草津白根山では,山頂の湯釜火口湖,山麓の草津温泉をはじめとして各所で温泉・熱水が湧出しています.これらの起源は,高温火山ガスが凝縮することで形成された共通の熱水であると考えられます.
温泉や熱水は,山体浅部に広がる粘土層に規制されて地中を山体規模で流動しています.そのような熱水循環システムは,山体形成史を反映した地下浅部構造に規制されていると考えられます.また,地球物理学的観測事実から,白根火砕丘直下の数 100 m 程度の深さには不透水性の粘土層で覆われた熱水だまりが存在すると考えられています.水蒸気噴火は,この熱水だまりと地表面との間にクラックが形成されることで発生します.
草津白根山の一般的な解説は,産業技術総合研究所「草津白根火山地質図」や,気象庁「草津白根山」などのホームページを参照ください.
「化学」で予測された水蒸気噴火
火山環境下で形成される粘土鉱物を調べていた東京工業大学(当時)の研究者が、1960年頃から草津白根山において定期的に火山ガスを採取、分析していた。やがて、同火山の火山ガスの組成が大きく変化していることに気付いた.その変化は、マグマから放出される高温ガスの関与を疑わせるものであり、1974年11月、火山が活発化している可能性を気象庁火山噴火予知連絡会(当時)に報告した。そして1976年3月、同火山にて水蒸気噴火が発生した。この事例は、化学的手法で水蒸気噴火発生を予見した最初の例として有名である。
火山ガス組成変化の報告を受け、数台の地震計等による臨時観測が行われていた。しかし、過去の記録と比べて地震活動は活発とは言えない状態であった。水蒸気噴火は、噴火前に地震活動の活発化を伴わないことも多く、これは、マグマが地中を上昇してくるマグマ噴火とは対照的である。化学的観測の成果は、予測の難しい水蒸気噴火の危険を観測的に評価する希望を与えるものであった。
草津白根山は、その後も水蒸気噴火を繰り返したため、第3次噴火予知計画では「活動的で特に重点的に観測研究を行うべき火山」に選定された。火山ガス観測の成果を踏まえ、化学的な火山研究施設として1985年に草津白根火山観測所が東京工業大学(当時)に設置された。その後、地震、地殻変動、電磁気学などの観測設備を整備し、現在は化学と物理とを併せた多項目火山観測施設として、広い視点から火山現象解明および社会への情報提供に取り組んでいる。
東京工業大学が運用する定常観測点として,地震計は13か所,地殻変動(傾斜計,GNSS)は10か所,全磁力が5か所あります.このほか,現地へ赴いて実施する地殻変動観測を数か所,火山ガス定点採取を5か所,湯釜湖水採取を1か所,近隣の温泉水採取を数か所で実施しています.湯釜火口湖では水位と水温を連続観測しているほか,火口湖内に監視カメラを設置しています.さらに,気象庁や防災科学技術研究所の観測点も存在します.
本学の定常観測点が最初に設置されたのは1991年でした.2014年時点で地震計は6か所,地殻変動は3か所でした.2014年3月以降の白根山活発化,2018年の本白根山噴火をうけて,火山観測装置を強化しています.
過去に草津白根火山で発生した水蒸気噴火では,多くの場合,噴火に先行する異常が観測されています.現在は,白根火砕丘を取り囲むように稠密観測網が敷かれており,更に,噴気や火口湖の化学成分も定期的に測定されています.このような充実した多項目観測により,将来発生するであろう水蒸気噴火の先行過程が観測できるものと期待しています.
しかし,これまでの同火山の事例を検討すると,噴火先行現象の内容は噴火場所・規模とは関係がなく,しかも,時代とともに先行現象の内容が変化しています.たとえ噴火先行現象に類似する変化が観測されても,噴火に至らないケースも多々ありました.草津白根火山において,観測データに現れる変化から噴火前兆現象を識別することは容易ではありません.その典型的な事例が,本白根山で2018年に発生した噴火でした.
寺田暁彦(2018)水蒸気噴火発生場としての草津白根火山.地質学雑誌,124, 251-270, https://doi.org/10.5575/geosoc.2017.0060
寺田暁彦・吉本充宏(2016)火山ウォーキングガイド(分担執筆), (株)丸善,pp110-121, amazon
上木賢太・寺田暁彦(2012)草津白根火山の巡検案内書.火山,57, 235-251, https://doi.org/10.18940/kazan.57.4_235
火山地震研究部門のパンフレット
草津白根山に関する研究論文リスト(制作中)
以上