小松原 哲太(こまつばら てつた)[経歴]
[連絡先] komatsubara.tetsuta_at_gmail.com [replace _at_ by @]
[所属] 神戸大学大学院 国際文化学研究科言語コミュニケーションコース准教授
レトリックの観点から、コミュニケーションに用いられる効果的な言語の構造と機能について研究しています。特に、言語には心が反映されると考える認知言語学のアプローチに関心があります。大学院での研究指導についてはこちら。
研究分野 : 言語学、レトリック
主な対象言語 : 日本語、英語
レトリック・比喩研究の現在とこれから―『概説レトリック』刊行記念合評会―
日時 2025年12月13日(土)13:00〜
場所 ハイブリッド開催
対面会場:大阪大学箕面キャンパス 外国学研究講義棟 603講義室
申込 https://forms.gle/z4ZMPany9vLzirFb9
(申し込み〆切 12月10日(水))
******* プログラム詳細 *******
13:00〜13:05 開会の挨拶
木本幸憲(大阪大学)
13:05〜13:35 小松原哲太(神戸大学)
「『概説レトリック』のねらいとあらまし」
コミュニケーションで言葉が力をもつことは誰もが知っていることですが、その「力」とはいったい何であるかを理解するには、レトリックの知識が役立ちます。内容をぎゅっと圧縮して、本書のねらいをお伝えします。本書を用いたレトリックの授業デザイン、受講学生から反応、卒業研究の例など、神戸大学での経験もお話しします。
13:35〜14:05 田丸歩実(近畿大学[非常勤])
「あの人の話はなぜ心を動かすのか:エトス・パトス・ロゴスから考えるレトリックの効果」
政治家の名スピーチ、芸人のすべらない話、実演販売士の売り口上……その話術のすごさは分かってもどこがどうすごいのか、それを言語化することは難しい。小松原哲太著『概説レトリック』は、優れた言葉がなぜ優れているのかを分析し、言語化する方法を提示してくれます。その分析に役立てられているのが、古くて今なお新しい、エトス・パトス・ロゴスという観点です。本発表では、本書で示されている分析法の特徴とその具体例を概観した上で、レトリックを学ぶことが日常にどう役立つかを一緒に考えてみたいと思います。
14:15〜14:55 大森文子(大阪大学)
「『概説レトリック』を楽しもう ―実践の試み―」
レトリックは長い歴史を誇る難解な概念で、敷居が高く、とっつきにくいです、という声を時折耳にします。しかし、私たちのコミュニケーションは、私たちが意識せずとも、レトリックに満ちています。本書には、私たちが気後れせずレトリックに親しめるような見事な工夫が施されています。レトリックを楽しむために、本書をどのように読めば良いか。その手順をご紹介し、レトリックの学び方の実践例をご覧いただきたいと思います。本書を通してレトリックへの関心を高め、言葉への洞察を深める方法を探ります。
14:55〜15:10 小松原哲太(神戸大学)
「レトリック研究のこれから」
レトリックといえば比喩ですが、もとをたどれば、修辞学はそれよりもはるかに広い範囲をあつかうコミュニケーションの研究プログラムです。アリストテレスやキケロなどの古典を紹介するこれまでの修辞学の紹介とは異なり、本書は現代の文脈でレトリックを再考します。私たちが生きる時代のレトリック研究を考えます。
15:10〜15:25 質疑応答
15:40 終了予定
<データベース>
『日本語レトリックコーパス (The Corpus of Japanese Figurative Language; J-FIG) 』(2024年2月アップデート)
<受賞>
前之園記念若手優秀論文賞. 2024年7月11日. Framing risk metaphorically: Changes in metaphors of COVID-19 over time in Japanese. Ädel, Annelie and Östman, Jan-Ola (eds.) Risk Discourse and Responsibility: 63-85. Amsterdam: John Benjamins.
<著書・論文>
小松原哲太. 2025. 「比喩のフレーミング機能の実証的な対照研究:日本と英国におけるAmazonレビューのレトリック」国立国語研究所(編)『Evidence-based Linguistics Workshop 発表論文集』4: 24-33. 国立国語研究所. [PDF]
Komatsubara, Tetsuta. 2025. Social variation in metaphors: Preferred metaphors by occupation in the COVID-19 pandemic in Japan. In Xu, Wen and Zoltán Kövecses (eds.) Metaphor and metonymy in mankind’s fighting the COVID-19 pandemic: 63-82. Amsterdam: John Benjamins.
