私のような人間が、先輩と付き合えるなんて思ってない。だけどそれはそれ。好きな人に彼女ができた事実に、ショックを受けるのは当然の反応なわけで。
「元気出せよー」
放課後、私と澪は緊急大判焼き会議を開催したけど、私はとても食欲が湧いてこず、というか生きる気力さえ湧かず、大判焼き会議において初めて何も買わなかった。
「まだ付き合ってるって決まったわけじゃないんだし」
歩空先輩に関する噂は以下のとおりだ。
先輩と同じ学年のバレー部の女子生徒が、最近先輩と一緒に帰っているらしい。しかも人目を避けるように、コソコソしているとのこと。
「……先輩が付き合ってるなら、それならそれでいいよ。元々付き合えるなんて思ってなかったし」
「いや……紗夏はそう思ってるかもしれないけど、傍から見てるぶんには、十二分に脈があったはずなんだよ。勉強の誘いだって先輩のほうからあったわけだし。それなのに、どうしてここに来て急に噂が流れてるんだろう」
「バレー部の人が、歩空先輩に告白したのかもしれないよね……」
「ええい!」
まだ半分も残っている大判焼きを澪は口に放り込んだ。
「このまま私たちだけで話しててもしゃーない! 思い切って先輩本人に聞いてみるしかない!」
「え、マジで」
「そうするしかないっしょ!」
それはそうだけど、この恋があっさりと終わってしまうのはイヤだった。未練がましいかもしれないけど。
「……なら私、思い切って先輩を遊びに誘ってみる。もし先輩に彼女ができたのなら、きっと断られると思う」
そのほうが、悔いが残らないような気がした。
「私、どうしても先輩と行きたい場所があるんだよ。煙山の、ひまわりパークあるでしょ?」
「ん? ああ、あそこ! 小学校の頃に遠足で行ったとこか!」
「そう。私、どうしても先輩と行きたいんだ」
ひまわりパークは、矢巾の煙山地方にあるひまわり畑だ。南昌山をバックに、一面咲き誇るひまわりを一望することができる。
「……先輩に断られたときは、もう諦めるよ」
先輩のことは好きだけど、誰かの幸せを壊したいとは少しも思わなかった。
「とりあえず今日、勇気を出して先輩を誘ってみる。どうしても勇気が出なかった場合は、澪に連絡するかもしれないけど」
「……今日一緒にいようか?」
「ううん、とりあえず一人で頑張ってみる」
「そっか……うん、わかった。何かあったら、すぐ連絡して」
自宅に着いたのが午後七時。それからお風呂に入ってご飯を食べて、明日の準備を済ませたのが九時前。そこからようやく私は、先輩をお誘いするためのラインを作成した。書いては消し、書いては消しを繰り返し、ようやく文面が完成したのは十時過ぎ。
「送るぞ……送るぞ……」
送信ボタンに親指を重ねるけど、すぐに離して深呼吸。それを繰り返してるうちに、私はスマホをぶん投げて、枕に顔を埋めてしまった。
『ごめん、俺彼女できたからムリだわ!』
そんな返信を想像すると、胸が張り裂けそうになる。想像するだけでこんなに苦しいのに、実際にこんな返信が来たら、いったい私はどうなってしまうのだろう。
でも、きっとこれが恋なのだろう。恋なんて叶わないのが普通だ。きっとみんな失恋の一つや二つ、経験してるに違いない。私だけが特別、辛いわけじゃない。
そうやって自分を奮い立たせるけど、
「……はぁ」
ため息ばかりが出てくる。
もう一度スマホを手に取って、先程作った文章を読み返す。
『よかったら七月末に、一緒にひまわりパークへいきませんか?』
たったこれだけの文章を、どうしても送れない。
もう一度澪に相談しようか。
そもそも明日にしようか。
そんなことを考えたけど、結局は同じことを繰り返すだけだ。今ここで、私が勇気を振り絞るしかない。
十一時ぴったりになったら、ラインを送信する。そう心に決めて、私は送信ボタンに親指を添えた。
「……えい!」
押した瞬間、名状しがたい不安と後悔に苛まれ、送信取り消しを押しそうになったけど、なんとかこらえた。
世の中の人たちは、当たり前にこんなことをしているのだろうか。好きな人への告白なんて、できる気がしない。
「……やっぱり送らなきゃよかった」
先輩からのラインを待つ間は、控えめに言って地獄だった。大人しく待つことなんてできない。何度も何度も、既読がつくか確認してしまう。
送信から十分が経っても、既読はつかなかった。
いてもたってもいられず、私は意味もなく部屋の中をうろうろとして、スマホを手にとってはため息をついた。もしかして先輩はもうお休みになられてるのだろうか。こんな状態が朝まで続くのなら死んでしまう。睡眠薬がほしい。
「……はっ!」
ふいに、ラインの通知音が鳴る。
――来た。
『誘ってくれてありがとー! 七月三十一日が休みだから、その日にいこう!』
舞い上がりそうになりながらも、妙に冷静な自分が頭の中で疑問を呈する。
一緒に遊ぶからと言って、彼女がいないことが確定したわけではなくない?
