研究テーマ

アジアにすむヒト科類人猿オランウータンの行動について、フィールドでの観察にこだわって研究してきました。

集団生活と仲裁行動

複数の個体が共に暮らすことはケンカが起こるリスクをはらんでいます。ケンカが激化すると集団そのものが崩壊してしまうので、ケンカの仲裁は集団生活にとって重要な要素です。私は飼育下のオランウータンで、攻撃交渉が発生すると第三者が介入して非暴力的に仲裁することを観察しました。

食物分配

私たち人間は日々誰かと食料を分け合いながら生きる動物です。食物分配は類人猿をはじめとした霊長類でも見られることから、その起源を探ることができます。私はオランウータンの食物分配について研究してきました。オス・メスの間で起こる食物分配が、オス・メス間の繁殖をめぐる関係に影響を及ぼす可能性について研究を行っています。

オスの繁殖戦術の違い

オランウータンは「出世すると顔が変わる」珍しい特徴をもっています。オスは体と顔が大きく変化し、『フランジオス』と呼ばれます。一方、顔が小さく小柄なオスもおり、『アンフランジオス』と呼ばれます。このオスは一時的に成長を止めた状態で、自身より強いオスがいなくなるとフランジオスへ変身する状況依存的な戦略をとっていると考えられています。私はこれら2タイプのオスの繁殖戦術に着目し、行動観察とDNA解析から、2タイプのオスがそれぞれどのように子孫を残しているのか研究してきました。

野生オランウータンの父親さがし

野生オランウータンを対象に、子どもの父親をDNA解析によって明らかにする研究を進めています。オランウータンを密林で追跡し、生態を記録する研究には大変な労力がかかります。最大の問題は調査員の人件費をいかに確保するかに尽きます。私たちはNPO法人を設立し、これまで数度クラウドファンディングによって資金を集め、研究を維持してきました。支援くださった方々に、定期的に現地の情報や研究に関するレポートをお送りしています。詳しくは以下のページをご覧ください。

NPOのページ(外部サイト) 

これまでのクラウドファンディングの記録(外部サイト)

ヒト青年期の進化史的基盤

青年期はヒトに固有の発達段階であり、他の動物には存在しないという形態人類学者の主張が一般に受け入れられ定説化しています。しかし、青年期に私たちに起こる変化は形態以外にも、神経・心理・行動・社会性といった様々なソフト面にも見られます。そして、そのような変化はヒト以外の霊長類の若者にも見られることもわかってきています。

私は霊長類学の視点から、行動・社会性の観点からヒト青年期をとらえ直すことでヒト以外の霊長類との比較を行い、青年期の進化史的基盤を明らかにしたいと考えています。アフリカ狩猟採集民の青年期研究で著名な人類学者のグループとこのテーマに取り組んでいます。