研究紹介
ガンマ線バーストの想像図
解説
この画像は、現在までに得られた観測事実に基づいて理論的に考察されたガンマ線バースト(継続時間が長い種族)の概念図です。
ガンマ線バースト(gamma-ray burst, 略してGRB と呼ばれる)は、宇宙最大の爆発とも言われる巨大で激しい爆発現象です。X線よりさらにエネルギーの高いガンマ線と呼ばれる電磁波で、数秒から数十秒程度の間、突然明るく輝きます。このような現象が1日に1回程度の頻度で、空のどこかで突然起こります。(ガンマ線は目に見えないのでわかりませんが、ガンマ線観測衛星で発見されます。) 1970年代に発見された後,長らく謎の天体とされてきましたが、1997年以降、劇的に研究が進展しました。現在では、100億光年以上という遥か宇宙論的な遠方で、太陽よりも何十倍も重い星がその進化の最後に燃え尽きて超新星爆発を起こすときに発生する現象である事がわかっています。しかしその発生頻度は普通の超新星よりずっと低い珍しい現象であり、普通の超新星爆発よりずっと大きなエネルギーが放出されます。
爆発前の星は、水素やヘリウムなどの外層がはがれた状態と考えられ、中心に鉄(Fe)のコア、その周りにより軽い元素(ケイ素 Si, マグネシウム Mg, ネオン Ne, 酸素 O, 炭素 Cなど)からなる外層がとりまいています。中心の鉄コアが重力に負けてつぶれ、中心部に高速回転するブラックホールができます。ブラックホールには、周囲の物質が円盤状に落ち込みます(降着円盤)。その際、円盤面に垂直な二方向に「ジェット」と呼ばれる細く絞られた質量放出が起こり、それらが星の外層を突き破った時にガンマ線が放出されると考えられています。このジェットは大変な速度で、ほぼ光速(99.99%以上!)に達します。ガンマ線の放出はジェットの方向に細く絞られており、我々がたまたまそのジェットの方向にいる時だけ、ガンマ線バーストとして観測されます。
なお、ガンマ線バーストには継続時間が約2秒以下のものと2秒以上のものと二つの種族に分かれるとされ、ここで説明したものは継続時間の長いガンマ線バーストのものです。短い方は、連星中性子星やブラックホールの合体とも言われて来ましたが、ついに2017年になって、連星中性子星の合体からの重力波が捉えられ、短いガンマ線バーストも同時に発生したことが観測されました。こちらの種族も、今後、解明が進んでいくことでしょう。
ガンマ線バーストそれ自体が大変興味深い天体ですが、もう一つ、重要な役割があります。宇宙論的な遠方からでも観測可能なため、宇宙初期の星や銀河の形成活動を探ったり、初期宇宙の物理状態を調べたりなど、宇宙論研究への応用も始まっています。今や、ガンマ線バーストは銀河やクエーサーと並ぶ重要な最遠方宇宙探索の手段となりつつあり、最遠方天体の記録を熾烈に争っています。
ガンマ線バーストについてさらに知りたい方は、拙著「爆発する宇宙」がご参考になると思います。
上の図は、非営利の研究・教育・普及などの目的であればご自由にお使いください。(出典が京都大学であることを明示して下さい。)この図は、平成20年4月9日〜8月31日に開催された京都大学総合博物館の企画展「京の宇宙学 〜 千年の伝統と京大が拓く探査の未来-」での展示パネル用に作成された図をもとに、新たに説明文などを加えたものです。
製作:京都大学大学院理学研究科(当時) 戸谷友則