歩空先輩は、彼女がいても他の女子と遊ぶ人なのかもしれない。
「……どっちなんだよー」
結局私は、朝まで悶絶することになった。
先輩とのひまわりパークデートに向けて、私は澪と一緒に服を買いに行った。そのときに買った麦わら帽子と黄色いワンピースはこの夏一番のお気に入りだ。ついでに美容院にも行って、憧れの髪型にもしてもらった。
当日は早起きをして、お弁当を作った。先輩が好きだというハンバーグのサンドウィッチと、カラシのきいたたまごやき。きっと喜んでくれると思う。
待ち合わせは矢幅駅に昼の十二時だ。一週間前の予報では雨だったけど、雲ひとつない晴天が広がっている。夜から雨が降るらしいけど、その頃にはとっくに家に帰ってるだろう。
私は二十分前に到着し、トイレで一度髪と服を整えたあと、駅の入口で先輩を待った。ここから自転車を漕いで、ひまわりパークへ行く予定だった。
歩空先輩をお誘いしてから今日に至るまで、結局先輩に彼女がいるかどうかはハッキリしないままだった。もし彼女さんがいるのであれば、私のほうから断りを入れたほうがいい。そうわかってはいても、本人に確かめることはできなかった。
だから、先輩とのデートだというのに、私はちょっぴり憂鬱だった。
「……遅いな」
待ち合わせの時間から、すでに三十分が過ぎている。寝坊なら寝坊で良いけど、先輩の身に何か起きたんじゃないかと心配になってくる。
どうしてこんな日に限って、先輩は遅刻してくるのだろう。
どうして何も連絡をくれないのだろう。
やきもきしながら先輩を待っていると、ようやくラインの通知音が鳴った。すでに四十分が経っていた。
『ごめん。今日行けなくなった』
私はしばらく呆然としたまま立ち尽くし、でも先輩の無事が確認できてよかったと、事故に遭ってなくてよかったと、そんな痛々しい励ましをしながら自転車にまたがった。
お気に入りの麦わら帽子を深く被って、私はほんの少しだけ空を睨んだ。
いっそ最初から雨が降っていてくれたら、こんな惨めな思いをしなくて済んだのに。
結局、デートが中止になった理由は、先輩から送られてこなかった。
自分で作ったお弁当を、私はヤケクソで胃に押し込んでから不貞寝した。だけど深くは眠れず、すぐに目が覚めてしまい、その度に先輩からのラインを確認してしまう。先輩からの返信に期待する自分がイヤになり、電源を落とした。
浅い睡眠と中途半端な覚醒を繰り返していると、それ自体に疲れたのか、私は深い眠りについていた。
起きたときは夕方で、部屋は薄暗い。いよいよひまわり畑デートを、本気で諦めなければいけない時間だった。私は心のどこかで、『遅くなってごめん、今からいこう!』と先輩からラインが来ることを期待していた。
正直なことを言えば、私は今日、先輩に初めて腹が立った。何か事情があって、今日の約束がダメになったことは仕方ないと思う。でも、どうしてその理由を言ってくれないのだろう。
やっぱり先輩には彼女がいて、私とのデートが原因で、揉めてしまったのかもしれない。
今にして思えば、一緒に勉強をしたとき、先輩の様子は少し変だった。
モスバーガーへ行ったとき、先輩は知り合いがいるからという理由で、外で食べることを提案した。そのときは単純に、先輩は恥ずかしいのかと思っていたけど、たぶん違う。彼女がいる先輩は、私と二人でいるところを見られたくなかったのだ。
もしかするとあの日、先輩は彼女ができたことを私に伝えるつもりで、勉強に誘ったのかもしれない。
