LOYAL TATTOO における 現代和彫の基本定義
1. 現代和彫の基本定義
• 基本式
現代和彫 + 異界
= 伝統刺青材料 + 現代構図 + 深層造形 + 異界概念
• 出発点
• 日本伝統刺青で培われた「針・墨・線質」の思想をそのままに、マシンワーク前提に最適化した日本の刺青体系と定義する。
• 主題モチーフは、日本宗教画、古典日本画・仏画・従来の和彫モチーフ(龍・虎・獅子・牡丹・波・雲・不動明王 等)を中核に置く。
• 構図理論は、西洋画で確立された 重心(Balance)/動線(Flow)/余白(Negative Space) を採用する。
• 位置づけ
• 「和風っぽいタトゥー」ではない。
• 「コミック的・外形模倣型タトゥー」でもない。
• 材料は伝統、構図は現代、意味構造は深層・異界という、独立した系として扱う。
• 量産ワンポイントタトゥー市場とは別レイヤーに存在する、「構造設計された日本刺青のマシンワーク版」として整理する。
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2. 日本伝統刺青からの技術系譜
• 出発点
• ベースはあくまで 手彫り和彫の技術体系 とする。
• 参照する中核要素
• 針束構成
• 墨の選択・濃度設計
• 皮膚への打ち込み角度・深度
• 線・面・ぼかしの役割分担
• 打ち込みのリズムと「間」
• 継承のスタンス
• これらを否定せず、「歴史的資産」としてそのまま取り込む。
• 変更するのは 実装方式のみ(手彫り → マシン) とする。
• 「伝統和彫と同じ土俵で“伝統”を名乗らない」が、
材料思想と線の哲学は継承する という立場を取る。
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3. 材料転用:伝統材料 → マシン前提
3-1. 墨(Ink)
• 前提
• 使用する黒は、伝統刺青の墨思想(沈み方・揺らぎ・経年変化)を前提とする。
• コントロール対象
• どの皮膚層に沈ませるか
• 時間経過後の退色グラデーション
• ぼかし端部の消え方・にじみ方
• マシン用最適化
• 粘度・濃度・希釈比を、マシンのストローク・打点数に合わせて設計する。
• 例:比叡山・根本中堂由来の煤墨のような「重い黒」を、「面を潰す黒」ではなく 立体構造を組む黒 として再解釈し、マシン彫りで彫刻的な陰影構造に転換して使う、等。
3-2. 針(Needles)
• 和針思想の転写
• 3本・5本・7本…といった本数構成
• 束の開き具合
• ハンダ位置
• テーパー形状(先端の長さ・鋭さ)を「和針の考え方」として参照する。
• マシンワーク用に変換
• それを マシン用ニードル/カートリッジ構成 に変換する。
• 目的は、
• 線(スジ)
• 面(塗り・構造面)
• ぼかし(グラデーション)
それぞれに最適化した束構造を持つ「刺青針セット」を組むこと。
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4. 和針発想による刺青針設計
• 設計の出発点
• 「何本束ねるか」から入らず、
“意図する濃度・速度・深さ” から逆算して針仕様を決める。
• 設計パラメータ
• 針本数
• 束の開き具合(タイト〜ワイド)
• テーパー(短・中・長)
• ハンダ位置(針先からの距離)
• 用途別セット
• スジ彫り用セット
• ぼかし専用セット(極薄〜中庸〜濃グラデ)
• 面塗り・構造面構築用セット
• これにより、手彫り和針の機能をマシン針に転写した状態 を作る。
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5. マシンワーク最適化
5-1. 手彫りの打ち込み感の分解 → マシンパラメータ対応
• 手彫り側の体感要素
• 皮膚への入り方(角度・深度)
• 一打ごとの間隔(リズム)
• 同一点への通過回数(重ね打ち)
• それに対応するマシン物理パラメータ
• ストローク長
• 打ち込み周波数(Hz)
• 電圧・トルク
• ニードル出量
• 現代和彫マシン設計の目的
• 「痛みとダメージを抑えつつ、必要層に安定して墨を届ける」
• この目的を満たすために、
