教材(基礎情報学関連)
実際の授業で用いているもの、これまでの実践論文で紹介しているものをご紹介します。
情報とは
そもそも「情報」とは何なのか。「3つの情報概念」について学びます。
*西垣通「生命と機械をつなぐ知ー基礎情報学入門」を参照。(https://ci.nii.ac.jp/ncid/BB08621261)
*「情報Ⅰ」の検定教科書(情Ⅰ703、情Ⅰ704)にも掲載。
p.2:情報の具体例をできるだけ多く出すワーク。ワードクラウド(mentimeterなど)を使うと結構盛り上がります。
p.3:タイポグリセミア現象の体験。なぜかすいすい読めてしまう。
p.4:英語ネイティブの人には楽々読めるらしい。
p.5:以上の例から情報は主観的なものであることを説明する。(他に「シルエット錯視」の例などを紹介するのもオススメ!)情報は客観的なものではないことを理解する。
p.6:ここから「3つの情報概念」について
p.7:3つのうち最も広義なのは「生命情報」。生命の内部(in)に意味を形成(form)させるものが情報。あらゆる情報は「生命情報」である。だから情報は伝わらないもの。
p.8:記号・言語と意味が一体化した生命情報を「社会情報」という。生命情報⊃社会情報。その意味内容を互いに理解し合うことで社会活動を送る(例:言語、ピクトグラムなど)。情報が伝わっている感じがするが、それはあくまで擬似的なもの。(★関連教材:『3つの情報概念とコミュニケーションのモデル』『2つのメディア』)
p.9:意味が欠落(潜在化)した社会情報を「機械情報」という。社会情報⊃機械情報。意味の潜在化により機械的な情報の複製や、計算機による高速な処理が可能。
p.10:機械情報の例:意味が分からなくてもコピーはできる。
p.11:データ量の説明。あくまで機械情報。データ量が多いからといって意味(価値)のある情報とは限らない。
p.12:まとめ:3つの情報概念の包含関係を理解する。
3つの情報概念とコミュニケーションのモデル
上で学んだ「3つの情報概念」とコミュニケーションの関係について学びます。
*西垣通「生命と機械をつなぐ知ー基礎情報学入門」を参照。(https://ci.nii.ac.jp/ncid/BB08621261)
*「情報Ⅰ」の検定教科書(情Ⅰ703、情Ⅰ704)ではコミュニケーションとの関係までは言及されていない。
*ルーマンのコミュニケーションモデルを一部援用。(厳密性にはやや欠けるがここでは理解のしやすさに重点を置く。)
p.2:コミュニケーションがうまくいっているときというのは、その集団の中でコミュニケーションが次々と生み出され続けている状態。このような自己創出のはたらきを一般に「オートポイエーシス」という。このように外部から現象を観察する視点が重要。生徒には、授業で「逆にコミュニケーションがうまくいっていないときは?」などと発問する。外部からの視点を得るためにしばしば漫才やコントの映像を見せます。(サンドウィッチマンの「ファミレスコント」が例として秀逸!)
p.3:ここから「3つの情報概念」とコミュニケーションの関係をモデル化していく。
p.4:左側の男性から右側の女性へ告白する場面を例にとる。①では男性が好意を寄せている状態。生命情報が生起する。
p.5:②ではどのように告白するかを考えている状態。言葉を選んだり、シチュエーションを選んだり、まさに「情報デザイン」の段階。受け手に理解してもらえる表現を選ぶ。
p.6:②から③へ送られる際にはいったん機械情報の段階を経ることに注意。例えば、会話の音声自体は単なる音波であり、ネットを通じてなら一旦ビット列になっている。③では、女性側に意味内容が理解できたなら社会情報が生起していることになる。意味が欠落(潜在化)してうまくコミュニケーションできないことも・・・。(かっこつけて『月が綺麗ですね』とか言っちゃうと受け手が理解してくれるかどうか・・・。)
p.7:④では女性に生命情報が生起する。果たして喜んでもらえるのか、それとも・・・。
p.8:まとめ:3つの情報概念とコミュニケーションの関係を理解する。どこかで失敗するとコミュニケーションが断絶してしまう。p.2で考察した「コミュニケーションがうまくいっていないとき」の事例をこの図で説明すると理解しやすい。外部から観察する視点が重要であることも再度おさえる。
2つのメディア
コミュニケーションを媒介する「2つのメディア」について学びます。
*西垣通「生命と機械をつなぐ知ー基礎情報学入門」を参照。(https://ci.nii.ac.jp/ncid/BB08621261)
*「情報Ⅰ」の検定教科書(情Ⅰ703、情Ⅰ704)にも掲載。
p.1:media は medium の複数形。メディアの例を思いつくままに挙げておく。
p.2:前回のコミュニケーションのモデルの図を再掲。どこかで失敗するとコミュニケーションが断然する。媒介する役割を果たすもの、すなわち「メディア」が必要である。
p.3:生命情報は直接伝えられない(テレパシーでも使わない限り)。情報とはそもそも直接伝達することはできないものであることをここでも再確認。よって、生命情報のメディアは存在しない。
p.4:まずは機械情報のメディアから。機械情報を物理的に媒介するメディアを「伝播メディア」という。一般にメディアと呼ばれているものはこの「伝播メディア」である。(p.1で列挙した例を確認するとよい。)これが1つめのメディア。
p.5:次に、2つめのメディアは社会情報のメディア。
p.6:社会情報を論理的に媒介するメディアを「成果メディア」という。やや抽象的なので、次のスライドから具体例を用いて説明していく。
p.7:自分の所属する組織を列挙してみるワーク。クラスやクラブなど、どんな小さな組織でもよいのでいっぱい挙げておくと後で盛り上がる。
p.8:そのうち1つの組織を選び、その中でしか通じない「内輪ネタ」を挙げる。生徒同士で紹介させると、当然相手はその内輪ネタが通じない。コミュニケーションがうまくいかないことをわざと体験させる。逆に内輪ネタが通じる者同士だとコミュニケーションが盛り上がる。つまり、お互いに意味が分かると論理的に理解し合える。「内輪ネタ」は成果メディアの例と言える。(p.6に戻って適宜説明)
p.9:ドイツの社会学者ニクラス・ルーマンの「機能的分化社会」論を簡単に紹介。成果メディアの例として、真理、愛などを説明(詳しくは、西垣通「生命と機械をつなぐ知」参照)。授業では、生徒に「最近、うまくいかなかったことは?」と発問し(例えば「昨日の晩御飯に嫌いなおかずが出された」など)、それは「どの成果メディアから制約を受けていた?」と続けて発問する。(この例だと、「嫌であることを考慮してもらえなかった」(愛)、「好きなおかずにするお金がなかった」(貨幣)、「宗教上の問題」(宗教)など様々な解釈ができる。)色々な例を出しながら成果メディアについての理解を深める工夫をする。ここでも前回のコミュニケーションと同様に、外部の視点が重要となることに注意。
p.10:まとめ:我々のコミュニケーションは「成果メディア」からの影響を強く受けていること。それによって我々は一人一人が現実イメージを作り出している。(決して客観的な現実を見ているわけではない。)情報→コミュニケーション→メディアの流れで整理。