有機エレクトロニクス
ーOrganic Electronicsー
ーOrganic Electronicsー
有機電界効果トランジスタ(OFET)、有機EL、有機太陽電池などの有機エレクトロニクス材料は、無機材料では実現が困難な「柔軟性」「軽量性」「透明性」「波長選択性」などの特徴を示します。例えば、分子構造をチューニングすることで吸収波長を制御できるため、特定の波長のみ選択的に応答するフォトディテクタや、無色透明でありながら発電可能な太陽電池の開発が可能になります。分子構造の設計次第で、様々な特性をもったデバイスを実現できることがこの分野の魅力の一つです。我々は構造有機化学、光化学、量子化学、界面科学の学理に基づいて、従来では成しえない機能性有機半導体材料の開発やデバイスの高性能化を目指した研究開発に取り組んでいます。
近赤外光は太陽光に含まれている800 nm以上の目では見ることができない光で、高い生体透過性、物質透過性を示します。近赤外光に対して選択的な応答を示す半導体材料は、近赤外光のイメージング・センシングや無色透明な太陽電池材料といった様々な分野への応用展開が期待されています。一方で、このような特性を持った分子の開発例は限られており、また分子を設計する指針も明確ではないという課題がありました。
分子の吸収バンドは電子遷移が許容か禁制になるかによってその強度が大きく変化します。そして、この電子遷移の選択律はLaporteの規則により判別することができます。この規則に基づくと、電子遷移に伴って、軌道の対称性が保持される場合は禁制となり、軌道対称性が反転する場合は許容になります。そこで本研究では、分子軌道の対称性に着目して、可視光範囲で起こりうる全ての電子遷移を禁制、近赤外光領域の電子遷移のみを許容になるような軌道配置をもった分子設計することにしました(図左上)。設計した分子Py-FNTz-Bは理論計算から、近赤外光域に相当するHOMO→LUMO遷移が許容に、可視域の遷移となるHOMO→LUMO+1遷移とHOMO−1→LUMO遷移の二つが現れますがいずれも対称禁制になることが予想されます(図左下)。
実際に合成したPy-FNTz-Bは近赤外光選択的な吸収特性を示し、溶液やフィルム状態で無色透明な特性を示しました。加えて、開発した分子をもとに、トランジスタ素子を作製すると、近赤外光を照射に伴って電流増幅が起こり、吸収スペクトルに応じた波長選択的な光センシングを実現することに成功しました。このような近赤外光選択的な分子設計指針は、無色透明な有機太陽電池や近赤外光フィルタ、熱遮蔽フィルムなどへの応用展開が期待されます。
本研究成果はオープンアクセスで論文(Adv. Sci. 2024, 11, 2405656)が公開されています。プレスリリースも行っていますので、興味をお持ちの方はご一読ください。