研究室の概要
米国では科学的根拠 (evidence) にもとづく政策立案や企業経営が推進されてきました。代表的な例が教育政策です。2002年には「落ちこぼれ防止法」(No Child Left Behind Act) と「教育科学法」(Education Sciences Reform Act) が成立し、自治体や教育現場には科学的根拠に基づいた意思決定が求められるようになりました。一方で、日本では科学的根拠あるいはエビデンスという言葉自体を耳にする機会は多くなりましたが、それが政策立案や企業経営に反映されているかというと未だ十分でないように思います。たとえば、2010年から国際財務報告基準 (IFRS)の任意適用が認められ、それ以降多くの日本企業がIFRSを導入していますが、IFRSが高品質な会計情報の提供に寄与するのかに関して日本では十分な検証と議論がなされたとは言えない状況にあります。また、2019年改正会社法により、一定の株式会社を対象に社外取締役の設置が義務化されましたが、社外取締役導入の効果に関して十分な検証と議論がなされたとは言い難いでしょう。このようにエビデンスを軽視し、勘や経験にもとづく意思決定を繰り返す状況がこのまま続くのであれば、長きに渡る経済の低迷を脱することは困難を極めるかもしれません。こうした中、石田研究室では財務会計や財務報告の分野において企業経営者や政策立案者が直面している問題を取り上げ、その解決策を科学的根拠にもとづいて探っていくことに重きを置いています。
研究テーマ
石田研究室で扱うテーマは財務会計あるいは財務報告の領域であれば原則何でもありです (e.g. 利益調整、利益の質、無形資産、IFRS、アナリスト、業績予想、ESG、サステナビリティ)。ただし、独自性があること、学術的・社会的意義があること、データに基づく検証を行うことの3つの要件を満たすことを求めています。実際にどんなテーマを扱うかについては指導教員と相談しながら決めていくことになると思います。なお、管理会計、会計監査、証券投資論、コーポレートファイナンス、銀行論などの分野を研究したい方、分析アプローチとしてケーススタディ、インタビュー、数理モデルを用いたい方は他に適した研究室があるのでそちらを紹介させてもらいます。
想定される進路
石田研究室は2025年度新規開講となるため、OG・OBがいません。そのため、実際の卒業生の進路を掲載することはできませんが、大学教員、コンサル、シンクタンク、アセットマネジメント、投資銀行、事業会社などが想定されます。
スケジュール
修士課程
修士課程では基礎体力作りに重きを置きます。具体的には、修士課程1年次に会計学のトップジャーナルに掲載されている論文を大量に読みこなし、学術論文を読むためのスキルを身につけるとともに、学術研究とはどんなものなのか、すぐれた研究にはどんな要素が必要なのかを考えます。またそれと同時に、計量経済学やStataなどの統計ソフトの使用方法を学びます。修士課程2年次には、各自で研究テーマを定め、修士論文を執筆します。
博士後期課程
博士後期課程ではより良い研究を行えるよう研究のアイディアを練ることに重きを置きます。良い研究であるためには、独自性があること (uniquness) 、学術的・社会的意義があること (significance) 、エビデンスが頑健であること (plausibility) の3つの要件が求められます。博士後期課程の3年間はこれら3つの要件を満たす研究を行えるようアイディアを練り、そのうえで3本の論文を執筆し、博士論文を完成させます。
志望者へのメッセージ
文系で大学院進学と聞くと「大学院まで行く必要があるのか?」「将来就職できるのか?」と疑問を持つ方も多いと思います。しかし、近年、日本においても科学的根拠にもとづく政策立案や企業経営に注目が集まっており、そのようなエビデンスを提供できる人材の必要性は増していると言えます。一方、文系の学部ではそれほど高度な研究を要求されないことが多いため、学部レベルの知識とスキルではこうした社会の需要を満たすことが難しい状況にあります。それゆえ、大学院に進学し、科学的根拠にもとづいた意思決定ができるようになることには相当程度の価値があると思います。さらに、会計という学問分野自体が社会的な需要が非常に高いため、会計の分野で修士号あるいは博士号を取得することは皆さんの価値を一層引き上げることに繋がると思います。なにより、会計の研究は面白く、人生をかける価値があります。興味があればぜひ石田研究室に飛び込んできてください。なお、石田研究室は学外の方からの応募もお待ちしています。もし興味があればいつでも連絡をください。必要があれば、学部4年生のゼミに参加してもらい、定期的に研究の報告を行ってもらっても構いません。
おすすめテキスト
