研究紹介

 恒星に関する天体物理学

生物における細胞と同じように、恒星は天体の基礎的な単位です。恒星進化や構造のモデルは系外惑星や銀河をはじめとした、宇宙上の殆どの天体を研究する為に不可欠である重要なものです。しかし望遠鏡で観測できるのは恒星の表面のみである為、恒星の構造ひいては恒星の進化の詳細については未解決問題残っています私は恒星の構造や進化に関する諸現象(上図)について、理論計算と数値計算を用いて調査しています。

星震学という研究分野では、地震学と同様に恒星表面の振動を観測する事で内部構造を推定します。振動数や振幅は恒星内部の物理状態を反映して変化する為、振動データ(光度曲線)から逆に内部状態を推定する事ができます。21世紀以降になりKepler望遠鏡等の宇宙望遠鏡によって大量の振動データを得る事に成功し、星震学は恒星内部の探る有力な手段として現在研究が活発に行われるようになりました。しかし、既存の恒星理論では解釈が出来ない現象も数多く見つかっており、膨大な観測データを活かしきれていないというのが現状です。その中でも、我々は自転が速い1.2-1.8太陽質量のある恒星(かじき座ガンマ型変光星)の振動において新しく見つかった、内核と外層の振動の共鳴現象に関して理論的な考察を行い、この振動から内核と外層の境界付近の構造等が調べられる事を示しました(論文リンク)。

磁気駆動恒星風の角運動量輸送により、太陽含む主系列段階にある太陽型星の自転速度は時間と共に遅くなる事磁気制動)が分かっており、恒星の自転進化は理論モデルと数値計算によって活発に研究されています。既存の剛体回転を仮定した理論モデルでも観測で示された自転進化の性質をおおよそ説明できる一方でいくつかの問題点も残っているのが現状です。一方で、既存の理論モデルにおける剛体回転という仮定は必ずしも正当でない事が観測と理論双方から示唆されているため、当研究では差動回転を加味した太陽程度の質量の恒星の自転進化について簡単なモデルを考案し、その性質を考察しました。その結果、差動回転の効果を考えることで観測で説明されていなかった観測事実を自然に解決できる事を指摘しました(論文リンク)。

力学系で記述される諸現象の調査

多くの運動は非線形系微分方程式により記述され、非線形力学系と呼ばれるシステムを構築しています。これらは解析的に解くことは一般に出来ませんが、理論計算と数値計算により運動に関する特徴を調べることが出来ます。私は惑星の軌道進化・自己駆動粒子の集団運動に関する非線形系に関して実装・計算・考察を行っています。

潮汐相互作用は惑星の軌道進化において重要な役割を果たしていると考えられています。しかし、潮汐相互作用の具体的な機構と効率は明らかになっていないというのが現状です。検証を難問としている理由としては (1) 可能性として考えられる非線形機構が数多くある事; (2) 観測において年齢の推定が難しい事という2つが挙げられます。この問題点を踏まえ、筆者は小質量星とその近傍を周回しているガス惑星という系の角運動量進化に対して、力学系という数学分野を応用することで潮汐相互作用の効率の上限を決める新しい手法を提案しました。この手法は理論的な仮定が最小限でありかつ年齢の情報を使用しないため上記の問題点の影響を受けず、観測量だけから定量的に潮汐相互作用の効率を検証することが可能です。

アジアの古典籍

古典籍の記述の中には、過去の言語的・社会的・科学的情報が含まれています。これらを検証することは人文学・理学両方にとってデータとしての価値を高めます。しかし、アジアの古典籍は言語的困難から検証がまだ進んでいないのが現状です。私は東アジアや南アジアに関する文献の記述に関して、計量的に検証をしています。

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