分子エレクトロニクス
ーMolecular Electronicsー
ーMolecular Electronicsー
単一の分子を金属電極間に接合することで電子回路として機能させる試みを分子エレクトロニクスといいます。分子設計指針に基づいてナノメートルスケールの回路構築や整流性の発現など、目的に応じた機能を付与できる観点から次世代の微小素子として有用視されています。単分子の電気的特性は、分子のワイヤ長(電気を流す距離)によって異なる挙動を示します。ワイヤ長が短いと電子は”トンネル現象”によって電極間を移動する量子的なふるまいを示すに対して、ある一定以上の距離になると分子内の複数のサイトを電荷が飛び移る”ホッピング現象”によって電荷が移動するといったユニークな挙動を示します。
我々のグループでは、このナノスケールの世界で起きる分子導線の量子的現象・電気的特性を理解し、次世代の微小素子応用に向けた新しい分子導線の開発に取り組んでいます。具体的には、
1)電極と分子の接合部”アンカー基”や、電気を流すパーツである”ワイヤ(導線)部”の構造に着目した、構造と電気伝導度の相関解明
2)ホッピング領域における高効率な長距離電荷輸送システム開発を目指した新しい分子設計指針の提案
の二つに焦点を当て、研究に取り組んでいます。
分子導線の長さが数ナノメートル以上になってくると、分子内の電子準位(ホッピングサイト)を足場としながら電荷が飛び移るホッピング伝導機構により電荷は輸送されます。一般的に、電荷輸送の距離が長いほど電気伝導度は低下します。加えて、単純に共役が長く広がったオリゴチオフェンのようなπ共役分子の場合、様々な電子準位が発生するため、サイトによっては電荷がトラップされてしまい電荷輸送効率が低下してしまいます。このような背景から、長距離の電気伝導度特性を向上するための分子設計指針を得ることが重要な課題でした。
これまでの研究では、長距離でも電荷伝導度が低下しにくい分子導線の開発に取り組み、オリゴチオフェンの共役長を一定間隔でねじった構造(6Tseg)nを設計することで、分子のホッピングサイトをそろえ、長距離でも一定の電気伝導度を維持できることを明らかにしています。一方で、このようなオリゴチオフェンはユニット単体の伝導度があまり高くはなく、これは単結合でチオフェン間が結ばれているため、自由回転により、キャリア注入に伴った再配向(再配列エネルギー)によるエネルギーロスが大きいことが要因として考えられました。そこで、本研究では、ユニットの電気伝導度を上げるためにエネルギーロスの小さい剛直な縮環構造を一定間隔でねじった構造(TBID)nを設計しました。実際に、この化合物は再配列エネルギーが低下することで、キャリアが飛び移る際の活性化エネルギーが低下することを実験的に明らかにし、電気伝導度も従来の系と比較して大きく向上することを証明しました。
本研究成果は、分子構造と分子内ホッピング伝導の相関を明らかにした研究であることに加え、エレクトロニクス材料開発の高効率化に貢献する結果であるといえます(JACS 2024, 146, 23529.)。プレスリリースはこちら。
なお、本研究は大阪大学大学院基礎工学研究科の夛田博一教授、山田亮准教授、名古屋大学大学院工学研究科の大戸達彦准教授との共同成果になります。