきれないアンメットニーズが多数存在しています。たとえば、複数の疾患を抱え専門科では対応しきれない患者、あるいは境界領域の病態を抱える患者。さらに、医師であっても家庭の事情や個性によって、従来の働き方やキャリアパスからこぼれ落ちてしまう方もいます。
病院総合内科は、そうした人々が「どこかが噛み合わず、生きづらさを抱えている」状況に目を向け、柔軟で包括的な支援を提供します。その余力を作るためにも、私たちは「確実に押さえるべきこと」に集中し、「そうでないこと」に過度なリソースを割かない判断を大切にしています。
それぞれの制約を尊重しながら、互いを助け合える医療の共同体を築く。分断と競争が進む現代社会において、私たちは「共助を失わない医療」を未来につなぐ存在でありたいと願っています。
限られた医療資源を無駄にしないため、病院総合内科ではアウトカムに貢献する診療に集中します。医学的根拠が乏しく、患者に利益をもたらさない低価値医療* を排除することで、医療の迅速化と効率化を実現します。
低価値医療* の削減により、医師の負担軽減を図ります。生まれた余暇は、自己研鑽・家族との時間・趣味など、自分らしい生活に充てることを積極的に推奨しています。
複雑で過剰な医療は、患者にも医師にも負担を強いるものです。救急・集中治療との連携を前提に、引き継ぎしやすいシンプルな医療を志向し、夜間・休日も持続可能な体制を整えます。
2040年に向けて社会保障費の増大が懸念される中、医療の持続可能性を高めるには「Less is more.」の精神が不可欠です。病院総合内科は、低価値医療* の削減に現場から取り組み、その成果を社会に還元していきます。
* 低価値医療(low-vaue care)とは
患者にとってほとんど、あるいは全く利益をもたらさない医療行為であり、むしろ害を及ぼしたり、医療資源の無駄遣いにつながったりする可能性があるものを特に指します。医学的な根拠が乏しかったり、より効果的な代替手段があるにもかかわらず行われている医療行為とも言い換えられます。例えば、かぜに対する抗菌薬の投与は低価値医療にあたります。ほとんどのかぜはウイルス性であり、抗菌薬が無効どころか、薬剤耐性菌を増やしてしまって有害だからです。また、腰痛に対する早期の画像検査も低価値医療にあたります。外傷や神経症状がない限り、多くの急性腰痛は自然に回復することが分かっており、不要な検査は過剰診断や不安を招く可能性があるからです。
過剰な検査を行うと、偽陽性の問題などが生じて、さらなる検査を要するという、検査カスケードが生じることがあります。また、過剰な治療を行うと、その治療に伴う副作用を生じて、さらなる治療を要するという、処方カスケードを生じることがあります。これらは、患者さんに害があるだけでなく、関係する医療従事者の負担増や社会保障費の増大にもつながります。エビデンスを重視した診療を提供し、低価値医療を撲滅することで、このような負の連鎖を断ち切ることが可能です。