• マシン側:ストロークとトルクの調整
• 針側:束構成とテーパー
• 刺し方側:速度・軌道・重ね回数
を一体で設計する。
5-2. グラデーション/極薄ボカシの再現
• 重要指標
• 「限界まで薄いぼかし」がどこまで安定して再現できるか を技術指標とする。
• 実装の三本柱
1. 高トルク・低ダメージ方向へのストローク設計
2. 和針思想ベースのニードル束構成
3. 同一点を“撫でる”回数・速度・軌道の手首制御
• 目標
• これにより、手彫り特有とされてきた “にじむグレー” を、
機械制御で再現可能な領域にまで持ち込む。
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6. 材料思想(Needles / Ink / Skin)の三レイヤー整理
現代和彫における材料思想は、以下の三層で整理する。
1. 針レイヤー
• 和針思想をベースに、用途別マシンニードルを設計・選定。
• スジ・面・ぼかしそれぞれに最適化した束構造を割り当てる。
2. 墨/インクレイヤー
• 伝統的な黒の哲学(沈み方・退色・グラデーション)を保持。
• マシンの打点数・ストロークに合わせて 粘度・濃度・希釈比を設計。
3. 皮膚レイヤー
• 日本人の肌色・厚み・回復傾向を前提条件として扱う。
• 部位ごとの血流・伸縮性に応じて、
• 打ち込み深度
• 針組み
• マシン設定
を調整する。
結論:
• 現代和彫は 「どのモチーフを彫るか」以前に、
針・墨・皮膚・マシンという物理条件の設計を先に決める刺青体系 である。
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7. 構図思想(Balance / Flow / Negative Space)
7-1. 身体全体を前提にした構図設計
• 前提
• 背中・腕・脚・胸などを 一枚の画面 として扱う。
• 筋肉の走行・骨格ラインに逆らわないが、
「筋肉トレースだけ」で終わらせない。
• 西洋構図理論の導入
• 重心:どこに視線の「重さ」を置くか
• 動線:視線をどの方向へ流すか(波・毛並み・雲・炎など)
• 余白:
• 和彫固有の「抜き(肌の余白)」
• 西洋的ネガティブスペース
を統合して扱う。
7-2. 和彫の「抜き」と現代構図の統合
• 和彫世界における「肌の余白=抜き彫り」を、
単なる“空白”ではなく 構図上のベクトル として扱う。
• 例:唐獅子牡丹フルスリーブ
• 要素
• 血・赤
• 花・牡丹
• 獣・唐獅子
• 黒・構造を締める墨
• 軸
• 静/動
• 血/花
• 獣/香気
• これらの対立軸を、
• 材料(黒・赤・余白)
• 構図(流れ・重心・密度)
を組み合わせることで 視覚構造として落とし込む。
• 重要点
• 「意味がこうだからこう描く」のではなく、
まず構造として成立しているか を基準に設計し、
その上に意味・象徴を載せる。
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8. 深層造形(Deep-Structure Imaging)
8-1. 顕在イメージではなく「原像」を扱う
• 目的
• 「こう見せたい」レベルの表層願望ではなく、
もっと下層にある“原像” を拾い上げること。
• 手順イメージ
1. 言語情報(希望モチーフ・エピソード・嗜好)から、
深層にある構造的テーマを抽出する。
2. 抽出したテーマを、現代和彫の語彙
(獣/花/仏/抽象/骨/構造物 など)に変換する。
3. 身体構造と照合し、
「どこに・何を・どう流すか」 を決定する。
8-2. 記号の再解釈
• 例:唐獅子牡丹
• 伝統的意味
• 唐獅子:守護・勇気
• 牡丹:富貴・繁栄
• 現代和彫的扱い
• それらの意味を前提情報として保持しつつ、
• 作品としては
• 野性 × 官能
• 香り × 暴力性
など、構造的な対立軸 として使用する。
• 行っていること
• 「記号の意味を変える」よりも、
意味のどの側面を強調し、構造へ反映させるかの選択 である。
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9. 異界概念(Otherworld)としての独立性
