光の運動量変化に伴う力学的作用(光圧)を利用した光ピンセットは、バイオ分野での重要なツールとして2018年にノーベル賞を受賞しました。この光ピンセットは、レーザービームの形状により光圧を制御して物体を操作するというものになり、対象となる物体は球形状のマイクロスケールの粒子に制限されていました。そこで私達は、光の受け手側であるナノ構造で光圧を制御する逆転の発想によってこれらの制限・制約を克服するナノ構造の光圧アクチュエータを世界に先駆けて提案しており、生体計測から生体機能制御への応用に新しい道を開くものとして期待されます。研究室では、右図で示すように、先端微細加工技術、光計測制御技術、電磁場シミュレーションをベースに、プラズモニック構造、メタマテリアル・メタサーフェス、フォトニック結晶等の人工ナノ構造と光との相互作用の学理を攻究することで、サイエンスとテクノロジーにインパクトを与える革新的基盤技術の創出を目指しています。これにより、バイオ応用だけでなく、光学浮上技術、それを用いた共振器オプトメカニクス、超高感度力センサ、非破壊光子検出、巨視的量子性の検証、さらには宇宙空間での超高速レーザー推進など様々な応用展開に挑戦します。私達のいる電子科学研究所に附属するナノテクノロジー研究センター には世界屈指のナノテク設備と熟練した技術スタッフが充実しており、これらをフルに活用して研究を進めます。学生さんには、記者会見で研究成果を説明したこちらの動画、ネットジャーナルの記事が参考になるかもしれません。
研究の全体像と方向性
以下が現在進行中の主な研究テーマになります。
1. 人工ナノ構造と光との相互作用の学理
・光の角運動量と光のキラリティー
Phys Rev A (2020), Nanophotonics (2021), APL Photon (2021), Phys Rev Res (2025), Nano Lett (2025).
・ナノ構造の回転対称性と線形非線形キラル光学応答
Nano Lett (2017), Nanophotonics (2021), ACS Photon (2022).
・新奇な光圧・光トルク
Nano Lett (2013), Phys Rev A (2019), Opt Express (2020).
・固体レーザー冷却の制御
2. 超高精度ナノ計測法の開拓
・空間分解光渦二色性分光イメージング
Rev. Sci. Instrum. (2024).
・ナノ構造に働く光圧・光トルクの3次元計測
3.ナノ構造光圧アクチュエータの創出とその応用展開
・新奇光駆動ナノアクチュエータ
Sci. Adv. (2020).
・自律制御型光アクチュエータ
ACS Appl. Nano Mater. (2018).
・ナノ構造光圧制御に基づく光学浮上技術