「Design for Circularity Workshop(循環のためのデザインワークショップ)」は、循環型経済とサーキュラー・デザインに触れる4日間のワークショップです。初日にレクチャー形式で循環型経済とサーキュラーデザインの基本を学び、残り三日間でサーキュラー・デザインの手法の1つに焦点を当てた実践的なデザイン課題に取り組みます。
主催:Studio A-lot-of-things (Emma Huffman & Danika van Kaathoven)
協賛:株式会社カラーループ.
内容
はじめに - ワークショップの目的
デザイン課題
株式会社カラーループとの連携
ワークショップの構成と演習
データ収集と振り返り
本ワークショップの可能性
まとめ
展望
循環型経済のホリスティックな視点は、未来志向であり、デザイナー、そして、デザイン学生に循環型システムにおいて活動する方法の教育を含むと考えています。
私たちは、サーキュラーデザインに関する教育的かつ参加型なリサーチの手法として、ワークショップを選びました。コラボレーション、即興、遊びが誘発され、理論と実践の融合に適したプラットフォームとして、持続可能な活動をしたい学生やデザイナーの学びの場であると同時に、サーキュラリティの可能性についての洞察を得られる機会だと考えます。
そこで、2022年3月17-20日、私たちStudio A-lot-of-thingsは、京都工芸繊維大学(KIT)で学部生5名(デザイン専攻)を対象に、サーキュラー・デザイン思考を学び、実践する「Design for Circularity Workshop」を実施しました。また、2022年5月、本ワークショップのアップデート版であるWorkshop 2.0を開催し、KITの学部生と大学院生(デザイン専攻)が参加しました。
WS1.0、2.0はサーキュラー・デザイン戦略のうち、特に「Designing for Disassembly(分解のためのデザイン、以下DfD)」に焦点を当てたプログラムとなっています。
ワークショップでは資源のループを閉じる(Closing the Loop)ためのデザインコンセプトとデザインプラクティスに取り組みます。具体的にはデザイン戦略「分解のためのデザイン」と資源回収を軸としたビジネスモデルを組み合わせることで、使用後の段階で発生しがちなギャップを解消することを目指します。
私たちは活動の中で循環型経済のためのデザインに取り組む中で、その複雑さに何度も心が折れそうになりました。初学者の多くが同様にサーキュラーデザインに対してハードルを感じると思います。そこで、本ワークショップは、サーキュラーデザインを実践しようとする人々に向けた、循環型経済とサーキュラーデザインの入門として設計することを試みました。ワークショップは循環型経済の全体像を俯瞰するレクチャーから始めます。そして、デザインプラクティスでは、サーキュラーデザインについて考え、取り組むきっかけとして、サーキュラーデザイン戦略の一つである「分解のためのデザイン」と回収に焦点を当てたデザイン・シナリオを設定しています。
ワークショップのルール
"Create your own Design for Disassembly for a one-day home"
一日限りのマイルームのための分解可能なデザイン (Design for Disassembly)
ルール:
分解可能であり、分解後はA4サイズの封筒に収まること。
「循環のためのデザイン」であればデザイン対象は製品、サービス、またはその間にあるものなど、自由である。
デザイン課題は、参加者に循環型社会について考えることをシナリオ中の2つの設定で「分解のためのデザイン」という戦略を通じて促すことを意図しています。
タイムリミット:プロダクトとの「節目」を想像する
フラットパックシステム:直線的な「使い捨て」に代わるの循環型シナリオ想像を促す
参加者が取り組むシナリオを「一時的な空間のための『解体するためのデザイン』」としています。参加者には「1日限りのマイルーム」として、6畳の空っぽの部屋を用意しました。部屋の用途の設定や、部屋のために何を作るかは自由です。ただ、「分解してフラットパックに収まること」という条件があります。これは、リサイクル業者に送って資源をリサイクルや再利用する、小さく梱包できるので引っ越しの度に廃棄しない、といった循環型シナリオの想像と、それに合わせたデザインを促すためです。
◄ サーキュラー・システム内の様々なタッチポイントの図解。ワークショップの流れ(緑)は、タッチポイント(青)に沿っています。
参加者に「使用後」のデザインを考えるきっかけとなるように、 “Design for Desassembly”とリサイクルのための容易な返却と回収を促す「フラットパック・サービス」を中心とした架空の引取サービスを結びつけた循環型モデルを提案しました。
具体的に、デザイン・シナリオには「フラットパック」という小道具が登場します。このフラットパックは、日本郵便が実際に提供するサービスに含まれるレターパックのサイズになっています。レターパックはA4サイズで4kgまでの荷物を日本全国一律料金で送ることができるサービスです。日本ではよく知られるサービスなので、参加学生がサーキュラーデザインを考える上でのとっかかりとして、またワークショップの成果物を見る一般の方にとって、現実的で親しみを感じられる要素としてシナリオに導入しました。
