発表論文

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最近の論文(2019年以降)

プレプリント番号:arXiv:2307.13109

タイトル:Extra-tensor-induced origin for the PTA signal: No primordial black hole production

著者名:Mohammad Ali Gorji, Misao Sasaki, Teruaki Suyama

一言コメント:ナノヘルツ帯での背景重力波がついに見つかったというとんでもないニュースが6月末に飛び込んできました。この背景重力波の起源は分かっておらず、もしかすると宇宙の極初期に作られた重力波の名残かもしれません。この論文では、一つの可能性として、重力波とは別のスピン2を持つ場がインフレーションによって励起され、その後、重力波に転換したというシナリオを考え、それが背景重力波の観測結果を説明できることを示しました。Mohammadが中心になって、二週間ほどで一気に書き上げた論文です。

プレプリント番号:arXiv:2304.08153

タイトル:Supermassive primordial black holes: a view from clustering of quasars at z \sim 6

著者名:Takumi Shinohara, Wanqiu He, Yoshiki Matsuoka, Tohru Nagao, Teruaki Suyama, Tomo Takahashi

一言コメント:以前の論文(PRD 104, 023526, (2021))において、宇宙高赤方偏移で観測されている超巨大ブラックホール(=クェーサー)の起源を説明する一つのシナリオである原始ブラックホール(PBH)説において、PBHの2点相関関数を理論計算し、相関がかなり大きくなることを示しました。したがって、2点相関関数の観測からPBH説を検証することが次にやるべきことになります。この論文では、主にすばる望遠鏡によって観測されているクェーサーのデータから角度相関関数を抽出し、PBHシナリオが予言する角度相関関数と比較しました。そして、PBHシナリオに含まれるパラメター領域の大部分が棄却されることが分かりました。佐賀大学の篠原君(博士課程)が中心となって取り組んでくれました。

プレプリント番号:arXiv:2304.08220

タイトル:Probing the solar interior with lensed gravitational waves from known pulsars

著者名:Ryuichi Takahashi, Soichiro Morisaki, Teruaki Suyama

一言コメント:黄道付近にあるパルサーは一年に一回太陽の背後を通過します。したがって、パルサーから放射される連続重力波(まだ見つかってません)を観測し続けると、太陽の背後を通過したときだけ太陽の重力レンズ効果によって、少し歪んだ波形が観測されます。論文では、この効果を用いることで太陽内部の密度分布をどの程度調べることができるかを調べました。今後、シグナルノイズ比が10000以上で連続重力波が観測できれば、ある程度密度分布の情報が得られることが分かりました。そのような時代が到来すると、何らかの理由で曇りがずっと続いて地上から太陽が全く見えなくなったとしても、重力波で太陽を観測することができるようになります。

プレプリント番号:arXiv:2303.13088

タイトル:Upper limit on scalar field dark matter from LIGO-Virgo third observation run

著者名:Koki Fukusumi, Soichiro Morisaki, Teruaki Suyama

一言コメント:以前、ダークマターが仮に標準模型の粒子とわずかに相互作用する非常に軽い粒子である場合、重力波レーザー干渉計で検出できることが可能であるという論文を書きました(S.Morisaki, T.Suyama, PRD100, 123512, (2019))。このアイデアを、LIGO実データを用いて探索し、ダークマターの制限を得たというのがこの論文の結果です。より具体的には、ダークマターと標準模型粒子との相互作用として5つの場合(グルーオンと結合、クォークと結合、電子と結合、光子と結合、重力との非最小結合)を考え、それぞれの場合において相互作用の強さの上限を導きました。最初の4つの場合については今回の制限は等価原理の検証実験による制限には及ばないことが分かり、最後の場合についても、今回の制限は第五の力の探索実験による制限には及ばないものの、その差は5倍以内であることが分かりました。今後のレーザー干渉計の感度向上に伴い、いずれ今回の方法が第五の力の実験を上回り、最も有効となることが実証できたのも一つの結果です。指導学生である福角君(修士)を含む共同研究です。