小松原哲太. 2025. 『概説レトリック:表現効果の言語科学』 東京: ひつじ書房.
小松原哲太. 2025. 「人間を表す換喩にこもる負の評価―レトリックからみたインポライトネス―」山梨正明他(編)『認知言語学論考 No. 18』: 1-25. 東京: ひつじ書房.
小松原哲太. 2024. 「対照法によるレトリックの相乗効果―単純な構文構造を用いて複雑な表現効果を生み出す―」『言語科学論集』30: 35-57. 京都大学大学院人間・環境学研究科. [PDF]
小松原哲太. 2024. 「修辞学再考」『日本語用論学会NEWSLETTER』52: 1-2. 日本語用論学会. [PDF]
小松原哲太. 2024. 「英語の直喩の典型的構文とジャンルによる選好性」『JELS』41: 168-175. 日本英語学会. [PDF]
Komatsubara, Tetsuta. 2024. Framing and metaphor in media discourse: Multi-layered metaphorical framings of the COVID-19 pandemic in newspaper articles. In Shei, Chris and James Schnell (eds.) The Routledge handbook of language and mind engineering: 274-292. London: Routledge. https://doi.org/10.4324/9781003289746-23 [PDF]
小松原哲太・朴秀娟・南佑亮. 2024. 「ことばの創造性:主観性・対話性・多様性からのアプローチ」『国際文化学研究』61: 1-33. 神戸大学大学院国際文化学研究科. [PDF]
<研究発表>
小松原哲太. 「『概説レトリック』のねらいとあらまし/レトリック研究のこれから」『概説レトリック』出版記念合評会. 大阪大学箕面キャンパス/オンライン. 2025年12月13日(予定).
小松原哲太. 「比喩のフレーミング機能の実証的な対照研究:日本と英国におけるAmazonレビューのレトリック」 Evidence-based Linguistics Workshop 2025. 国立国語研究所. 2025年9月15日. [PDF]
Komatsubara, Tetsuta. Metaphorical framings in customer reviews: Rhetorical strategies of Amazon reviews in Japan and the UK. RaAM 17: Metaphor and Technology, The Association for Researching and Applying Metaphor. Lawrence Technological University, Southfield, USA. August 11, 2025. [PDF]
小松原哲太. 「文化を映し出す提喩:比喩表現を用いた文化の言語分析のアプローチ」日本語用論学会メタファー研究会「メトニミー/シネクドキーフェスティバル」. 京都大学吉田キャンパス. 2025年3月19日. [PDF]
湯浅千映子・菊地礼・松浦光・小松原哲太. 「『直喩とは何か』で直喩を考える」(担当:「Amazonレビューの直喩」)表現学会第一回オンライン例会. 2024年9月16日. [PDF]
小松原哲太・平川裕己・菊地礼・松浦光・佐藤雅也・田丸歩実. 「メタファーの修辞的効果を記述する:『日本語レトリックコーパス』の展開」 日本語用論学会メタファー研究会「メタファーとコーパス」. 京都大学吉田キャンパス. 2024年3月18日. [PDF]
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特に、以下の領域に関わる研究をこれまで行ってきました。詳しくは「著書・論文」の項目を見て下さい。
認知意味論/概念メタファー理論/認知詩学
認知文法/構文文法
多義性/意味拡張/プロトタイプ理論
談話分析/発話行為/メタ語用論
助数詞・類別詞/アスペクト/モダリティ/ムード
修飾構造/等位構造/条件節構文/使役構文
修辞学/比喩/文体論/文彩(言葉の綾)
隠喩(メタファー)/直喩(シミリ)/換喩(メトニミー)/提喩(シネクドキ)/くびき語法/転移修飾
換喩の意味分類、言語的選好性を決める文脈要因の特定
カテゴリー化における抽象性のレベルと提喩の修辞性の関係