9-1. 一般タトゥー領域と切り離す理由
• 現代和彫 + 異界 は、安売りタトゥー屋概念・量産デザイン消費を前提とするチェーン店方式・ワンポイントタトゥー市場と直接連動させない前提 で設計する。
• 目的
• 「流行りのタトゥー」と同じテーブルで比較されないようにする。
• 技術・材料・構図・深層造形を、別ルールの世界 として運用する。
9-2. 異界としての要件(抽象化)
• 一般市場との非連動性
• 流行・テンプレ・簡易コピー前提の構造とは線を引く。
• 深層世界観の前提
• 見栄え・流行性よりも、
構造としての必然性/原像との一致度 を評価軸とする。
• 材料哲学との一体化
• 異界コンセプトだけが浮かないよう、
• 針
• 墨
• 構図
• プロジェクトスケール(フルスリーブ/バックピース/総身彫 等)
すべてを「異界側のルール」に接続する。
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10. スケールとプロジェクト性
10-1. 単発ではなく「長期設計物」
• 典型スケール
• フルスリーブ
• レッグスリーブ
• バックピース
• フロントピース
• 総身彫プロジェクト
• 例:不動明王+倶利伽羅双龍フルボディ 等
• 特徴
• 多くが 複数ヶ月〜年単位 を前提とした構造物。
• サグラダ・ファミリア型に近い「未完を前提とした進行」も許容範囲とする。
• 途中段階も一つの相として成立するよう設計する。
10-2. 身体との統合
• 目的
• 「絵が載っている身体」ではなく、
身体そのものが構造体になっている状態 を作る。
• 具体要素
• 骨格ラインに沿ったライン配置
• 筋肉の盛り上がり/沈みを前提にした濃度設計
• 動作時(腕の屈伸・体幹の捻り)における図像のゆがみまで含めた設計
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11. 引き継ぎ仕事(他店作品の延長・改造)の扱い
• 前提スタンス
• 既存タトゥー/刺青を全否定して塗りつぶすのではなく、前任者の意図を読み取り、リスペクトした上で上位構造へ接続する 方針。
• 現代和彫としての処理手順
1. 既存作品の構図・線・意味を解析する。
2. どこまでを活かし、どこから上書き/拡張するかを設計する。
3. 現代和彫の材料思想・構図理論へ接続し直す。
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12. 三軸モデルによる位置づけ
現代和彫+異界は、おおむね以下三軸で説明可能である。
1. 伝統性(Traditionality / Irezumi)
• 伝統刺青の材料思想(針・墨・線質)を継承。
• 古典日本画・仏画モチーフを中核に置く。
2. 現代性(Modernity)
• 現代的な抽象性・密度設計。
• マシンワークへの最適化。
• 必要に応じて、トラッシュポルカ/アブストラクト/ブラックワーク等
現代西洋タトゥーの構造要素も吸収。
3. 概念性(Otherworld / 異界)
• 一般タトゥーカテゴリと非連動。
• 深層構造・原像の可視化を主目的とする独立領域。
→ この三軸がすべて立っている状態を、
「現代和彫(+異界)」の条件 とみなす。
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13. まとめ
• 現代和彫とは
• 伝統和彫の材料思想(針・墨・線質)
• 西洋画ベースの構図理論(Balance / Flow / Negative Space)
• 被施術者の原像に踏み込む深層造形
• 一般市場と切り離された異界概念
を統合した マシン前提の日本刺青体系 である。
• 目的
• 「似合う和風タトゥー」を作ることではなく、
被施術者の深層イメージを、現代和彫という言語で身体構造に適合させて彫刻すること。
• 要求される思考層
1. 物理層
• 針と墨と皮膚とマシンへの理解・設計。
2. 構造層
• 身体全体を一枚の画面とした構図設計。
3. 意味層
• 記号の再解釈と異界概念の組込み。
この三層を同時に扱うことを前提とした刺青体系として、
本稿では「現代和彫(+異界)」を定義する。