グラフ理論
グラフは,頂点と,頂点同士を接続する辺から構成される離散図形であり,多く事象は,グラフを用いた数理モデルで表されます.上図のような結晶格子や電気回路も応用例の1つです.更に,SNSや交通網などもグラフで表すことのできる事象です.
1つの文章内に現れる単語同士を辺で結ぶことで,得られるネットワークを共起ネットワークと呼びます(図2).共起ネットワークを分析することで,その文章が何を言おうとしているのか,重要と思われる単語は何かが分かるため,重要な数理モデルの1つとして考えられています.
また,時間変化する事象を可視化するための方法の1つとして多層ネットワークを用いた数理モデルを作成することもあります.例えば,企業間の取引を表す取引ネットワークを考えてみます.その際,2000年の取引関係と2020年の取引関係が異なることが度々あります.そこで,多層ネットワークを用いた数理モデルを作成すると,時間変化も考慮した取引ネットワークを得ることができます(図3).
こうしたグラフに対して,全体の構造を把握して,中心的な役割を果たす点や脆弱な箇所を効率よく発見することは重要な課題の1つです.しかし,昨今,事象が複雑化していることから,数理モデルも複雑なものを考える必要があります.
例えば,あるネットワーク上で重要度の高い辺はどこか見つけるという問題を考えてみます.
図4のような単純な構造を持つネットワークであれば,辺(v0,v1)を取り除くとグラフが分解されてしまうことから,重要度の高い辺は(v0,v1)だとすぐに分かると思います.
しかし,複雑な構造を持つネットワークの場合,すぐに分からないことが一般的です.そこで,当研究室で扱っている離散曲率を用いた分析手法を適用すると,各辺の重要度が数値化され,赤く色づけられた辺が重要度の高い辺であるということが分かります.
更に,動的なネットワークに対して,離散曲率を計算することで,不変的な重要度の高い辺を見つけることができるため,より正確な分析結果を導出できます.
例えば,右図のようなシミュレーションを見てみます.このシミュレーションは,時間変化に伴い,グラフ構造が変わるようなネットワークに対して,離散曲率を計算しています.離散曲率の値が低い辺を青い色,高い辺を赤い色で色分けているのですが,一時的に赤くなる辺と,常に赤い辺があることに気づくと思います.常に赤い辺は,時間が経過しても重要度が変わらず高いことを意味するため,非常に重要な辺という結論が得られます.
当研究室では,複雑なグラフに対する最適な分析手法を開発することで,実社会における様々な問題の解決策を研究しています.
グラフ理論を用いた数理モデルの例:
・ソーシャルネットワーク(SNS等)
・交通網
・サプライチェーン
・バリューチェーン
・金融ネットワーク
ゲーム理論
「ゲーム」という単語から連想されるものは,オセロや将棋,サッカーといったものだと思いますが,ゲーム理論におけるゲームとは,「自分の行動が他者に影響を与え,他者の行動が自分に影響を与えるような状況」のことを言います.そのため,自分の選択に応じて相手の選択が変化するオセロや将棋はもちろんゲームの1種ですし,市場取引やオークションといった実社会の事象もゲームの1種となります.
このようなゲームに対して,他者のあらゆる選択を考慮した上で,自分の最善手を研究するのがゲーム理論です.
ゲーム理論における重要な研究テーマの1つに,「得られた利益の最適な分配方法の開発」が挙げられます.これは,複数人で得られた利益をどのように個々に配分するのか最適かという問題です.一番単純な配分方法として,平等に得られた利益を人数で割るという方法がありますが,これは,1人が非常に得をしたり,損をしたりすることがあるため,最適とは言えません.
具体的な問題で考えてみます.例えば,Aさんは自宅まで30ドル,Bさんは自宅まで50ドルかかる状況で,2人はタクシーを相乗りしたとします.この時,2人は幾らずつ支払うのが最適でしょうか.単純な割り勘だと,Aさんは25ドル支払うことになり,1人でタクシーを乗った場合とあまり変わらない支払い金額になってしまいます.
そこで,協力ゲーム理論における重要な概念の1つであるシャープレイ値を計算することで,Aさんは15ドル,Bさんは35ドル支払うことが最も公平かつ合理的であると分かります.
当研究室では,ゲーム理論で用いられる手法に応用数学の要素を加えることで,より実践的なゲームに対して,最善手を与えるアルゴリズムを開発しています.
ゲーム理論を用いた数理モデルの例:
・ボードゲーム
・投票
・市場取引
・サブスクリプション
・機械学習
折紙数学
子供の時に1度は遊んだことがある折り紙を数学的に考察する学問を折り紙数学と言います.折り紙は山折を赤線,谷折を青線として展開図で表します.折紙数学において重要な研究の1つとして,折り紙の幾何学的性質を解明することが挙げられます.
例えば,上図のような展開図になるように折れ線をつけてみてください.そうすると,いずれの展開図も折り畳めることがわかります.では,それぞれの中心点から伸びている山折の数と谷折の数の差はいくつになっているでしょうか.いずれの展開図も差が2になっていることがわかります.これは前川定理と呼ばれる折紙数学における基本定理の1つです.
また,折紙数学の性質を使うと,角の2等分線もコンパスや定規を使わずに作図できます.
例えば,上図において,∠CAB を2等分する線を作図したい場合,点Bを辺ACに重なるように折ったときの折れ線ADが角の2等分線になっています.
当研究室では,折り紙の展開図がグラフ構造になっていることに注目し,折り紙の離散幾何学的性質を解明し,材料工学や教育・教材への応用を目指しています.
折紙数学を用いた数理モデルの例:
・建造物
・化学結晶