プレプリント番号:arXiv:2303.05650

タイトル:Kramers-Kronig relation in gravitational lensing

著者名:So Tanaka, Teruaki Suyama

一言コメント:物質の屈折率と吸収率の間には、Kramers-Kronig関係式として知られる関係式が成り立つことが知られています。そして、この関係式は、物理の根本法則である因果律に起因するため、どんな物質に対しても普遍的に成り立つことも知られています。この論文では、波動光学の枠組みで重力レンズ現象を考え、光源から出て重力レンズの影響を受けた波は、幾何光学極限での波より早く観測者に到来することはないという意味での因果律が成立することに着目し、重力レンズ効果を表す物理量である増光因子が常にKramers-Kronig関係式を満たすことを示しました。増光因子は重力レンズにおけるもっとも基本的な物理量として古くから知られていますが、それがKramers-Kronig関係式のような非常にシンプルで普遍的な関係式を満たすことがこれまで知られていなかったというのは驚きでした。論文では、さらにこの関係式から重力レンズにおける和則を導いたり、重力波の重力レンズ信号の検出への応用についても議論しました。指導学生である田中君(修士)との共同研究であり、田中君がほとんどすべての結果を導いてくれました。

プレプリント番号:arXiv:2211.16955

タイトル:Physical effects of gravitational waves: pedagogical examples

著者名:Hayato Motohashi, Teruaki Suyama

一言コメント:現実的な重力波は非常に微弱であり、日常生活では全く感じることがありません。また、一般相対論は物理学科においてさえも必修科目ではないことが一般的です。そのため、重力波という単語は知っていても、それが具体的にどういう働きをするのかということまで理解している理系の学部生は、限られてしまっています。重力波を研究する者としては、残念な状況です。そこで、重力波はニュートン力学おける潮汐力として理解できることを踏まえて、具体例を挙げて、ニュートン力学の範囲で重力波の働きを説明した論文を書きました。この論文は、大学レベルの物理教育を対象とした学術誌であるEuropean Journal of Physicsでも、オープンアクセスとして誰でも読めます(H.Motohashi, TS, “Physical effects of gravitational waves: pedagogical examples”, Eur.J.Phys. 44, 015601 (2023))。初の物理教育の論文です。この論文が、少しでも学部レベルの学生が重力波を理解することに役立つことを期待しています。 

プレプリント番号:arXiv:2211.07874

タイトル:On the sound velocity bound in neutron stars

著者名:Shrijan Roy, Teruaki Suyama

一言コメント:飽和密度を超えるような極めて高密度状態における核物質の性質(特に状態方程式)はまだ分かっていません。一方、中性子星は非常に高密度の天体であり、内部では飽和密度を超える核物質で満ちていると考えられています。したがって、中性子星を調べることで、核物質の状態方程式に迫ることが可能となります。この論文では、核物質の音速(の2乗)がどの密度でも光速(の2乗)の3分の1以下であるような状態方程式は、最近見つかっている太陽質量の2倍を超える重い中性子星の存在を説明できないことを明らかにしました。この結果は、超高密度領域では核物質の圧力が非常に大きくなることを示しています。この研究はインド工科大学デリー校の学生(学部4年生!)との共同研究です。この学生とは対面では一回も会ったことがなく、オンラインだけで研究が完結した最初の例です。

プレプリント番号:arXiv:2210.15213

タイトル:Superluminal propagation from IR physics

著者名:Asuka Ito, Teruaki Suyama

一言コメント:波の伝搬速度について調べた論文です(宇宙グループのポスドクだった伊藤君との共同研究)。情報が伝わる速さである伝搬速度は、短波長極限における位相速度と一般に一致すると、一部の人々にはどうやら思われているようなのですが、必ずしもこの考えが正しくないことを幾つかの具体的な分散関係に対して伝搬速度を計算することで示しました。

プレプリント番号:arXiv:2210.02062

タイトル:Weak lensing of gravitational waves in wave optics: Beyond the Born approximation

著者名:Morifumi Mizuno, Teruaki Suyama

一言コメント:重力波の重力レンズにおいてボルン近似の妥当性を調べました。重力レンズの影響が小さくても、式の見た目では重力波の周波数が大きくなるとボルン近似が破綻するというパラドクスのようなことが起こることが知られており、この問題を解決したいというのがそもそもの動機です。指導学生の水野君(なんと学部4年生!)が頑張ってくれ、肯定的に問題を解決できました。レンズシグナルの分散に加えて平均も有効な観測量として使えることが分かったことも大きな収穫です。学部生との初共著論文です。

