Tetsuta 

KOMATSUBARA

小松原 哲太(こまつばら てつた)[経歴

[連絡先] komatsubara.tetsuta_at_gmail.com [replace _at_ by @]

[所属] 神戸大学大学院 国際文化学研究科言語コミュニケーションコース准教授

言語には心が反映されると考える「認知言語学」の理論を背景として、コミュニケーションに用いられる効果的な言語の構造と機能について研究しています。大学院での研究指導についてはこちら


NEW

<データベース>

<受賞>

<著書・論文>

<研究発表>

研究テーマ

研究領域とキーワード


認知言語学

意味論・語用論

文法論・構文論

レトリック

研究テーマ


データベース構築

意味論

文法論

語用論

研究プロジェクトの概要


私の研究プロジェクトの根幹にある関心は、言語によって意味を伝え、コミュニケーションを図る効果的な方法とは何かということです。言語コミュニケーションは人間的生活に不可欠であるにもかかわらず、言葉が効果的に使用できる条件は、これまでの言語学では解明されていません。言語学の立場から、「レトリック」の言語現象を考察することを通じて、この問題に取り組むことが私の研究目的です。


レトリックと文彩

レトリック(修辞学)とは、一言で言えば、ある⼈間が別の⼈間に⾔葉によって影響を与えようとするときの⽅法の研究です。古典的な修辞学では、話の発想を得る方法、話すトピックの配列法、具体的な言語表現法、話す内容の記憶法、発表時の声や身振りの方法という5つのテーマが研究されてきましたが、近年は、多くの研究が3番目のテーマ、具体的な言語表現法をあつかっています。特に、文字通りの用法から巧みに変更を加える「文彩 (figure of speech) 」は、ほぼレトリックと同義のものとしてあつかわれることもあります。

文彩には、隠喩、直喩、換喩、押韻、皮肉、婉曲語法、誇張法などが、少なくとも100種類以上の分類があります。修辞学の辞典は(好きな人にとっては)見ているだけで楽しいもので、その専門用語の解説と具体例例の分析を見ることは分類学的な面白さがあります。私が代表となって作った『日本語レトリックコーパス』では、日本語のレトリックの用例をインターネット上で見ることができます。


認知言語学

文彩の具体例を収集し、分類をするだけでは、文彩が実際のコミュニケーションにおいてどのように役に立つのかを理解することはできません。私は言語学、特に認知言語学 (cognitive linguistics) の立場から、文彩の研究をしています。言語学の立場をとる理由は、言語学的アプローチは、古典的な修辞学のアプローチよりも、分析の精度が高く、一般化をする上での理論的基盤が強固であると私には思えたからです。

認知言語学は言葉の意味を重視する言語理論であり、言語の文法構造と意味基盤を包括的に捉える言語の研究プログラムです。認知言語学では、文彩の中心である比喩は、人間の言語能力の根幹にある認知過程であると考えられており、レトリックは、例外的現象ではなく、むしろ言語研究の中心的関心を集めるものとなっています。比喩だけでなく、あまたの文彩を言語構造との関係で横断的に研究し、ボトムアップに一般化をしていくことによって、言語におけるレトリックの役割を再考したいと考えています。


修辞学の現代的意義

アリストテレスにさかのぼる古典修辞学は、効果的な言語使用とは何かについて、体系的かつ実践的に研究するプログラムであったといえます。その知見のエッセンスは、誰が、誰に、何について話すのかによって言葉の説得力は変わる、ということであったように思われます。近年のレトリック研究は、ほとんど比喩の研究に集中していますが、具体的なコミュニケーションの文脈との関連で行う研究は多くはありません。しかし、比喩がレトリックとして適切であるか否かは、言語使用の状況的コンテクストに大きく依存します。古典修辞学のモデルの大部分は、現代の言語生活でも有用なものです。文彩の言語学的研究を、古典修辞学のモデルに結び付けて考察することで、実践的な文化社会的問題に還元可能な知見が得られると思われます。

言い換えると、これは語用論 (pragmatics) の立場から文彩を研究するということです。語用論は、コンテクストに依存した言語現象をあつかう言語学の領域で、直示、含意、発話行為、ポライトネスなどが古典的な語用論の研究トピックとされてきました。しかし、(意外なことに)多くの語用論の教科書には「レトリック」という章はありません。レトリックを語用論の立場から問い直し、話し手、聞き手、文脈、状況、社会、文化といった要素が、文彩の使用にどのように関与しているかを解明したいと考えています。