なんにしたって、事情を説明してほしい。
期待せずにスマホの電源を入れると、ほどなくしてラインの通知音が鳴った。歩空先輩ではなく、澪だった。
『やっほー! 今日はどうだった? もしかしてまだ二人でいたりして⁈』
そういえば、澪には今日のデートが中止になったことを話していなかった。すぐに事情を話そうと思ったけど、私はまたスマホを置いた。
今澪と話をしたら、きっと私は歩空先輩の悪口を言ってしまう。好きな人の悪口は、どんな状況でも単純に言いたくなかった。
澪には、明日事情を話そうと思う。明日になれば、心の整理がついているだろうから。
「……行きたかったな、ひまわりパーク」
ひまわりパークへ行ったのは、同じグループだった子たちからイジメに遭っていた頃だった。当時は、その子たちの声を聞くだけで吐き気を催す状況で、とにかく学校へいきたくなかった。でもお母さんとお父さんに迷惑をかけたくなかったから、学校を休むこともできなかった。
今思い出しても、地獄だった。
この町を離れて、どこか遠い学校へ転校することを夢見ていた。その学校では、なぜか私は人気者で、昼休みになるといつもみんなが私の机を囲んでくれる。町には無料で食べられるお菓子屋さんや、無料で遊べる遊園地があって、私たちは毎日そこで遊ぶ。そんなありもしない架空の町での、理想の生活の幻想を繰り返せば繰り返すほど、私はこの町が嫌いになっていった。
そんな幻想を打ち破ってくれたのは、澪だった。忘れもしない徳丹城跡で、澪が私の味方になってくれた瞬間、現実の価値は妄想のそれをいとも簡単に凌駕した。架空の町のことなんて、どうでもよくなった。
ひまわりパークへの遠足は、ちょうどその翌日にあった。
なだらかな稜線を描く南昌山を背景に、一面咲き誇るひまわりの光景を見たとき、私は今、世界から特別な祝福を受けているのだと思った。この世界から、自分は愛されているとさえ思えた。その感覚は、人が生きていくうえでとても大事なのだと思う。
一連の出来事によって、私はこの町が大好きになった。ひまわり畑は簡単に見にいくことはできないけど、南昌山はいつでも私を見守ってくれる。どこにいても、大きな愛を感じることができた。
私が先輩とひまわりパークにいきたかったのは、この感覚をほんの少しでも、先輩に味わってもらいたかったからだ。
先輩はいずれ、この町を出ていく。なぜなら先輩の志望校は、『国立の医学部』だからだ。岩手の国立大学である岩手大学には、医学部は存在しない。
先輩が県外の大学に進学したら、その地域でお医者さんになる可能性は高い。そうなれば、私と先輩の人生が、今後交わることはないと思う。
ほんの少しだけでもいい。先輩が将来、『やっぱ岩手に帰るか』と思うきっかけを作りたかった。将来のことなんてちっともわからないけど、先輩が遠い町の人になり、私と一切関わりのない生活をすることに、今の私は耐えられない。
だって私は先輩が大好きだから。
「……ん⁈」
ラインの着信音が鳴る。スマホを手に取る。画面に表示された名前を見るなり、私は軽いパニックを起こした。スマホをわちゃわちゃとお手玉状態にしたあと、改めてスマホの画面を見る。
「歩空先輩……」
- 今まで先輩からライン電話が来たことはない。だから戸惑った。心の準備が必要だった。できればあと一時間ほど待ってほしい。そんなことできるわけないだろ。私は何を言っている――早く出ろ!