プレプリント番号:arXiv:2201.10258

タイトル:Testing time evolution of the mass distribution of the black hole mergers

著者名:So Okano, Teruaki Suyama

一言コメント:重力波観測によって、宇宙にはブラックホール連星がたくさん存在し頻繁に合体していることが明らかになりました。しかし、そのようなブラックホール連星がいつどこでどうやってできたのかは幾つかシナリオはあるもののどれが正しいのかよく分かっていません。この論文では、合体イベントの質量分布の時間変化がシナリオを特定するカギとなりえることに着目し、観測で得られた有限個の合体イベントから質量分布が時間変化するのかどうかを判定する方法論を提唱しました。現在はまだ今回の方法が使えるほど合体イベントは見つかっていませんが、今後イベントの数が増えると役立つと期待してます。

プレプリント番号:arXiv:2107.02443

タイトル:Universal relation between the variances of distortions of gravitational waves owing to gravitational lensing

著者名:Makoto Inamori, Teruaki Suyama

一言コメント:光と同様に重力波も重力レンズを受けます。重力レンズの重力波波形への効果は、振幅と位相の変動で表すことができます。重力源がランダムな密度揺らぎの場合、これによって生じる振幅と位相の変動の分散の間に、弱い重力レンズの範囲では、揺らぎのパワースペクトルの形に依存しない普遍的な関係式が成り立つことを示しました。関係式は驚くほど簡潔ですが、なぜこのような式が成り立つのかの直感的な説明はまだ分かりません。将来重力波の重力レンズ観測データが得られたときに、それが密度揺らぎによって生じているかどうかをこの関係式を使って判定できるようになると期待されます。この研究は、指導学生の稲盛君(修士2年)との共同研究であり、東工大生との初の共著論文を書けたことは感慨深いです。

プレプリント番号:arXiv:2104.02445

タイトル:Gravitational Wave Physics and Astronomy in the nascent era 

著者名:Makoto Arimoto et al.

一言コメント:重力波の初直接検出がなされ、重力波天文学の黄金時代が到来しつつあります。この論文は、50人を超える重力波コミュニティーのメンバーによって執筆された様々な宇宙物理分野における現状と今後重力波天文によって期待される成果等をまとめた総合報告です。私も一部執筆させていただきました。私の論文共著者が一気に増えました。

プレプリント番号:arXiv:2103.13692

タイトル:Angular correlation as a novel probe of supermassive primordial black holes

著者名:Takumi Shinohara, Teruaki Suyama, Tomo Takahashi

一言コメント:宇宙誕生後10億年も経っていない時期に、すでに太陽の10億倍以上も重い超巨大ブラックホールが存在することが知られています。しかし、どうやってそのような巨大ブラックホールが作られたのかはいくつか説はあるもののまだよく分かっていません。この論文では従来知られている説の一つである原始ブラックホール説では、巨大ブラックホールがクラスター状にできることを指摘し、2点相関関数を理論計算しました。この研究は佐賀大学の修士2年の学生が主体となって取り組んでくれました。今後、今回導いた結果と観測データを比較して、原始ブラックホール説の検証をする予定です。

プレプリント番号:arXiv:2102.05280

タイトル:Reconstruction of Primordial Power Spectrum of curvature perturbation from the merger rate of Primordial Black Hole Binaries

著者名:Rampei Kimura, Teruaki Suyama, Masahide Yamaguchi, Yingli Zhang

一言コメント:以前、宇宙グループに在籍していた博士研究員が主体となって取り組んだプロジェクトです。何とか論文発表までこぎつけました。

プレプリント番号:arXiv:2101.10682

タイトル:Revisiting non-Gaussianity in non-attractor inflation models in the light of the cosmological soft theorem

著者名:Teruaki Suyama, Yuichiro Tada, Masahide Yamaguchi

一言コメント:あるクラスの単一場インフレーションモデルにおいて、比較的大きな非ガウス性を持つ原始揺らぎができるという先行研究とそれと正反対の主張をする先行研究がありました。この論文では、この違いがどこから来るかを考察し、後者の先行研究において見過ごされていた効果を見出し、矛盾を解消する改良された公式を導出しました。

