統計学はしばしば「データを分析するための学問」と理解されます。実際、ヒストグラム、回帰モデル、t検定など、統計学の手法はさまざまな分野で用いられています。
一方で、統計学の理論研究では、個々の手法を実際に使って分析すること以上に、「その方法はなぜうまくいくのか」「どのような条件でうまくいくのか」「どの程度の誤差や不確かさをもつのか」を厳密に明らかにすることに関心があります。
たとえば、私が研究しているランダムフォレストであれば、推定にどの程度のバイアスがあるのか、どうすればそれを減らせるのか、分散はどのように評価できるのか、といった理論的な問題を深く考えます。こうした研究は、すぐに目に見える成果や社会的インパクトを感じやすいものではないかもしれません。しかし、手法の本質を理解し、信頼できる方法論を支えるという意味で、統計学の重要な基盤をなしています。
この分野では、自分で文献を読み、考え、問いを立てる姿勢がとても重要です。毎週の勉強や発表を淡々と積み重ねられること、専門書や論文を読みながら「ここにはまだ分かっていないことがあるのではないか」と考えられることが求められます。そのため、明確な正解や素早い応用成果を強く求める人よりも、抽象的な問題を粘り強く考え、手法そのものを深く理解したい人に向いている分野です。
実社会の課題に直接触れながら研究したい人には、より応用寄りのテーマや大きなチームでの研究の方が力を発揮できる場合もあると思います。一方で、理論そのものに強い関心があり、自分の力で学びながら問いを育てていきたい人にとっては、非常に面白い魅力的な世界です。
わたしの卒業した学部の有名な先生が「数理の研究というのは山登りで、登り切った後に素晴らしい景色が見え、歩いてきた道を振り返ることで全てが繋がって感動を覚えるもので、それは自分が一生懸命取り組んだご褒美である。その過程はとても苦しく、山頂に辿り着かないこともあるけれども、たどり着いた時に全てが報われる」とおっしゃっていました。数理研究の魅力は、この言葉に詰まっていると思います。
私たちの研究室は、研究室配属時点で以下2つの条件を要求します
・「大学数学の基礎(久保川著)」を読み全ての練習問題に取り組んでいること。
・「統計検定2級」に合格していること
その上で、次の2つのコースを用意しています。
コース1)修士や博士を見据えて、統計的機械学習理論や、その因果推論への応用研究に取り組みたいと考えている人
4年生の8月までを目処に数理統計学の教科書「現代数理統計学の基礎」を読み切り、卒論では論文1本を背景知識を含めて精読できて、シミュレーション実験の再現実験が行えるレベルを目指します。また、教科書を読み切った後は、もう1冊の教科書「標準ベイズ統計学」を読み進めます。修士を終える頃には、対外的な発表や論文の執筆ができるレベルを目指します。
コース2)4年生の卒業後は民間企業で働くことを想定し、データの分析の手法理解を深めたい人
4年生の卒業段階で、統計検定の準1級レベルの知識を身につけることを目指します。4年生で「データ解析実践ワークブック」を読破し、統計検定準1級に合格します。卒業研究は、「データ解析実践ワークブック」の中から興味のある手法を1つ選択し、その方法について深く勉強して卒論を書いてもらいます(注:こちらの場合には、わたしたちの研究室での修士課程への進学は想定していません→他の研究室に進学するならその限りではないです)。
研究室に配属希望される方へ(ルール)
研究に使うことのできる絶対時間が学期中・休み期間中問わず30時間/週確保できるようにしてください(ものになりません)。
ゼミでは「ノート」を用意し、ゼミの発表内容をノートにまとめ、ノートのみを利用してホワイドボードに書きながら発表すること。
発表中は、教員や先輩から発表内容について質問や指摘されることについて許容できること。
AIを勉強のアシスタントにすることはOKですが、自分で説明できるレベルまで理解していないのにAIを使った内容を発表したり、卒論を書いたりするのは認めません。もしAIで(自分の理解していないような)論文書くことを許容して欲しいなら別の研究室に進んでください。
配属時点の準備
10月の段階で、統計検定2級に合格している
大学数学の基礎(久保川著)を読破し内容が理解できている
ゼミ(コース1 : 4年生9月まで)
現代数理統計学の基礎(久保川著)を輪読する
3年生後期:保健衛生データ解析/健康医療統計学を履修し、論文精読と発表の基礎勉強
4年生前期:中村の数理情報リテラシーを履修する(医療深層学習に名称が変更予定)
ゼミ(コース2 : 4年生9月まで)
統計検定2級の内容を復習しつつ、データ解析実践ワークブックを輪読
3年生秋学期:保健衛生データ解析/健康医療統計学を履修し、論文精読と発表の基礎勉強
4年生前期:中村の数理情報リテラシーを履修する(医療深層学習に名称が変更予定)
卒業論文(4年生9月-12月)
主要統計学術誌(例:Annals of Statistics, JASA, Biometrika, JRSS-B, JMLR)などから、興味あるテーマの論文を探します。
まずは内容を読んで、深く理論を理解する。
実験内容のプログラムを書いて、行われているシミュレーション・分析の再現実験を行う。
この手法の問題や、どのような拡張が考えられるかについて議論をまとめる。
理解:手法の中核アイデアと数式の流れを説明できる(背景知識も含める)
適用範囲の把握:どんな目的で、どんなデータに、どの分野で使われるかを説明できる
再現:論文のシミュレーション(実験)を再現するコードを書ける
比較・検証:既存手法との比較実験を設計し、結果の差を解釈できる
限界の分析:どんなときにうまくいかないか(失敗条件)を具体的に議論できる
例:シミュレーション設定に依存する性能劣化
例:パラメータ選択・チューニングの難しさ
見つけた課題を改善する方法の提案
提案手法と既存手法の比較実験による有効性の検証
プログラミング言語:R/Python
LaTex (Overleaf 環境)
North Carolina State University : https://www.lib.ncsu.edu/formats/teaching-and-learning-datasets
Vanderbilt Department of Biostatistics : https://hbiostat.org/data/
Causal Inference : A Statistical Learning Approach (by Stefan Wager) : https://web.stanford.edu/~swager/causal_inf_book.pdf
Machine Learning and Causal Inference (by Susan Athey and Stefan Wager) : https://web.stanford.edu/~swager/teaching.html
Machine Learning Theory (by Hirshberg) : https://machine-learning-theory.github.io/
Dive into Deep Learning : https://d2l.ai/chapter_appendix-mathematics-for-deep-learning/information-theory.html
関西大学 黒川先生 行動経済学 : https://sites.google.com/site/hirofumikurokawa/zemi
東北大学 石垣先生 統計学・マーケティング: https://www2.econ.tohoku.ac.jp/~isgk/lecture.html
神戸大学 末石先生 https://sites.google.com/site/naoyasueishij/teaching
神戸大学 分寺先生 https://www2.kobe-u.ac.jp/~bunji/files/lecture/MVA/html/
A gentle introduction to matrix calculas : https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0304407624002070
今の時代は、ChatGPTやAIツールを使えば、短時間で自分の実力以上のものを作ることができます。
しかし、私の研究室では皆さんに”成果”を求めているのではなく、皆さん自身が毎月、毎週、毎日、小さくても一歩ずつ成長することを求めます。
論文を書くためのtips集 https://j-yamasaki.notion.site/tips-d6a6f6c46d6c4c2ea9368e9b0c093beb
研究指導などについて https://sites.google.com/site/kensuketeshima/japanese_website/education?authuser=0