研究風景

グリーンランド,イスア調査

約37.7億年前の堆積岩が見られるグリーンランドのイスア地域で調査をしました.イスアは現地イヌイットの言葉で”地の果て”を意味します.最古の生命の痕跡はここから発見されました.夏の2週間だけ大地を覆う氷が溶け,調査が可能になります.現地へは首都ヌークからヘリコプターをチャーターして移動し,調査中は当然テント生活でシャワーは浴びれません.過酷な調査を経て,私たちは最古の生命の証拠を含む新たな露頭を発見しました.[東北大学プレスリリース]

デンマーク王立研究所Minic Rosing 博士,北海道大学大友陽子博士との共同研究です.

オーストラリア,ピルバラ地域調査

約34-30億年の堆積岩や海洋地殻を見ることができますが,調査環境は過酷でした.道なき道を4WDの車で走り,目印の少ない平原をGPSを頼りに何時間も歩いてようやく目的の露頭にたどり着きます.湿度は10%を切り気温は40度を超えます.熱された鉄鉱層はまるで鉄板焼のような熱さで,その上を歩くと靴が溶けてしまうので注意が必要です貴重な岩石を調査バッグの限界まで背負い込み,どんな分析をしようかわくわくしながら来た道を戻ります.

名古屋大学杉谷研究室との共同研究です.

南アフリカバーバートン地域調査

約32億年前の縞状鉄鉱層と関連堆積層を見ることができます.資源大国である南アフリカではいたる所で鉄,マンガン,金などの採掘が行われており,稼働中の鉱山で許可をもらって調査を行います.移動中,山を削って作られた道には貴重な露頭がダイナミックに露出しており,目を奪われてなかなか目的地にたどり着けないこともありました.調査中に様々な動物に出会いここがアフリカであることを実感しました.

北海道大学大竹翼博士,大友陽子博士との共同研究です.

カナダスペリオル湖周辺地域調査

五大湖の一つ,スペリオル湖の周辺には先カンブリア時代中期(約30-17億年前)の岩石が露出していて,プロペラ機で湖を横断しながら様々な年代の地層を調査します.山の緑が落ち着き,雪が降る前の秋が調査のベストシーズンです.オレンジの服はハンターからの誤射を避けるために必ず身に付けます.縞状鉄鉱層やストロマトライト,ドロップストーンなど地球と生命の共進化の歴史を紐解く重要な露頭が点在する貴重なフィールドです.

近年の私たちの研究で,19億年前の地層であるカナダ,ガンフリント層から真核生物様の化石を含む未報告の微生物化石を多数発見しました[プレスリリース]

秋田県北鹿地域調査

熊が潜む秋田の山奥に分け入って,約1500万年前に形成された海底熱水鉱床である"黒鉱"とその関連堆積物の調査を行っています.黒鉱は英語でそのまま"Kuroko"と呼ばれ,世界中の同様の鉱床にこの名前がついています.海底熱水から供給される元素が海水や周囲の生態系にどのような影響を与えていたのか,1500万年前の”新鮮な”試料を使って太古代の地球環境を読み解くヒントを得ます.

アメリカ,トロナ地域調査

アメリカ,ネバダ州からカリフォルニア州にかけて,モノ湖,RioTintoホウ素鉱山,デスバレーを調査しました.資源的にも重要なホウ素の挙動を中心に,現代の蒸発的環境における元素挙動解明を目的としています.調査は3月に行いましたがデスバレーの気温は30度を超えていました.※モノ湖,デスバレー内部は国定公園のため試料採取は行っておりません.

ネバダ大学リノ 校 Simon Poulson博士との共同研究です

東北地方の温泉調査

東北地方は温泉の宝庫で,日本で見られるほぼ全ての泉質をカバーしています.温泉に入って明日へのエネルギーを得るのは人間だけではありません.バクテリアなど微生物は温泉から熱エネルギーや溶存成分を得て生存しています.その基本的な仕組みは太古代から受け継がれてきたものです.地球が極度に寒冷化し地球全体が分厚い氷で覆われた(=スノーボールアース)時代も,生命は温泉付近で生き延びたとされています.どうやら私たち生物の温泉好きは,太古の昔から受け継がれてきた生き方のようです.