界面の現象を理解することは、洗剤、表面処理剤などの界面材料だけでなく、デバイス材料開発などの最先端材料を開発においても重要になります。我々は、有機分子が基板上に集合・配列を形成するメカニズムの解明や界面現象に及ぼす影響を明らかにするとともに、新規表面改質材料の開発やデバイス応用を目指した研究に取り組んでいます。
低軌道(LEO)上では、紫外線により酸素分子が分解した原子状酸素"AO"が高速で飛び回っています。軌道衛星にはポリイミドフィルムなどの機能性有機材料が搭載されていますが、AO衝突によって著しく劣化することが知られています。
我々のグループでは、ポリシルセスキオキサン(POSS)がAO暴露に伴いガラス状態に似た強固なシロキサン(Si-O)結合ネットワークを形成することを利用し、軌道衛星表面の保護を目的とした表面コーティング材料の開発に取り組んでいます。
耐AO性が高く、取り扱いやすいPOSS誘導体を開発するためには、1)修飾置換基構造と耐AO性の相関解明、2)濡れ性(塗布性)制御、が重要な課題になります。まずは課題1に取り組むため、様々な修飾置換基を導入したPOSS誘導体を合成し、その耐AO性を調べました。その結果、良好な耐AO性を得るためには、POSS間の配置を近づけて、シロキサンネットワーク構造を形成しやするような分子デザインが重要であることを見出しています(Acta Astronaut. 2024)。
なお、本内容はJAXAとの共同研究になります。
POSS配列形成による耐AO性向上
原子が基板上に吸着するメカニズムが数多く調査されてきた一方で、二次元分子配列が形成されるメカニズムはあまり調べられてきませんでした。我々は、水素結合のような分子間相互作用が比較的強く働く分子を設計し、その分子配列形成メカニズムを走査型トンネル顕微鏡(STM)によって調べました。その結果、平衡状態ではある一定濃度で急激な分子配列の被覆率増加が起こるといった興味深い挙動が確認されました。この挙動を従来のLangmuir型吸着モデルで説明しようと試みたところ、再現することができませんでした。これはLangmuir型吸着モデルでは、吸着した物質同士の相互作用が働かないことが前提条件として組み込まれているためです。実際に観測されるSTM像には、明確な分子間相互作用によって規則正しい分子配列を形成する様子が映し出されています。そこで、我々は基板に吸着した分子が「核」となり、分子間相互作用によって「伸長(核成長)」する協同性モデルを分子配列形成メカニズムに取り入れました。その結果、この被覆率変化を再現することができ、基板上の分子配列は分子間相互作用によって成長するということを世界で初めて証明することに成功しました(Chem. Commun. 2015)。
このモデルには核形成と伸長の二つの平衡定数が組み込まれているため、伸長の平衡定数では、いわゆる分子間相互作用にあたるといえます。実際に、アルキル鎖長と伸長平衡定数の間には明確な相関が確認され、分子配列内の相互作用の定量化にも成功しています(Chem. Eur. J. 2015)。
加えて、この協同的組織化を利用して、光反応を利用した高感度な分子配列スイッチングにも成功しました。
なお、本研究は京都大学松田研究室(当時博士後期課程)で実施した内容になります。