Research

昆虫は地球上の生物種の半数以上を占めるほど繁栄しており、多様な環境に適応して逞しく生きています。その繁栄を支えるのが、体を覆う殻・皮=クチクラの多彩な性質です。例えば甲虫は硬いクチクラで身を守り、タマムシは鮮やかな「玉虫色」のクチクラによって捕食者の目を惑わせます。これらの多彩な性質は、クチクラの緻密な3D構造によるもので。例えば硬いクチクラにはキチン(セルロースに似た糖ポリマー)の繊維が互い違いに重なった合板構造があり、タマムシのクチクラでは多層膜構造が光の干渉を起こします。こういった3D構造の観察は古くから進められ、最近ではそれらを人工的な材料で再現する試みが盛んに行われています。 しかし、そもそも昆虫たちがどうやってクチクラの緻密な3D構造をつくりだしているのか?という生物学的な問いは置き去りにされています。私たちは、クチクラに含まれる多様なタンパク質(クチクラタンパク質)がみずから3D構造をつくりだすことを見つけました。この、クチクラタンパク質がもつ特殊能力に焦点を当てて、以下のように研究を進めています。

ショウジョウバエ幼虫クチクラの構造形成機構

ショウジョウバエは古くから遺伝学実験に用いられてきた昆虫です。その幼虫の体を覆うクチクラは無色透明であるため、クチクラの中のタンパク質や糖を蛍光標識して外から観察すると、クチクラの3D構造や、その中での分子の分布を、立体的にとらえることができます。私たちのこれまでの研究から、いくつかのクチクラタンパク質がこのクチクラの中でお互いに、あるいはキチンと、相互作用しながらダイナミックに動いて3D構造をつくりだす様子が分かってきました。その機構の詳細について分子レベルのイメージングと変異導入を組み合わせた解析を進めています。

多様な昆虫のクチクラの構造形成機構

昆虫はそれぞれ百~数百のクチクラタンパク質を持っており、その数配列には大きな種間バリエーションがあります。これが、クチクラの多彩な性質をつくりだす原動力だと思われるわけですが、一つ一つのクチクラタンパク質がクチクラのどのような3D構造・性質に寄与するのか、ほとんど分かっていません。私たちは、これまで培ってきた解析手法と、ゲノム編集技術を組み合わせることによって、多様な昆虫クチクラの多彩な3D構造をつくりだす分子機構の解明を目指しています

クチクラの再構成

昆虫生体のクチクラには一か所あたり数十のクチクラタンパク質が含まれるとされます。その中でタンパク質一つずつの働きを区別して理解しようとしても限界がありそうです。この壁を突破するために再構成系の構築を目指しています