「も、もしもし!」
『志田ちゃん! 今日はごめん! ほんとごめん!』
出し抜けに、先輩の大きな声が聞こえてきて、涙が出そうになった。
「先輩に、何かあったんじゃないかって、心配してましたよ」
『ちょっと色々あって! 悪いんだけど、今から少しだけ会えない?』
「え、今からですか?」
『ほんの数分でいいから! どうしても直接話したいんだ!』
寝起きだからちょっと待ってほしい、というのが本音だったけど、私も先輩と直接話がしたかった。
「わかりました。どこへいけばいいですか?」
『歩道橋の辺りにしよう』
徳丹城の前の歩道橋は、ちょうど私と先輩の自宅の中間地点にある。つまり最短で会える場所。
『すぐに出てこれる?』
「いけます」
と答えながら、私は髪を手で整えた。
『ありがとう、俺もすぐ行くから』
先輩との通話を切り、急いで準備を整えてバタバタと階下へ下りると、「なにあんた、今から出てくの?」とお母さんがリビングから顔を覗かせた。
「もうお父さんも帰ってくるし、明日にしなさ……」
「大事な人に会ってくるの‼ 今会わなきゃいけないの‼」
「そ、そうですか」
私に気圧され、思わず、といった具合にお母さんが敬語を使う。
外へ出ると若干雨が降っていたけど、お構いなしに自転車に乗った。先輩だって自転車で来るはずだ。先輩を待たせるわけにはいかない。一心不乱に自転車を漕いだ――。
「志田ちゃん!」
歩道橋へ到着すると、ちょうど道路を挟んだ向こう側に歩空先輩の姿が見えた。先輩は自転車を停めて、歩道橋を駆け上り始めた。私も同じように自転車を停めて、小走りで歩道橋の階段を上る。
「今日はごめん!」
歩道橋の真ん中辺りで、歩空先輩は私に頭を下げた。
「怒ってるよな、ほんと、ほんとごめん!」
「……事情を、話してくれるんですよね?」
「体育祭のとき――」
体育祭?
「部室が荒らされた事件があったろ?」
「ありましたねそんなこと」
たしか、恋愛関係のもつれによる事件だったと思う。
「実はあの件、まだ解決してなかったんだよ。当事者同士ではまだ揉めててさ。そんで今日、二人が偶然鉢合わせになって、ケンカになっちゃんだよ。下手すりゃ部活動停止になると思って、俺も慌てて現場に駆けつけたんだ」
「そんなことがあったんですか……。それで、解決はしたんですか?」
「うん、じっくり話し合って、謝るところは互いに謝って、なんとか解決はした。最初からちゃんと二人の話を聞いてあげてりゃ、こんなことにならなかったんだけど……」
先輩は悔しそうに歯噛みした。
「……正直、最初に部室を荒らしたヤツの動機が、恋愛絡みの問題だと聞いたとき、大した問題じゃないと思って、流しちゃったんだよ。たかが好きだった女子を取られたとか、取ったとか、そんなことでケンカするなんてくだらないって。でも……今はそう思わない」
先輩は、「ふうっ」と強く息を吐いてから、私を見た。
「俺、最近好きな人ができたんだ。だから、アイツらの気持ちがわかるようになったんだ」
その言葉を聞いた瞬間、心臓を冷たい針を突かれたような痛みが走った。
「……バレー部の方ですよね?」
「え? いや、違うよ。もしかして、結のこと言ってる? アイツは俺の従兄弟だよ。さっきの件で色々と相談してたんだ。あとは……俺が好きになった子のこととかも、相談乗ってもらってて」
先輩は照れたように笑った。
「その、あれだよ。俺が好きなのは……」先輩は、私をものすごく優しげな目で見た。「志田ちゃんだよ」
「はぁ、そうですか」
……え⁈
今なんて言った⁈
「はい⁈」
「不器用だけど、一生懸命な志田ちゃんが俺は好きなんだ。自分を変えようともがく志田ちゃんを、ずっとそばで応援したい」