参加者の創造性を育むため、デザインプロセスには制約を設けていません。素材はcolourloopが提供する素材の使用のみ制約として設けています。そのほかの素材は主催者側で準備した木材や紙、布などに加えて参加者自身が持ち込むことも可能でした。本ワークショップで提供した素材は主催者が収集して保管していたもので、新たに購入したものはありません。
本ワークショップの主たる素材は、故繊維アップサイクルを専門とする日本のベンチャー企業、株式会社カラーループ(以下、colourloop)が提供してくださいました。
日本では、衣料品の廃棄量は年間約140万トンにのぼります。しかし、リサイクル率は低く、ほとんどが埋立や焼却されています。なぜなら、紡績、織物、編物などの工程でさまざまな素材が混ざってしまうために、素材によるリサイクルが困難だからです。そこでcolourloopは、廃棄される繊維別ではなく色で選別し、新たな魅力ある素材に生まれ変わらせる「カラーリサイクルシステム」を開発されました。
故繊維をカラフルなオレフィンシート「廃繊維強化プラスチックシート」(Waste Fiber Reinfor循環型経済d Plastic Sheet以下、WFRPシート)に再生する新システムにより、故繊維からの製造される従来のリサイクル素材の限られた使用先にとどまらない幅広い用途への展開が求められています。
私たちは2021年にKYOTO Design Lab(D-lab)、colourloop、そして、ものやと行った共同研究プロジェクト「Fabric Re-engineered as Products」においてcolourloopと出会いました。このプロジェクトを終えた時にダンボール3箱分の廃材が残ってしまったことが本ワークショップを考えるきっかけとなりました。リサイクル可能なcolourloopのシート素材に「回収サービス」という新たな要素を合わせる、という循環型ビジネスモデルを思索しました。
colourloopは循環のために故繊維を新たな価値ある素材に生まれ変わらせる方法を開発していますが、未だ自社製品や素材を回収し、再度素材としてリサイクルするための完全な循環型のビジネスモデルは構築できていません。そこで、本ワークショップは新たなサービスのコンセプトを探索する機会となると考えます。
つまり、本ワークショップにおけるcolourloopとのコラボレーションは参加者、そして、colourloop社の双方にメリットがあると考えています。参加学生には実践的にサーキュラー・デザインに取り組む企業を知る機会となり、colourloopには新たなコラボレーションやビジネスチャンスに繋がる関係性作りの場となるからです。
循環型デザインについて学び、議論するための積極的な学びの場として、4日間のワークショップを企画しました。包括的な教育ツールのプロトタイプとして、循環型デザインの理論の紹介と、マテリアル・リサーチ、プロトタイピングのためのセッションを含むプログラムを開発しました。各日の詳細な活動内容や実際の様子は、ワークショップの日報(Daily Reports)にてご覧いただけます。
4.1 Content of Workshops
以下4.1では、ワークショップ1.0とアップデートされたワークショップ2.0の流れや活動内容を紹介しています。下のボタンをクリックすると、内容の詳細が表示されます。
ワークショップ期間中に参加者とのグループトークや写真撮影、終了時に自由記述のアンケートを実施しました。また、参加者にはデジタルログブックでプロセスを記録してもらいました。加えて、主催者は各日の終わりにディスカッションをし、気づきや考察を短いレポートにまとめました。
本ワークショップでは、循環型経済やサーキュラーデザインに関する予備知識の少ない参加者が、colourloopの素材を使った実践と''試行錯誤''を通じて、サーキュラーデザインを体験する機会となったと考えています。また、展示会は参加者同士、展示来場者とのコラボレーションやアイデアの共有の場の可能性も感じました。「サーキュラ・フロー・マップ」の演習は、「人とモノの流れ」を意識し、全体的なサーキュラーデザインを実現するための考えを整理する上で、貴重な演習だったという参加者の声がありました。
ある参加者は、循環システムのタッチポイントを(サービスを通じて)つなぐだけでなく、「循環の速度と頻度」に注目することも重要だと述べました。本ワークショップへの参加を通して、循環型プロダクトデザインおよび循環型サービスにおける新たな気づきや着目点を得たと考えられます。
参加者からデザイナーの役割が「モノをデザインする」から「社会をデザインする」ものへと変化していることを実感し、新たな視点を得たという感想がありました。デザイナーには、社会、ビジネス、価値観を総合的に捉える必要がります。製品そのものだけでなく、ユーザー、生産者等、ステークホルダーと共に作り上げるサイクル全体を見渡すことが求められています。「素材から生産工程、そして使用後まで、自分の作品がどのように循環していくのか」を考えることがデザイナーの務めであると捉えられます。ワークショップ終了後、多くの参加者が「循環型社会について学び続け、今後の活動に活かしていきたい」と意欲的でした。また、リサイクル、リユース、ゼロ・ウェイストデザイン、サービスデザイン、ソーシャルデザイン、輸送のデザインなど、サーキュラー・エコノミーの中でも、それぞれがさらに探求したいテーマがいくつか挙げられました。