大学院進学にあたって事前に読んでおいてほしいテキストは以下のとおりです。★が増えるほど上級のテキストになります。
【財務会計】
桜井久勝『財務会計講義 第25版』中央経済社 [Link] ★
伊藤邦雄『新・現代会計入門 第6版』日本経済出版社 [Link] ★
大日方隆『アドバンスト財務会計 第2版』中央経済社 [Link] ★★
※この他に簿記2級くらい持っておいてもいいと思います。
【コーポレートファイナンス】
岩壷健太『なるほどファイナンス』有斐閣 [Link] ★
リチャード・A・ブリーリー他『コーポレート・ファイナンス 第10版 上』日経BP [Link] ★★
リチャード・A・ブリーリー他『コーポレート・ファイナンス 第10版 下』日経BP [Link] ★★
【実証会計】
【計量経済学】
山本勲『実証分析のための計量経済学』中央経済社 [Link] ★
山本拓『計量経済学 第2版』新世社 [Link] ★★
西山慶彦他『計量経済学 (New Liberal Arts Selection)』有斐閣 [Link] ★★★
【ミクロ経済学】
神取道宏『ミクロ経済学の力』日本評論社 [Link] ★
【経済数学】
尾山大輔・安田洋祐『[改訂版]経済学で出る数学』日本評論社 [Link] ★
Q&A
Q1. 入試情報はどこを見ればいいですか?2026年度入学試験から選抜方法が変わっていますので注意してください。
A1. 一橋大学のHP [Link] を確認してください。
Q2. 個別に連絡を取ることは可能でしょうか?
A2. 大丈夫です。[Mail] にいつでも連絡してきてください。
Q3. 学外からの応募になりますが不利になることはありますか?
A3. ありません。内部であろうが外部であろうが、一定の要件を満たせば受け入れます。不安があればいつでも連絡をください。
Q4. 会計の分野で大学教員になることは難しいですか?
A4. 簡単だとは言えません。ただ、多くの大学に会計学の教員ポストがある一方で、教員の供給が追いついていないことを踏まえると、他の分野に比べれば比較的容易だと思います。
Q5. 修士課程に進学したら、博士後期課程に進まなければなりませんか?
A5. 修士課程を修了したあと博士後期課程に進学せず民間に就職する形でも問題ありません。
Q6. 学部の時に会計学を勉強していなかったのですが大丈夫でしょうか?
A6. 大丈夫です。ただし、上にあげたテキストをしっかり読んでおいてください。
Q7. 学部の時に大量のデータを用いた研究をしたことがないのですが大丈夫でしょうか?
A7. 大丈夫です。修士課程で統計ソフトの使用方法も含めて教えます。
Q8. 博士後期課程からの入学も可能でしょうか?
A8. 修士課程でこちらが求める水準に達していれば問題ありません。そうでない場合は修士課程から入ってきていただく形になります。
Q9. 働きながらでも博士号まで取得することは可能でしょうか?
A9. できればフルタイムで大学院生をやったほうが良いと思います。もし働きながらということであれば金融戦略・経営財務プログラム [Link] を受験したほうが良いと思います。
Q10. 大学院生に研究するためのスペースは割り当てられますか?
A10. マーキュリータワーの一室 (8名部屋) の一席が割り当てられるはずです。院生であればマーキュリータワーには24時間365日入ることが出来るので、そこで研究を進めることができます。
Q11. 大学の近くに住んだほうがいいですか?
A11. 一橋大学国立キャンパスから通学に1時間以上かかるようであれば一人暮らしをして大学近くに住んだほうがいいと思います。ただ費用のこともあるので、そこら辺はご家族と相談してください。
Q12. 大学院生に対する経済的な支援はありますか?
A12. 修士課程・博士後期課程ともに日本学生支援機構の貸与型の奨学金 [Link] が用意されています。また、博士後期課程では日本学術振興会の特別研究員 (DC1・DC2) [Link] や弊学の一橋大学博士イノベーション人材育成プロジェクト [Link] という給付型の支援制度があります。
Q13. 指導教員と学生との師弟関係はありますか?
A13. 師弟関係はありません。フラットに議論ができるよう、呼び方も「さん」付けをお願いしています。ただし、教員・学生ともにお互いに敬意を払うことは忘れないようにしましょう。
Q14. 大学院では日々どのくらいの研究量が求められますか?
A14. 使用できる時間のすべてを研究に振り向けたほうがいいと思います。研究だけでなく、講義の予習・復習や自習しなければならいことも多いため、毎日相当程度の時間は必要になるかと思います。
Q15. 大学院は楽しいですか?
A15. 楽しいです。研究だけに注力できる5年間は最高の時間だと思います。