二重の意味をもつ言葉遊びの認知基盤
知覚的イメージを鮮明化する比喩の効果
概念メタファーの社会性
比喩の構文の典型性の調査と類型化
助動詞「ようだ」の例示機能
介在使役構文の認知意味論
数量詞の転移修飾
「AのB」から「BのA」への反転修飾
等位接続表現と随伴表現の修辞的用法
隠喩の使用状況と社会的コンテクストの相関性
修辞性へのメタ言語的言及
間接発話行為の換喩的基盤
換喩・提喩の語用論的機能
くびき語法が表現効果をもたらす条件
イメージの効果からみた文学テキストの換喩
エトス・パトス・ロゴスの修辞的効果
私の研究プロジェクトの根幹にある関心は、言語によって意味を伝え、コミュニケーションを図る効果的な方法とは何かということです。言語コミュニケーションは人間の社会生活に不可欠であるにもかかわらず、言葉が効果的に使用できる条件は、これまでの言語学では解明されていません。言語学の立場から、「レトリック」の言語現象を考察することを通じて、この問題に取り組むことが私の研究目的です。
レトリック(修辞学)とは、一言で言えば、ある⼈間が別の⼈間に⾔葉によって影響を与えようとするときの⽅法の研究です。古典的な修辞学では、話の発想を得る方法、話すトピックの配列法、具体的な言語表現法、話す内容の記憶法、発表時の声や身振りの方法という5つのテーマが研究されてきましたが、近年は、多くの研究が3番目のテーマ、具体的な言語表現法をあつかっています。特に、文字通りの用法から巧みに変更を加える「文彩 (figure of speech) 」は、ほぼレトリックと同義のものとしてあつかわれることもあります。
文彩には、隠喩、直喩、換喩、押韻、皮肉、婉曲語法、誇張法などが、少なくとも100種類以上の分類があります。修辞学の辞典は(好きな人にとっては)見ているだけで楽しいもので、その専門用語の解説と具体例例の分析を見ることは分類学的な面白さがあります。私が代表となって作った『日本語レトリックコーパス』では、日本語のレトリックの用例をインターネット上で見ることができます。
文彩の具体例を収集し、分類をするだけでは、文彩が実際のコミュニケーションにおいてどのように役に立つのかを理解することはできません。私は言語学、特に認知言語学 (cognitive linguistics) の立場から、文彩の研究をしています。言語学の立場をとる理由は、言語学的アプローチは、古典的な修辞学のアプローチよりも、分析の精度が高く、一般化をする上での理論的基盤が強固であると私には思えたからです。
認知言語学は言葉の意味を重視する言語理論であり、言語の文法構造と意味基盤を包括的に捉える言語の研究プログラムです。認知言語学では、文彩の中心である比喩は、人間の言語能力の根幹にある認知過程であると考えられており、レトリックは、例外的現象ではなく、むしろ言語研究の中心的関心を集めるものとなっています。比喩だけでなく、あまたの文彩を言語構造との関係で横断的に研究し、ボトムアップに一般化をしていくことによって、言語におけるレトリックの役割を再考したいと考えています。
アリストテレスにさかのぼる古典修辞学は、効果的な言語使用とは何かについて、体系的かつ実践的に研究するプログラムであったといえます。その知見のエッセンスは、誰が、誰に、何について話すのかによって言葉の説得力は変わる、ということであったように思われます。近年のレトリック研究は、ほとんど比喩の研究に集中していますが、具体的なコミュニケーションの文脈との関連で行う研究は多くはありません。しかし、比喩がレトリックとして適切であるか否かは、言語使用の状況的コンテクストに大きく依存します。古典修辞学のモデルの大部分は、現代の言語生活でも有用なものです。文彩の言語学的研究を、古典修辞学のモデルに結び付けて考察することで、実践的な文化社会的問題に還元可能な知見が得られると思われます。これについては『概説レトリック:表現効果の言語科学』にまとめました。
言い換えると、以上の手法は、語用論 (pragmatics) の立場から文彩を研究するということです。語用論は、コンテクストに依存した言語現象をあつかう言語学の領域で、直示、含意、発話行為、ポライトネスなどが古典的な語用論の研究トピックとされてきました。しかし、(意外なことに)多くの語用論の教科書には「レトリック」という章はありません。レトリックを語用論の立場から問い直し、話し手、聞き手、文脈、状況、社会、文化といった要素が、文彩の使用にどのように関与しているかを解明したいと考えています。