「…………へ?」
脳の処理が追いつかない。頭が真っ白になって、ただ呆然とするしかなかった。
「俺が志田ちゃんをマジで好きだって思ったのは、二人で西徳田を散歩したとき。あのとき志田ちゃん、自分の影と俺の影で、手を繋いで遊んでただろ?」
「えっ!」
思わず声を上げる。まさかバレていたとは。
「あんとき、何この子マジでかわいいって思ってさ」
「……は、は、は、は」
もはや私は呼吸困難に陥っていた。
「恥ずかしいので、やめてください……」
「志田ちゃん、俺と付き合ってくれないか」
ここまで言われてもまだ現実感がなく、私は答えに窮してしまった。
本当は、先輩が好きだと言いたかった。体育祭のとき、先輩だけを撮っていたことも、学校で声をかけられると誇らしい気持ちになることも、先輩からのラインが返ってこないだけで、私はこの世の終わりのような絶望を味わうことも、全部言ってしまいたかった。
けど、言葉にしようとすると、大きな塊が喉をつっかえた。何も言葉を返せないことがもどかしい。
「…………」
どれくらい沈黙が続いただろうか。どうしても言葉が出てこなかった私は、代わりに大きく頷いて、もう一度頷いて、何度も何度も頷いた。
「……それは、OKってことだよな?」
「はい……」
「おいー! 何も言わないから、俺フラれるのかと思ったわ! ははは!」
先輩は身を捩りながら笑うけど、私には笑う余裕なんてなかった。
「んじゃあ、これからよろしく」
「……はい」
家に帰ったら、すぐに澪に報告しようと思う。澪はびっくりして絶叫するに違いない。
「急に呼び出してごめんな。送っていくよ。彼女だし」
彼女‼
「いえ、今日は大丈夫です。お父さんがちょうど帰ってくる頃なので。先輩と一緒にいるのを見られたら、面倒なことになります」
「お父さん怖いの?」
「いえ、そういうわけじゃないんですけど、娘に彼氏ができたと知ったら、熱を出して寝込むと思います」
「ははは、めちゃくちゃ愛されてんだな」
否定はしない。私は両親に愛されてるからこそ、イジメられたときに相談できなかった。
「じゃあ、今日はここで。帰ったらラインするよ。おやすみ、志田ちゃん」
最悪の日から一変、まさか先輩と付き合えるなんて、思いもしなかった。
「おやすみなさい」
先輩に頭を下げてから、私は歩道橋を下りた。自転車を押しながら振り返ると、まだ先輩が歩道橋の上にいて、欄干に体を預けながら、私に手を振っていた。
私も先輩に手を振り返しながら、自転車を漕ぎ出した。まだ、自分が先輩の彼女になった実感がない。きっと明日になっても、実感は湧かないだろう。それくらい、私にとっては思いがげないことだった。
「志田ちゃん‼ 危ない‼」
先輩の声と、目の前に大きな光が現れたのはほとんど同時だった。一瞬見えたのは大きなトラックの車体。瞬く間に私は大きな光に飲み込まれた。
内臓と体が分断されるような、大きな衝撃が体を襲う。
体が宙を舞う。
視界がぐるぐると回る。
もう一度大きな衝撃があった。
目を開けようと思ったけど、体が言うことをきかない。
「……うぅ」
渾身の力を込めて瞼を開くと、視界は横向きになっていた。中学生の頃から愛用しているママチャリが転がっていて、その周辺には何かの破片が散らばっていた。
私を呼ぶ声が聞こえる。誰かが私の体を抱く。瞼を開いているはずなのに、視界が霞んでゆく。酷い耳鳴りとともに、私の意識はどんどん細くなっていった。
どうして私の人生って、こうなっちゃうんだろう。
私は死ぬのだろうか。
たとえ死ぬとしても、歩空先輩のことだけは、忘れたくなかった。