現在の宇宙に存在する銀河はその中心部にはほぼ必ず, 太陽の10万倍から100億倍もの質量を持つ超大質量ブラックホール (supermassive black hole; SMBH) を持つと考えられています。多数の銀河の観測より, SMBH の質量 (MBH) と銀河の質量 (M*) との間には強い正の相関関係 (MBH-M*関係) があることが判明しています。重たい銀河が重たいブラックホールを持つ, というのは一見すると自然なように感じられるかもしれませんが, MBH と M* の間には約1000倍もの隔たりがあります。このように, スケールのかけ離れた両者が, なぜきれいな相関関係に従っているのかは, 天文学における大きな未解決問題の一つとなっています。 この問題を解決するため, 赤方偏移 (z) の大きな遠くの宇宙, つまり過去の宇宙のブラックホールと銀河を探査することで, MBH-M* 関係がどのように作られて来たのかを調べています。
物質が SMBH に降着する際には, 降着する物質が開放する重力エネルギーをエネルギー源として, ブラックホール周囲のガスなどが様々な波長帯で明るく輝くことが知られています。このように, 銀河中心部の非常に狭い領域から, 銀河に匹敵するほどの明るさで輝く天体は, 活動銀河核 (active galactic nuclei: AGN) と呼ばれています。AGN の分光観測からMBH を、撮像観測からM∗ を推定することができます。また AGN は非常に遠方の SMBH でもMBHなどを推定することができるため, 遠方宇宙での MBH-M* 関係を探査するうえで, 非常に重要な天体です。
撮像観測から M* を求めるためには, 下図のように画像データから AGN 成分 (非常に小さな領域からの放射なので点光源とみなせる) を取り除き, 銀河の成分のみを抽出する必要があります。この解析を行う上では, 空間分解能が高く, かつ深い (ノイズが少なく暗い構造まで検出できる) 観測画像が必要となります。我々は高い空間分解能での深い撮像観測が可能な James Webb Space Telescope (JWST) を用いて z~1-3 の AGN 約100天体の解析を行い, 抽出した AGN を持つ銀河の画像から M* を求めました。先行研究で求められていた MBH と合わせて解析することで, z~3 までの宇宙では, MBH と M* の比率は現在の宇宙とほぼ同じであることを発見しました。一方で, z~1-3 では近傍の宇宙よりも MBH-M* 関係のばらつきが大きい可能性が示唆されました。今後はよりサンプル数を増やしていくことで, より強く遠方宇宙での MBH-M* 関係を制限していくことが重要です。
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銀河の合体が銀河内のガスの運動を乱すことで, SMBH への物質降着を促進し, AGN 発現に繋がる可能性が議論されています。銀河合体による AGN 発言を議論するうえで, 複数の AGN が近接する dual AGN は非常に重要な天体となっており, 近傍から遠方の宇宙まで, 幅広い赤方偏移で注目されています。
我々は, 高赤方偏移 (z=4.91) において, 多数の銀河が密集した中で, LRD に似た色を示す天体を発見しました。またこの天体は X 線でも検出されており, 確実な AGN であることがわかっています。複数の銀河が合体する中で, AGN 活動の発現が促されているのかもしれません。
また, 複雑な銀河合体を通じて銀河も一つにまとまって成長していきます。最近のLRDs のような MBH/M∗ の大きな天体が合体を通じて, 近傍で見つかるような天体へと進化している可能性があります。
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