サーキュラー・エコノミーへの道のりは複雑で、時に意欲を削がれることもあるかもしれません。しかし、ある参加者が述べるように、「環境への影響や循環を意識することは、アイデアの妨げになるのではなく、新しいアイデアを創出するきっかけ」になるでしょう。
私たちはワークショップ''Design for Circularity''はデザインの学生や実務家のサーキュラー・エコノミーに関する能動的な学習を促進し、サーキュラー・デザイン戦略を実践するための有望なプラットフォームであると考えています。特定の文脈や戦略から始めることで、学習者がその複雑さに圧倒されたり、意欲を失ったりする¹ことなく、循環型経済をより広くとらえるための足がかりとして機能することができる、という仮説をもとに設計されたワークショップにおいて、参加者らは「分解のためのデザイン(Design for Disassembly) 」の具体的な課題に積極的に取り組みました。参加者らの振り返りなどから本ワークショップは、特定のデザイン戦略に焦点を当てたデザイン課題がサーキュラー・デザインを導入するために効果的な方法である可能性がある、と考えています。
「サーキュラー・フロー・マップ」
「サーキュラー・フロー・マップ」は、サーキュラー・ビジネスモデル、素材の代替、ライフサイクルに関する考察を促す演習です。実践的なプロトタイピングを補完する役割をもち、参加者は自身の製品やサービスのコンセプトが循環型経済の枠組みの中でどのように位置付けられるかを可視化し、全体的な視点から把握することができます。
デザイン・シナリオと企業との連携
循環型経済が発展するためには、デザインプロセスの早い段階で(ローカルな)ステークホルダーと共同することが重要です。しかし、循環型経済が非常に概念的で理論的であるという認識と、循環型経済が実際にどのように実施できるのかについての情報不足が、循環型システムへの移行を妨げています。理論と実践を組み合わせた''Design for Circularity''ワークショップの形式は、教育機関や企業において循環性を学ぶ新たなツールとしての可能性をもつと考えられます。また、循環のための技術と志を持つ企業とデザイナーを引き合わせ、製品や素材の閉じた循環(closed loop)に向けて協力し合える場になるだろうと考えます。本ワークショップは、デザイナーが企業の循環能力(サーキュラー・コンピタンス)に基づいた「デザイン・シナリオ」に取り組み、議論を促します。パイロット版であるWS1.0とWS2.0では、colourloopのリサイクル素材とcolourloopの現状をテーマにしたデザイン・シナリオを作成しました。シナリオはプロトタイピングのためのガイドツールとして機能し、コミュニケーションを促し、アイデアを創出するきっかけとなり、理論を越えて、実際のニーズやサーキュラーデザイン手法の適応について、より詳しく知り、考えるための方法となり得ると考えるからです。
全体として、「Design for Circularity」ワークショップは私たちにとってかなり実りある経験となりました。
循環型経済のためのデザインは、多くの循環のためのデザイン戦略や理論、ステークホルダーが関わっているため、複雑な問題であるとされています。参加者は、循環型経済やサーキュラーデザインについてほとんど予備知識がなくスタートしましたが、前半の膨大な情報を消化することができたようです。参加者の皆さんがグループとして考えた部屋のコンセプトや、colourloopのリサイクル素材を使ったプロダクトからワークショップで学んだことをバランスよく解釈していると感じられました。多くの参加者にとって、このワークショップはデザインを学ぶ上で貴重な体験であり、今後のデザイン実践のために循環型経済への理解を深める刺激となったようです。
本ワークショップを学習ツールとして規格化するためには更なる調査とデータが必要です。2回の開催を通して、本ワークショップが循環型社会構築のための包括的かつ実践的なガイドとなるような貴重な知見を参加者からのフィードバックや観察から得ることができました。第一目標は、学部生の初学者を対象に循環型経済やサーキュラーデザインの基本的な仕組みを紹介する学習ツールを構築することです。 また、サーキュラーデザインにおけるより具体的なテーマや専門性に焦点を当てた、修士課程レベルのワークショップの設計もしたいと考えています。
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¹ G Dokter et al. Cards for Circularity: Towards circular design in practice. 2020 IOP Conf. Ser.: Earth Environ. Sci.588 042043.
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