Tetsuta
KOMATSUBARA
小松原 哲太(こまつばら てつた)[経歴]
[連絡先] komatsubara.tetsuta_at_gmail.com [replace _at_ by @]
[所属] 神戸大学大学院 国際文化学研究科言語コミュニケーションコース准教授
言語には心が反映されると考える「認知言語学」の理論を背景として、コミュニケーションに用いられる効果的な言語の構造と機能について研究しています。大学院での研究指導についてはこちら。
研究分野 : 理論言語学、レトリック
主な対象言語 : 日本語、英語
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<データベース>
『日本語レトリックコーパス (The Corpus of Japanese Figurative Language; J-FIG) 』(2024年2月アップデート)
<受賞>
前之園記念若手優秀論文賞. 2024年7月11日. Framing risk metaphorically: Changes in metaphors of COVID-19 over time in Japanese. Ädel, Annelie and Östman, Jan-Ola (eds.) Risk Discourse and Responsibility: 63-85. Amsterdam: John Benjamins.
<著書・論文>
小松原哲太. 近刊. 『概説レトリック:表現効果の言語科学』 東京: ひつじ書房.
小松原哲太. 近刊. 「対照法によるレトリックの相乗効果―単純な構文構造を用いて複雑な表現効果を生み出す―」『言語科学論集』30. 京都大学大学院人間・環境学研究科.
小松原哲太. 近刊. 「人間を表す換喩にこもる負の評価―レトリックからみたインポライトネス―」山梨正明他(編)『認知言語学論考 No. 18』 東京: ひつじ書房.
Komatsubara, Tetsuta. To appear (March, 2024). Social variation in metaphors: Preferred metaphors by occupation in the COVID-19 pandemic in Japan. In Xu, Wen and Zoltán Kövecses (eds.) Metaphor and metonymy in mankind’s fighting the COVID-19 pandemic. Amsterdam: John Benjamins.
小松原哲太. 2024. 「修辞学再考」『日本語用論学会NEWSLETTER』52: 1-2. 日本語用論学会. [PDF]
小松原哲太. 2024. 「英語の直喩の典型的構文とジャンルによる選好性」『JELS』41: 168-175. 日本英語学会. [PDF]
Komatsubara, Tetsuta. 2024. Framing and metaphor in media discourse: Multi-layered metaphorical framings of the COVID-19 pandemic in newspaper articles. In Shei, Chris and James Schnell (eds.) The Routledge handbook of language and mind engineering: 274-292. London: Routledge. https://doi.org/10.4324/9781003289746-23 [PDF]
小松原哲太・朴秀娟・南佑亮. 2024. 「ことばの創造性:主観性・対話性・多様性からのアプローチ」『国際文化学研究』61: 1-33. 神戸大学大学院国際文化学研究科. [PDF]
小松原哲太. 2023. 「日常言語のなかの換喩」『国際文化学研究』60: 1-28. 神戸大学大学院国際文化学研究科. [PDF]
小松原哲太. 2023. 「比喩の構文としての直喩―英語における同等性と類似性の文法―」山梨正明他(編)『認知言語学論考 No.17』: 117-153. 東京: ひつじ書房.
Komatsubara, Tetsuta. 2023. Framing risk metaphorically: Change in metaphors of COVID-19 over time in Japanese. Ädel, Annelie, Höög and Östman, Jan-Ola (eds.) Risk Discourse and Responsibility: 63-86. Amsterdam: John Benjamins. https://doi.org/10.1075/pbns.336.03kom [PDF]
小松原哲太. 2023. 「半沢幹一編『直喩とは何か』(ひつじ書房、2023年5月刊)」『表現研究』118: 51. 表現学会. [PDF]
Komatsubara, Tetsuta. 2023. Ethos, pathos, and logos in culture: An analysis and visualization of the rhetorical structure of narrative in Japanese. Weixiao Wei and James Schnell (eds.) The Routledge handbook of descriptive rhetorical studies and world languages: 440-461. London: Routledge. https://doi.org/10.4324/9781003195276-33. [PDF]
小松原哲太. 2023. 「エトス・パトス・ロゴスが織りなす談話のレトリックの構造分析と可視化」『国際文化学研究』59: 1-34. 神戸大学大学院国際文化学研究科. [PDF]
小松原哲太. 2023. 「『現代語の助詞・助動詞』の電子化とその応用例―直喩へのアノテーションの事例―」『国立国語研究所論集』24: 45-58. 国立国語研究所. [PDF]
<研究発表>
湯浅千映子・菊地礼・松浦光・小松原哲太. 「『直喩とは何か』で直喩を考える」(担当:「Amazonレビューの直喩」)表現学会第一回オンライン例会. 2024年9月16日. [PDF]
