新しい経済地理学(NEG)モデルを中心に、多数の集積形成を説明し得る経済集積理論を学びます。特に、人口減少下の日本の都市・地域の盛衰について、事実再現性の高い理論を用いて予測する分析枠組みの開発を意図した講義をします。昨年は、日本に住む日本人の数が86万人減少しました。日本の人口は60万人減少です。この調子で人口が減れば、150年後に日本から日本人は消滅し、200年後には日本自体が消滅します。人口減少は都市・地域経済にとどまらない極めて大きな問題であるにも関わらず、その効果について殆ど理論に基づいた定量的な分析は行われていません。それがこの問題の重大さが一般に認知されない理由のひとつです。今回の講義では、まずは都市・地域経済の問題を通して人口減少の効果を分析できる理論・実証分析の枠組みについて考えます。
人口減少下の都市・地域盛衰を分析する理論・手法のアイデアについて、レポート提出&報告 (A4紙1,2枚でOK)。
Beef+に提出してください。9/4(水)17時期限。
講義内容は、京大にて今年前期に行った「Economic Geography」に沿った内容ですが、スライド内容を適宜変更したものを使います。以下にスライドのリンクを貼ります。
1日目に(5)まで、2日目に(11)まで、3日目は残りの予定です。時間が足りなさそうなら、まず(11)、次に(10)を省きます。事実再現に直結するところをカバーしたいので。
27日はご苦労さんでした。結局(3)まででしかカバーできませんでしたが、十分だと思います。28日は、(4)(5)(7)(8)と(12)をカバーします((9)は省きます)。最終日29日は、一気にモダンな理論(実証も少々)に向かいます。(13,14)は、他ではまず聞けない、かつ、とても重要な内容なので、省かずカバーするつもりです。
参考文献 [PDF]
問題提起 -- 人口減少下での100年後の都市・地域の姿について話します。講義では、現実の都市の規模・配置そして産業構造を再現し、将来を予測することができる理論・実証枠組とはどのようなものなのか、考えます。
序論 -- 空間経済学/経済地理学分野の現状を俯瞰します。
新しい経済地理学基本設定 -- 今や「Old new economic geography」と揶揄される「新しい経済地理学 (New Economic Geography, NEG)」ですが、未だに都市の規模と配置の関係を同時に説明する理論モデルとしては、殆どこのモデル群を代替できるものはありません。特に、複数の集積の形成を説明し、そのうえで実経済を再現できるモデルとなると、私の知る限り、これ以外に今のところ見当たりません。Fujita, Krugman & Venables (FKV, 1999) Ch.4
Krugman 1991 -- 複数集積の形成を説明する古典的なモデルを紹介しま す (FKV Ch.5)。
土地集約財の役割 -- 殆どの空間経済モデルは土地集約財を捨象します。それを捨象することで、何が説明できなくなっているのか考察します (FKV Ch.7)。
(省略) 代替モデル -- FKVでカバーするNEGモデルのいわゆる第1世代の後、2000年代に生まれた第2世代のモデルを紹介します。
ロックイン効果 -- 世帯や企業が集積することで、そこにはもともとなかった、後天的な地の利が生じ、一旦できあがった世帯や企業の集積を固定化する「ロックイン効果」について学びます (FKV Ch. 8)。
Fujita & Krugman (1995) -- 連続立地空間で複数の人口集積を内生的に説明するモデルの中でも最も基本的なモデルと言えます。ロックイン効果、集積の陰、市場ポテンシャルなどの概念のミクロ基礎を統一的につけた重要な論文です (FKV Ch.9)。
新都市形成のメカニズム -- 既存の都市に対して、新しい都市はどこにできるのか、考察します (FKV Ch10.1-2)。
(省略) 都市形成の間隔 -- 都市間距離が決まるメカニズムを学びます (FKV Ch.10.3)。-- 省略の可能性あり
(省略) 中心地理論 -- 集積の空間的周期が異なる産業を含むNEGモデルを学びます。異なる産業の集積が空間的に同期することで、都市人口規模にバリエーションが生じます (FKV Ch.11)。-- 省略の可能性あり
中心地理論 -- 都市人口分布のべき乗則とフラクタル構造 (実証), 理論, 都市の形成間隔と産業構造の階層性 。実経済の都市人口・空間分布は極めて明確な空間的フラクタル構造を持っています。規模の経済の程度が異なる多数の産業を導入することで、実経済のそのフラクタル構造を質的に再現します。
集積と分散の空間スケールと経済集積モデルの分類 -- Akamatsu, Mori, Osawa & Takayama (2024, Sec 3まで)。都市の空間分布については、どんな分布を説明するためにどんなモデル構造が必要なのか、割と分かってきています。これが分かると、どんな構造モデルが必要なのか、分かってきます。(都市の内部の空間構造を説明する場合には、まだ分からないことの方が多いです。ただ、それを知ることが大事です。)
「定量空間経済モデル」へのインプリケーション -- Akamatsu, Mori, Osawa & Takayama (2024, Sec. 4)。(13)のことが分かっていないと、実際の地域バリエーションが殆ど拾えないようなモデルを作ってしまうだけでなく、比較静学も怪しくなる、という話です。