プレプリント番号:arXiv:2009.05514

タイトル:Search for the stochastic gravitational-wave background induced by primordial curvature perturbations in LIGO's second observing run

著者名:Shasvath Kapadia, Kanhaiya Pandey, Teruaki Suyama, Shivaraj Kandhasamy, Parameswaran Ajith

一言コメント:重力波観測の実データを使って、極小スケールの原始密度揺らぎの大きさに制限を与えました。これまで原始ブラックホールの議論に基づく制限がありましたが、それとは全く独立な方法に基づく新しい制限です。ついに重力波天文が初期宇宙の検証にも使える段階に入ってきたことを示す一つの結果だと思っています。

プレプリント番号:arXiv:2008.13364

タイトル:Local observer effect on the cosmological soft theorem

著者名:Teruaki Suyama, Yuichiro Tada, Masahide Yamaguchi

一言コメント:原始曲率揺らぎの相関関数には、ある種の長波長極限において普遍的な関係式が成り立つことが知られています。一方、長波長成分は局所的には空間座標のリスケーリングとしてしか作用せず、実際の宇宙観測ではこのリスケーリング効果を考慮する必要があります。論文では、リスケーリング効果によっても上記の関係式の形は修正されないことを示しました。

プレプリント番号:arXiv:2005.05693

タイトル:Prospects for probing ultralight primordial black holes using the stochastic gravitational-wave background induced by primordial curvature perturbations

著者名:Shasvath Kapadia, Kanhaiya Pandey, Teruaki Suyama, Parameswaran Ajith

一言コメント:非常に軽いブラックホールが初期宇宙に形成した可能性を今後の重力波観測から検証できることを示しました。LIGOメンバーとの初のコラボレーションです。

プレプリント番号:arXiv:2003.11748

タイトル:On arrival time difference between lensed gravitational waves and light

著者名:Teruaki Suyama

一言コメント:天体による重力レンズを受けると、重力波は光よりも早く観測者に到来しうるという先行研究の主張が以前から気になっていました。コロナウイルスにより時間ができたので、先行研究を検討した結果、重力波は光よりも早くは到来し得ないということが示せました。久々の単著論文です。

プレプリント番号:arXiv:2001.02483

タイトル: Quantum Ostrogradsky theorem

著者名:Hayato Motohashi, Teruaki Suyama

一言コメント:高階微分を含む系のハミルトニアンは古典レベルで最小値を持たないというオストログラドスキーの定理を量子論のレベルまで拡張した論文です。簡潔な証明であり、個人的に気に入ってます。

プレプリント番号:arXiv:1912.04687

タイトル:A novel formulation of the PBH mass function

著者名:Teruaki Suyama, Shuichiro Yokoyama

一言コメント:再度、アラフォーのおっさん2人で書いた論文です。原始ブラックホールの質量関数を求める以前の手法に根本的な問題点があることが、前から気になっており、新しい定式化を提案した論文です。投稿直後に同様の論文が他のグループから出され、焦りました。論文を早目に出して正解でした。

プレプリント番号:arXiv:1906.10987

タイトル:Formation threshold of rotating primordial black holes

著者名:He Minxi, Teruaki Suyama

一言コメント:原始ブラックホール形成に必要な揺らぎの閾値を角運動量の関数として求めました。原始ブラックホールはそこまで早い回転はしないようだということが分かりました。この論文は、Minxi君(東京大学博士課程学生)が頑張ってくれました。

プレプリント番号:arXiv:1906.04958

タイトル: Clustering of primordial black holes with non-Gaussian initial fluctuations

著者名:Teruaki Suyama, Shuichiro Yokoyama

一言コメント:アラフォーのおっさん2人で書いた論文です。原始ブラックホールの素となる原始密度揺らぎの統計分布が非ガウス的である場合、原始ブラックホールはクラスター的に空間分布することは知られていましたが、このことをもう少し明確に論じました。

プレプリント番号:arXiv:1903.03544

タイトル: Large mass hierarchy from a small nonminimal coupling

著者名:Christophe Ringeval, Teruaki Suyama, Masahide Yamaguchi

一言コメント:プランクエネルギーが他のエネルギースケールに比べて、十何桁も大きいことが知られています。これをインフレーション中のダイナミクスで実現し、且つダークエネルギーも説明する一つのモデルを提唱しました。本当ならノーベル賞?