小松原哲太・平川裕己・菊地礼・松浦光・佐藤雅也・田丸歩実. 「メタファーの修辞的効果を記述する:『日本語レトリックコーパス』の展開」 日本語用論学会メタファー研究会「メタファーとコーパス」. 京都大学吉田キャンパス. 2024年3月18日. [PDF]
小松原哲太. 「換喩が伝える評価的意味―人間を間接的に表現することの修辞的効果―」 京都言語学コロキアム. 京都大学吉田キャンパス. 2023年11月25日. [PDF]
小松原哲太. 「英語の直喩の典型的構文とジャンルによる選好性」 日本英語学会第41回大会. 東京大学駒場キャンパス. 2023年11月5日. [PDF]
Komatsubara, Tetsuta. The fictive source domain: Extending metaphorical worlds via the X as if Y construction. 16th International Cognitive Linguistics Conference. Heinrich Heine University Düsseldorf, Düsseldorf, Germany. August 9, 2023. Peer-reviewed. [PDF]
研究テーマ
研究領域とキーワード
認知言語学
認知意味論/概念メタファー理論/認知詩学
認知文法/構文文法
意味論・語用論
多義性/意味拡張/プロトタイプ理論
間接発話行為/メタ言語/婉曲語法/修辞的効果
文法論・構文論
助数詞・類別詞/アスペクト/モダリティ/ムード
修飾構造/等位構造/条件節構文/使役構文
レトリック
文体論/文彩/言葉遊び/くびき語法/転移修飾
比喩/隠喩(メタファー)/直喩(シミリ)/換喩(メトニミー)/提喩(シネクドキ)
研究テーマ
データベース構築
意味論
換喩の意味分類、言語的選好性を決める文脈要因の特定
カテゴリー化における抽象性のレベルと提喩の修辞性の関係
二重の意味をもつ言葉遊びの認知基盤
知覚的イメージを鮮明化する比喩の効果
概念メタファーの社会性
文法論
比喩の構文の典型性の調査と類型化
助動詞「ようだ」の例示機能
介在使役構文の認知意味論
数量詞の転移修飾
「AのB」から「BのA」への反転修飾
等位接続表現と随伴表現の修辞的用法
語用論
隠喩の使用状況と社会的コンテクストの相関性
修辞性へのメタ言語的言及
間接発話行為の換喩的基盤
換喩・提喩の語用論的機能
くびき語法が表現効果をもたらす条件
イメージの効果からみた文学テキストの換喩
エトス・パトス・ロゴスの修辞的効果
研究プロジェクトの概要
私の研究プロジェクトの根幹にある関心は、言語によって意味を伝え、コミュニケーションを図る効果的な方法とは何かということです。言語コミュニケーションは人間的生活に不可欠であるにもかかわらず、言葉が効果的に使用できる条件は、これまでの言語学では解明されていません。言語学の立場から、「レトリック」の言語現象を考察することを通じて、この問題に取り組むことが私の研究目的です。
レトリックと文彩
レトリック(修辞学)とは、一言で言えば、ある⼈間が別の⼈間に⾔葉によって影響を与えようとするときの⽅法の研究です。古典的な修辞学では、話の発想を得る方法、話すトピックの配列法、具体的な言語表現法、話す内容の記憶法、発表時の声や身振りの方法という5つのテーマが研究されてきましたが、近年は、多くの研究が3番目のテーマ、具体的な言語表現法をあつかっています。特に、文字通りの用法から巧みに変更を加える「文彩 (figure of speech) 」は、ほぼレトリックと同義のものとしてあつかわれることもあります。
文彩には、隠喩、直喩、換喩、押韻、皮肉、婉曲語法、誇張法などが、少なくとも100種類以上の分類があります。修辞学の辞典は(好きな人にとっては)見ているだけで楽しいもので、その専門用語の解説と具体例例の分析を見ることは分類学的な面白さがあります。私が代表となって作った『日本語レトリックコーパス』では、日本語のレトリックの用例をインターネット上で見ることができます。
認知言語学
文彩の具体例を収集し、分類をするだけでは、文彩が実際のコミュニケーションにおいてどのように役に立つのかを理解することはできません。私は言語学、特に認知言語学 (cognitive linguistics) の立場から、文彩の研究をしています。言語学の立場をとる理由は、言語学的アプローチは、古典的な修辞学のアプローチよりも、分析の精度が高く、一般化をする上での理論的基盤が強固であると私には思えたからです。
認知言語学は言葉の意味を重視する言語理論であり、言語の文法構造と意味基盤を包括的に捉える言語の研究プログラムです。認知言語学では、文彩の中心である比喩は、人間の言語能力の根幹にある認知過程であると考えられており、レトリックは、例外的現象ではなく、むしろ言語研究の中心的関心を集めるものとなっています。比喩だけでなく、あまたの文彩を言語構造との関係で横断的に研究し、ボトムアップに一般化をしていくことによって、言語におけるレトリックの役割を再考したいと考えています。
修辞学の現代的意義
アリストテレスにさかのぼる古典修辞学は、効果的な言語使用とは何かについて、体系的かつ実践的に研究するプログラムであったといえます。その知見のエッセンスは、誰が、誰に、何について話すのかによって言葉の説得力は変わる、ということであったように思われます。近年のレトリック研究は、ほとんど比喩の研究に集中していますが、具体的なコミュニケーションの文脈との関連で行う研究は多くはありません。しかし、比喩がレトリックとして適切であるか否かは、言語使用の状況的コンテクストに大きく依存します。古典修辞学のモデルの大部分は、現代の言語生活でも有用なものです。文彩の言語学的研究を、古典修辞学のモデルに結び付けて考察することで、実践的な文化社会的問題に還元可能な知見が得られると思われます。
言い換えると、これは語用論 (pragmatics) の立場から文彩を研究するということです。語用論は、コンテクストに依存した言語現象をあつかう言語学の領域で、直示、含意、発話行為、ポライトネスなどが古典的な語用論の研究トピックとされてきました。しかし、(意外なことに)多くの語用論の教科書には「レトリック」という章はありません。レトリックを語用論の立場から問い直し、話し手、聞き手、文脈、状況、社会、文化といった要素が、文彩の使用にどのように関与しているかを解明したいと考えています。